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1人の赤い髪の人魚の話

 大好きだった黒髪を赤に染めた。理由はしごく単純で、男にフラれたから。

 黒髪が好きだった理由も、その男が褒めてくれたからだった。

 美容院を出たらもう夜が来ていた。ふーっとため息をつきながら歩き出すと声をかけられた。

 何だか自暴自棄になっちゃって、そのままその男の家に着いてった。

 「…みたいだ。」

 男が何か言ったけど、聞き取れなかった。男の方を向いたら、そいつは、

 「綺麗だ。」

 とだけ言った。何だか素直にありがとうが言えなくて、

 「聞き飽きてる。」

 なんて嘘をついた。いや、これでいいんだ。どうせこの真っ赤な髪も虚勢なんだし。

 でも男の着てるブルーのシャツが近づいたとき、全て見透かされた上で受け止められた気がした。

 このままこの海を泳いでもいいかもしれない。

 今だけ人魚になってあげる、真っ赤な髪を真っ青な世界に漂わせてあげる。

 大好きな黒髪は、隠したままで。

 以上、らずちょこでした。

 ※この物語はフィクションです。

 ここまで読んでくださった皆様に感謝を。

 ではまた次回。

 

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