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省力化や新しい有機肥料など、地域でチャレンジの先陣を切る。自分の挑戦ノウハウを若手に伝える

松澤農園  松澤浩二さんプロフィール

九戸村でトマト農家を営む松澤さんは二戸市出身。奥さんが九戸村の出身で、 結婚後奥さんの実家に婿に入った。結婚前まではトラックの運転手をしていた松澤さん。
奥さんの実家がトマト農家をしていたので、その手伝いから農業の経験をスタートさせた。トラック運転手から、未経験の農業の世界に飛び込んだため、戸惑いはあったそうだ。やったことがない世界だったので、手伝いくらいなら……という気持ちで始めたが、だんだん農業の楽しさがわかってきて、経験を積むうちにこうやってみたいという想い・欲が芽生え、自分でやってみたいという気持ちになり、義両親がやっているハウスを何棟か分けてもらい、自分の農園を持ち、10年目を迎えている。

こだわりは土づくり

一般的な農家は、農協から苗を買って自分のハウスや畑に植えて育てて収穫するが、松澤さんは種から蒔いて、苗作りも行っている。小さな種が大きくなって、そこからトマトが収穫できる。収入は後からついてくるものだが、栽培している過程など達成感があり、惹かれるものがあるという。
婿に入って農業を手伝うまで、松澤さんは農業や家庭菜園もやったことがなかったそうだ。自然が相手なので大変なことばかりだったが、松澤さんは育てる楽しさにのめり込んでいった。
「一番こだわっているのは土作り。土作り一つで作物のできは全然違うし、どういう肥料・堆肥を入れるかで変わってくるので、自分なりに新しいものを試しています。美味しさはもちろんだが、収量が増えるなどの結果が出ると嬉しいですね」と松澤さんは語る。
土づくりにこだわる松澤さん。
どんなに良い苗でも、土が悪ければ育ちが悪く、良い作物はできない。農業の基本は土作りだと教わった松澤さんは、有機肥料にこだわりを持っている。土の中には元々微生物がいて、作物を美味しくしてくれる。その微生物を増やすことができる有機肥料は欠かせないそうだ。土にとっても良いトマトを作る上でも重要だが、作物を育てていく上では難しさもある。九戸村には約20軒のトマト農家がいるが、有機肥料を使っているところは松澤さんのところを含めて、1/4ほどしかいない。
化学肥料と違うところは肥料を散布しないといけない量が多く、作業が多いというところにあるという。松澤さんは機械を使うことで少しでも省力化できることを期待し、省力化に関してのリサーチや研究を進めている。

省力化への挑戦

有機農業でトマトを栽培するにあたり、耕した畑に有機肥料を散布する作業は一苦労だ。一人で作業すると、ハウス1棟につき1時間がかかるという。いくつものハウスで栽培していると、それなりに時間が取られてしまう。
 今、松澤さんは肥料の散布の省力化への取り組みとして機械化を検討している。リサーチする中で、「ブレンドソーワ」という機械の存在を知り、試験的な導入を検討している。複数の肥料を混合散布でき、作業の省力化と低コスト化が図れるというものだ。これを使うことで、これまで1時間かかっていた作業が1/4〜1/5の時間に短縮できるという。松澤さんは、そうすることで他の作業に時間を回すことができる上、農繁期の人材不足を解決できる糸口になると考えている。

省力化を実現した後にチャレンジしたいこと

省力化によって新たな取り組みにチャレンジできる可能性も広がる。
今後チャレンジしたい取り組みとして松澤さんが例に挙げたのは、規格外野菜の加工やブランド化だ。
規格外野菜については、形が悪いものなど、どうしても出荷できないものが出てきてしまう。食材となるものなので無駄にしたくないという想いがある。農家の仲間には業者に頼んでトマトジュース等に加工している人もいるが、加工場に運んで、ジュースにしてもらって、それを販売するとなると、手間暇がかかる。今の状況では、仕事が忙しくて加工や販売などを検討したり対応する時間がないが、時間が捻出できれば考えてみたいという。
また、個人農家としてのブランディングにも関心を持っている。現在、松澤さんは作ったトマトを全て農協に出荷している。九戸村のトマト農家は全部で20軒ほどいるが、どれだけ自分が美味しいトマトを作っても、農協への出荷だと岩手県九戸村のトマトにしかならない。
「こだわりを持って作っているので、自分の名前でブランド化できればというのはずっと考えています。ゆくゆくは自分たちで選果して箱詰めして市場に持っていきたい。一ブランド化してネットで販売したいと夫婦でも話しています」
自ら販路を作ることは簡単ではない。トマトはサイズもあるので、選果機を導入する必要があるので、コストもかかる。実現するにはお金や販路の開拓、ホームページの作成など様々なことが必要となるため、ゆくゆくは取り組んで行きたいと考えているそうだ。

省力化や新しい有機肥料の導入等、松澤さんが新しい取り組みを率先して行う理由

九戸村の農業の課題は高齢化・後継者不足だと松澤さんは考えている。九戸村では、70代、80代になってもトマト農家を続けている人が多いという。その人たちの子供達が後を継ぐという話もあまり聞かない。松澤さんのような若い人は限られているため、70,80代の農家さんたちが離農してしまうと農家は減ってしまう。
松澤さん自身は結婚をきっかけにたまたま農業を手伝う機会ができて、やっているうちに自分でやってみたいと思ったが、それがなかったら、今こうして農家はやっていないと思うと語った。
九戸村でも「九戸村ナインズファーム」という農業者を育てる施設があり、2-3年学んでそこから独り立ちすることもできるという。そこには20-30代の若い人もいる。ただ、そこも興味がある人しか来ないので、松澤さんはどうやって今の若い人たちに農業に触れて心を掴めるような機会を作れるかについて課題を感じている。
松澤さんが農業を始めた時、松澤さんをよく知る人たちからは、その見た目からあいつが農業なんてできるのかという目でみられることも多かったそうだ。だが、松澤さんはこだわり・信念を持って農業に取り組んでおり、これまで結果を出してきている。村で農業の表彰を毎年しているが、松澤さんはトマト部門で7年ほど表彰されてきた。昨年は総合部門でも表彰されたという。

「結果を出していると、頑張っているなという目で見られるし、それを見た若い人が農業に興味持ってくれて農家を始める人が増えてくれたと感じています。家に肥料等の業者が来て新しい肥料などを紹介されると、基本的に全部試すようにしています。ダメだったらダメで、良いものは使い続ければいい。まずはやってみないとわからないところがある。それをどんどんやるようにしている。やることによって、自分より若い農家にこれは良い、どう使えば良いかなどアドバイスもできる。そうすると、若い農家がうちに質問や相談に来てくれます。
農業を知らない人は汚いもの、稼げないもの、辛いものというイメージがあると思います。自分も実際そう思っていたところもあるので、それを変えていきたい。これくらい稼げるというものを示して、楽しさを伝えていけると若い人が増えていけると思うので、若い人たちたちが興味を持つ見せ方が大事だなと感じています」

松澤さんも30代と若いうちに農業を始めたが、もっと若いうちに始めればもっと動けてもっとチャレンジできたのではないかと思うことがあるそうだ。
「若い世代にもっと農業に興味を持ってもらえるようにしていきたい。もちろん、自分自身も今からでもまだまだいろんなことに挑戦していきたいと思っています」と松澤さんは力強く語った。

農業に関心を持つ若い人に向けてのメッセージ

「自分も会社勤めの経験もあります。会社勤めにもメリット、デメリットがあります。会社勤めは、体調が悪いといっても休むことができるように、自分の代わりもいます。農業は自分の代わりがいない大変さもありますが、自分がやらなきゃ、という覚悟も持てます。人間関係の疲れもないし、自分の好きなように目標を立てて、自分のペースや計画で進めていけることも農業の魅力だと考えています。
百姓は毎年1年生という言葉があります。気候は全ての状態が一緒ではないので、同じことをやっていけばいいということは有りません。それが農業の醍醐味であり、今年はこうしてみようという工夫ができ、うまくいけば自信になる。
農業の魅力は「とにかくやればわかるさ」だと思うので、まずこの楽しさに触れて見てください!」

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