性暴力報道に関してのお願い


ジャニー喜多川氏、そしてジャニーズ事務所における性暴力被害について、多くの被害当事者たちが声を上げている。
声を上げている、と言っても、この話は今始まった訳ではない。長い時間、多くの被害当事者たちが声を上げ続け、そしてこの社会はそれを、無視し、時に嘲笑い、「噂話」として消費してもきた。
ジャニー喜多川氏の加害行為が未曾有の性暴力事件として報じられ、その実態を論じる声が連日マスコミを中心とするメディアや、SNS、さまざまな場で聞こえてくる。ここまで長きに渡り無視されてきた声であるのにも関わらず、断片的な情報を元に、各氏それぞれに持論が交わされる。
その声のありようの中には、被害自体を矮小化するような声もある。また、性暴力というものの実態を知ることなく無責任に投げつけるような声もある。縦横無尽に交わされる言葉そのものに傷つきを抱えている人も、多くいることは想像に容易い。
性暴力被害にあい、今を生きている一人の当事者、サバイバーとして、性暴力をめぐる報道や、それらへの反応を公表する人たちに、お願いしたいことがあり、今回はこのnoteを書くことにした。


①「性暴力被害について話す」ことを当たり前なことだと思わないでほしい

多くのサバイバーにとって、自らの被害についてを振り返り、言葉にすることは困難を伴うことです。思い出すだけでも辛く、言葉にする、声にすること自体が精神的に大きな負担となることがあります。話した後に体調を崩したり、精神的に不安定になったりすることも珍しいことではありません。
それでも話そうとする時、そのことの必要性を自ら考え、必死に声を出している場合も多いと思います。ジャニーズ性加害問題当事者の会の石丸志門氏は会見等においてその必要性を「正義」という言葉で語っていましたが、それぞれに、そうして強い思いを携え挑む必要があるほどに、自らの被害を公表し権利を主張するということは、大変なことです。
性暴力サバイバーに、性暴力被害の実情についてを社会的に説明する責任はありません。被害にあい、今を、これまでを生き抜くことをしているだけで、本当に大変なことです。大変な事態を生き抜いてきたという中で、敬意を持って遇される必要があります。
性暴力について話す。それは加害者や周囲のそれら被害を傍観してきた人々の社会的責任を負わせるためという目的もあれば、これ以上の被害を生まないため、また、被害にあったことに対する補償や支援を求めるため、自らの経験に対し一定のピリオドを打つため…それぞれに、様々な理由があると思います。
しかし、それらが誰かの知識欲や興味を満たすためではないのは明らかなことです。性暴力サバイバーの語りは、性暴力サバイバーのためにあります。本来は語りたくもないプライベートな事柄を語るのは、自らや周囲の人、過去の自分達や、未来のためにすることです。
語らないことを選ぶ多くのサバイバーがいます。自らが生き抜くための選択に、何も間違いはありません。そして、語ることで生き抜く人たちもいます。全ては、自らの選択で行われるべきことです。
しかし、語ることを選んだサバイバーを前にしたとき、私たち社会がやるべきことは明確で、それは安全に語ることが出来る場所を作るということです。不安全な場にサバイバーを置くことは許されません。声を上げる、それだけで大変な負荷をサバイバーたちは負わされています。サバイバーが被害について、より安全な場で話せることは、被害の実態についてを明確にしていくためにも役に立つでしょう。
サバイバーたちには、語る権利と同時に語らない権利があります。どちらを選ぶにしても、私たちはその安全を守らなければなりません。性暴力サバイバーが自らの被害を語ることは、当たり前なことではありません。私たちがその声に耳を傾けるとき、そのサバイバーたちがいかに勇気を振り絞りその場所に立つに至ったのかということへの、敬意を持つことが重要なことです。

②性暴力被害に関しての知識を身につけてから取材にあたってほしい

性暴力が及ぼすサバイバーへの影響について、また性暴力加害がどのような社会構造の中で発生し続けてきたかということについて、知識を身につけた上で取材をしてください。
①で記載した通り、性暴力について語ることは心身ともにサバイバーを疲弊させます。そして、性暴力被害について、自らで言葉にしていく過程の中でも、どのようにそれらの被害を自らの中で言語化するに至るか、様々な葛藤があることでしょう。自らを否定してしまうような時期もあれば、加害者への怒りが噴出し止めどなくなってしまう時もあるかもしれません。何も考えられない、感じないという時期も、自暴自棄になっている時期もあるかもしれません。それら全てが、性暴力を生き抜くために、その時々にサバイバーにとって大切な時間であると考えられます。しかし、性暴力が及ぼす影響について無知であれば、そうした様々な感情の動きを理解することは難しいかもしれません。「不安定」そうした言葉だけで片付けてしまうようなことも起きます。
また、性暴力加害者の権力性や支配力というものを理解していなければ、サバイバーの行動に対し「防ぐことは可能だったのではないか」「本当に被害だったのか?」などというような加害言動をしてしまうことがあるかもしれません。
繰り返しますが、サバイバーの話を聞く上で重要なことは、「安全」を確保することです。これは、最低限のことです。性暴力被害について、トラウマ反応や加害者の言動に関する知識のない人が直接サバイバーから聞き取りをすることのリスクは大きなものです。取材にあたる方々は、ぜひ性暴力についての学びを深めてください。どうかよろしくお願いします。

③傍観をやめ、性暴力の実情を直視してほしい


性暴力被害は、他犯罪被害に比べ、暗数が高い被害であることが長年言われてきました。性暴力被害に関する偏見は、多くのサバイバーに声を上げることを躊躇わせ、可視化しにくい状況があります。性暴力被害の件数は、警察による認知件数だけでは測れません。今回のジャニー喜多川による被害が未曾有の性虐待事件として報じられる一方で、多くの当事者たちがこれまで実際には声を上げてきたという事実もあります。しかしそれらは重要な事柄として捉えられることもなく、それどころか、嘲笑の的とされたり、無視され続けてきたのです。性暴力が性暴力として扱われず、傍観され続けてきた。これは大変に恐ろしいことです。
性暴力被害を予防する唯一の方法は、周囲の人間が「傍観」を止めることであると言われています。これまで、性暴力の予防というと、自ら身を守るための護身術であったり、夜道を歩かない、ながら歩きをしない、などと被害当事者に自助努力を求めるものばかりが言われてきましたが、現実の被害の中には、加害者による権力の行使や支配、自助では防ぎ得ない事情が多く存在します。しかし、加害が発生する際、その事に気づき、介入出来る可能性を持つ周囲の人間がいる場合が多いということも言われています。「これくらい大丈夫かな」「二人の関係のことだし」「口を出したら自分が悪い立場に立たされるかも」そうした思いから介入が出来ない人たちが、実際には多くいるということです。今回のジャニー喜多川及びジャニーズ事務所による加害は、まさに内部的にも圧倒的権力によって行使された支配構造が加害を増長させ、誰も介入しないという事態を招きました。そしてその権力構造はマスコミ、メディア等にも及び、サバイバーたちの声が封殺されてきました。傍観者しかいなかったのです。そういった意味では、「未曾有の加害」を生んだのは、まさにこの、傍観する社会そのものであるということです。
事実を明らかにする、という前提に立つためには、まずこの「傍観してきた当事者」としての、組織構造、マスメディアの姿勢を捉え直す必要があるのではないでしょうか。ジャニー喜多川という性加害者の、権力と支配の構造に、社会全体が飲み込まれているのです。

④サバイバーをエンパワーできる報道のあり方を目指してほしい

性暴力に関する情報に触れるということは、それだけで多くのサバイバーにとって心身への負荷が大きなことです。自らの被害についてではなくとも、それらの情報を見聞きすることから自らの被害についてを想起し、心身に重大な影響を及ぼすこともあります。日常生活をなんとか送っていくために、性暴力に関する情報に触れないよう暮らしているサバイバーにとって、現在のテレビを見てもインターネットを見ても新聞を見ても街中でも、あらゆる場で性暴力に関する情報が垂れ流される状態というのは、危険を伴うものでもあります。
しかし、ここで記載した①〜③が保たれた状況の中で報道がなされたのであれば、状況は少し変わるかもしれません。
サバイバーが声を上げたことに対しての敬意が払われ、トラウマに関する情報が明確に踏まえられ、加害者、組織、マスコミをはじめとした社会全体の傍観を反省する声が聞かれる状態であれば。ただ、自らの被害からの症状に苦しみ、孤立するサバイバーに対し、あなたは悪くないのだと、一人ではないのだと伝えることも可能なのではないでしょうか。

報道は、性暴力サバイバーをエンパワーすることも可能であると思います。どうか、当事者たちをエンパワーする報道を目指して欲しいのです。

⑤今日から具体的に実施してほしいこと

性暴力被害に関する報道について、今後実施してほしい具体的なことは以下になります。

・性暴力報道をする際、「これから性暴力被害に関わる情報をお伝えします」という前置きをしてください。突然の性暴力に関する情報に、サバイバーたちは心身の負荷を感じます
・性暴力被害に関する情報を無理に聞き出したり、断片的な情報での想像で語ることをやめてください
・取材者は性暴力被害に関する知識を研修等を通じ明確に得てから取材を実施してください
・テレビ等におけるコメンテーター等を含め、性暴力サバイバーに対する二次加害言説を行わないよう徹底してください。それらを防ぐために、番組内に必ず性暴力被害に関する専門知識を持つ人をおいてください
・性暴力報道を行う際には、相談先の提示など、サバイバーが見ていることを前提に情報提供を行ってください

記事は以上で終了となりますが、ご賛同いただける方など、ぜひ記事を購入して応援いただけると嬉しいです。購入された資金は、LGBTIQA+の性暴力サバイバー支援を行うBroken Rainbow - japanへの寄付とさせていただきます。

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