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残り約1メートル①

 「あと少し」で夢が叶う。 
 「あと少し」勇気を出せば。
 「あと少し」で幸せが掴める。

 でも、その「あと少し」が怖い。
 
 夢が叶った後はどうなるの?
 勇気を出した後ダメだったらどうなるの?
 幸せが掴めた後はどうなるの?

 これは、そんな3人のお話です。

 「…で、次も泊めてほしいと。」
 「お願いユキ!晩御飯は作らせてもらうから!」
 「あんたねぇ…。」

 パンッと手を合わせて頭を下げるミユキを見ながらユキトはため息をつきました。

 「いい加減、彼氏でもない男の家に転がり込むのやめたら?」
 ユキトはカラカラとアイスティーの氷を回しながら言いました。もう夏は終わったというのにまだまだ蒸し暑い日が続いています。
 「ユキなら大丈夫でしょ?女に興味ないんだし!」
 「…外でユキって呼ばないでってば。」
 「お願い!今度のオーディションは絶対受けたいの!」
 「まぁそれは応援してるからいいんだけど…。」
 「これに受かればあの新浪恭介と共演できるの!チョイ役だけど…。」
 「…アンタそういうのペラペラ喋るもんじゃないよ。すごいけど。」
 「でしょ?!」

 ミユキは既に何度もオーディションを受け、何度も不合格の連絡を受けていました。ただ、たまに合格することもあり、少しずつ舞台に立つことも増えてきました。

 ユキト自身、ミユキは映える顔立ちだし、演劇サークルにいたときは誰よりも演技がうまいと太鼓判を押していたのです。

 だからミユキがオーディションの度に東京のユキトの家に泊まることをつい許可してしまうのです。

 「分かったから、頭あげなさい?」
 「やったぁ!ありがとう!」
 「チーズインハンバーグね?」
 「わかった!」

 俳優特有のよく通る声は、周りの人間にも聞こえたのでしょうか?

 「なんだ、2人もこのカフェにいたのか。」
 
 スーツ姿の男性が親しげに話しかけてきました。
 
 「あ、カズユキ。今休憩中?」
 「ああ、ここ空いてる?」
 「いいよね、ユキト?」
 「…うん。」

 カズユキと呼ばれた男性が座ると、ユキトの姿勢が変わりました。
 

 つづく

 以上、らずちょこでした。
 ※この物語はフィクションです。
 ここまで読んでくださった皆様に感謝を。
 ではまた次回。

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