残り約1メートル④
それからすぐにミユキも席を立ち、会計を済ませました。深いため息をつきながら、あまり進まない足を何とか動かします。
アルバイト先の居酒屋のことは嫌いじゃないのですが、早く辞められるぐらい俳優業で稼ぎたいと本当に、本当に願っているのです。
「はぁ…。」
いつの間にかベテランになってしまった自分の身を嘆きながら、誰よりも早く準備に取り掛かります。
「あ、先輩。お疲れ様ですー。」
今出勤してきた後輩は、大学の講義を終えてから来たのでしょうか。大きめのカバンを肩にかけています。
「あ、お疲れー。荷物重そうね。」
ミユキは彼女の肩にカバンの紐が食い込んでいるのを気にしながら言いました。
「そうなんですよー!もう論文大量に出されちゃってこんなに参考文献読まないとだめなんです!」
キィーっと本当に嫌そうな顔でカバンの中身を見せてくれました。確かに分厚い本が数冊見えました。
「へー、こんなに読まないといけないの?」
「そうなんですよ!もー!ゼミの教授ドSすぎません?!」
「ねー、これいつ読み終わるの?」
「分かんないですー!」
うわーんと嘆きながら着替える後輩をじっくり観察しながら話を聞きました。女子大生とはこんなものなのか、と演技の材料にしているのです。
「あ、ミユキちゃん、ちょっといい?」
後輩の女の子が更衣室へ向かっていくのを見送った後、店長が話しかけてきました。
「あ、これはもしかしたら。」
とミユキは嫌な予感がしました。
つづく
以上、らずちょこでした。
※この物語はフィクションです。
ここまで読んでくださった皆様に感謝を。
ではまた次回。
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