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残り約1メートル⑪

「あの子ったら…。ちゃんと他のも受ければいいのに。」
 ユキトは部屋を出てミユキへの愚痴を呟きました。ユキトからしたらミユキがどうして受けるオーディションを制限してるのか分からなかったのです。

「はあ…、今日は修正が来ないようにしないと。」
 作業場に向かいながら進まない気を無理やり身体とともに動かします。仕事は好きでしたが、今日は何だか何もしたくない気分です。

 「大丈夫、大丈夫。」
 電車を待ちながらスマホを操作して聞く音楽を変えます。

 『こんな夜に思い出させないで』
 こないだダウンロードした曲を再生しました。こんな重い気分のときにはあえて暗い曲を聞いてとことん落ち込むのに限るとユキトは考えていました。

 『大嫌いと私を拒んでほしいの』
 ボーカルの優しくて切ない声がユキトの想いを増やしていきます。ああ、確かに。好きになってくれないのなら、せめて諦めたいと自然と拳に力が入りました。

 「…できないよね。」
 何度考えても婚約者のいる友人に気持ちを伝えた後、幸せな未来が待っているとは思えないのです。最も幸せな未来でも、カズユキとは友人でいられるかどうか分かりません。もちろん今の関係は確実に壊れて、気まずくなるでしょう。

 「…。」
 電車に乗り込んで適当に空いてる席に座り、目を閉じました。眠ってしまいたかったのですが、どうしても眠れずにただ目を閉じているだけになってしまいました。

 電車はユキトが全く動かなくても、勝手に進んで目的地まで連れていきます。そう望んだのはユキト自身でしたが。


 つづく
 以上、らずちょこでした。
 ※この物語はフィクションです。
 ここまで読んでくださった皆様に感謝を。
 ではまた次回。

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