【短編】 ひこうき雲
彼はなんとも悲しいことに誰からも愛されることなく育ちました。
親は彼を産んだ後、子育てをめんどくさがり施設に預けました。その施設は子どもたちの扱いが最悪で、何人かの子どもたちは命を落としてしまうようなところでした。
彼はそれでも何とか幸せになろうと施設を飛び出し、自分の身は自分で守っていきました。
そんな彼の一生懸命な姿にひかれて、好きだと言ってくれる人が現れました。
嬉しくて涙を流しながら自分も好きだと言おうとすると、相手が不思議そうな顔をしています。
「さっきまで、ここにいたのに。」
彼は驚きながらもここにいると訴えました。しかし、声は届きませんでした。
「夢でも見ていたのかな。」
相手は悲しそうに呟きました。
彼は流したままだった涙を拭こうとして気づきました。
自分の手が見えません。それどころか、自分の髪も身体も見えません。
彼は誰かに愛されると身体が透けてしまう体質の持ち主でした。今まで愛されたことなどなかったので、この時初めて気がついたのです。
「こんなやつを誰が見てくれるんだ。」
彼の嘆く声も誰にも届きませんでした。
「見えなくなっても、愛してることは変わらないよね。」
相手の去り際に放った一言は、彼に届いたでしょうか。
以上、らずちょこでした。
※この物語はフィクションです。
ここまで読んでくださった皆様に感謝を。
ではまた次回。
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