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残り約1メートル⑩

 ユキトの家でミユキはコーヒーを飲みながら、ぶつぶつと何かを呟いていました。オーディションの役作りのようです。

 「じゃあアタシ行くからね?戸締りお願いね?」

 とカバンを抱えたユキトの声も聞こえていないようです。

 「…違う、違うのです。わたくしはそのように考える女ではございませぬ。」

 「…ああ、ユーリィ。あなたにだけは理解していただきたかった。」

 「愛しのユーリィ…。あなたに愛されないのならわたくしは…。」

 いつもとは明らかに違う口調、明らかに違う目つきでぶつぶつと呟くミユキの姿は誰が見ても普通ではありませんでした。恐ろしいほどの集中力でした。

 ぐぅ~…。

 「…あ。」

 自分のお腹の音でようやく空腹に気がつきました。さすがにユキトの冷蔵庫から物を漁ることはしたくなかったので、財布を持って外に出ました。

 「ちゃんと食べないとね…。」

 コンビニは高いので近くにあったスーパーに行きました。サラダと春雨スープ、サラダチキンと16穀米のおにぎりを買いエコバックに詰めました。皆と外食したりバイトのまかない以外は大体このメニューでした。

 もうとっくに飽きているのですが、俳優になるための身体づくりのためには仕方ありません。もう彼女にとって食事はただ身体に必要な栄養を詰め込むだけのものでした。

 「はぁ…。唐揚げ食べたい…。」

 そう言いながらも、何とか理性で押さえつけ、健康的な食生活を送っているのです。

 「食べる前にプランクとスクワットだけやっておこ。」

 筋トレも欠かしません。俳優なので。

 「今度こそ受かりたいな…。」

 彼女は何故か、倍率の高い、受からなさそうなオーディションにばかり応募していたのです。

 それが野心から来るものなのならまだよかったのですが。


 つづく

 以上、らずちょこでした。

 ※この物語はフィクションです。

 ここまで読んでくださった皆様に感謝を。

 ではまた次回。

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