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残り約1メートル12

 カタカタ。カタカタ。
 人の声よりもキーボードの音がよく聞こえるこのオフィスでは、切磋琢磨する仲間たちが働いています。

 チームにの成績は毎度毎度発表され、皆楽しみにも恐れもしていました。でもそんな環境だからこそ、営業成績が伸びるのでしょう。

 「そろそろですよ。」
 「うん、行こうか。」

 カズユキはチームリーダーである先輩に声をかけました。これから取引先とのミーティングです。このご時世ではありますが、直接会いたいと先方が仰ったのでタクシーに乗って向かいます。

 運転手に行き先を伝えていると、先輩が少し船を漕ぎました。

 「あ。」
 それでもすぐに持ち直して、気まずそうに笑いました。

 「寝不足ですか?」
 「悪いな、嫁と遅くまで話し合ってたんだ。」
 「…仕事のこと、また言われたんですか?」
 「まぁな、こんなに遅くまで働いてるなんておかしいってよ。」
 「大変ですね。」
 「…まぁ、言ってることは分かるけどな。」
 「…早く落ち着くといいんですが。」
 「そうだな、絶対成功させて嫁をびっくりさせてやる。」

 仕事と家庭、その両方を守ろうとしている先輩がグッと拳に力をいれました。

 「…がする。」
 「ん?何か言ったか?」
 「あ、いや、このプロジェクト長引く気がするなぁって。」
 「嫌なこと言うなよー。」

 カズユキは笑ってごまかしました。
 
 「吐き気がする。」
 なんて『切磋琢磨する仲間』に聞かせる訳にはいかなかったのです。

 
 つづく
 以上、らずちょこでした。
 ※この物語はフィクションです。
 ここまで読んでくださった皆様に感謝を。
 ではまた次回。
 

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