1人の職人と恋人の話【後編】
エミルは待ちました。あの子はきっと動き出してくれる。僕に微笑みかけてくれると。
しかし、人形は動きません。
エミルはその子に服や髪飾りを買い与えましたが、もちろんありがとうの言葉はありません。
「どうして君は動いてくれないんだ…。」
街を行く人形たちを恨めしそうに睨みます。エミルはだんだんやつれていきます。
「そうか。」
ある日、エミルはふらふらと立ち上がり、その人形の元へ向かいます。
「君は、不良品なんだね。」
そういうと、人形を倒して壊しました。
「もう一度、作り直さないとね。」
エミルは破片を拾いながら、疲れたように微笑みました。
エミルはそれからも人形作りを止めませんでした。エミルの人形は前よりも評判がよくなりました。
しかし、エミルの理想の人形は相変わらず動きません。作っては壊し、作っては壊しを繰り返していきました。
ある動き出した人形は、その様子を見てしまいました。
そして、言いました。
「理想のために作られたものなんて、それこそ人形だよ。」
その声はエミルに届かず、また理想の人形は壊されてしまいました。
終わり
以上、らずちょこでした。
※この物語はフィクションです。
ここまで読んでくださった皆様に感謝を。
ではまた次回。
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