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【映画感想】ザ・ホエール

奇跡的に俳優復帰したブレンダン・フレイザー主演作、公開を楽しみにしてました!
今回の映画感想は、本年度アカデミー賞「主演男優賞」「メイクアップ&ヘアスタイリング賞」を受賞したダーレン・アロノフスキー監督作『ザ・ホエール』です🐋


あらすじ

愛する人を亡くしたショックで過食症となり、引きこもり生活を続けてきた大学教師のチャーリー。彼の体重は272キロにまで到達し、歩行器なしでは歩くことすらできません。内臓は脂肪で圧迫され、呼吸をするたびに喘鳴が聴こえてきます。親友である看護師のリズから「病院に行かなければあなたは助からない」と忠告を受けますが、チャーリーは頑なに拒否。症状の悪化で死期が近いことを悟ったチャーリーは、離婚が原因で疎遠だった17歳の娘、エリーとの関係を修復しようと決意をします。しかし、8年ぶりに再会した娘の心は荒みきっていて―――。

人生最期の数日間を描いた男の物語

この映画の最大の特徴は窮屈さで、画面比率は4:3で構成されています。
画面の中に目いっぱい映る巨体なチャーリーと小さな部屋。彼は歩行器なしでは歩けないほど太っているため、外に出ることもできません。つまりこの映画は室内劇なのです。
狭い空間で繰り広げられる人間関係、過ちへの後悔、偏見、鬱・・・LGBTQや信仰の違いによって迫害を受ける場面も多くあります。心の傷をえぐるような描写と救済を求めるチャーリーの姿に涙が止まりません。人生最期の数日間で、果たして娘との絆は取り戻せるのか?結末をぜひ見届けてほしいです。

得るべくして得たアカデミー賞

チャーリー役のブレンダン・フレイザーは映画『ハムナプトラ』シリーズでお馴染みの有名な俳優さんですが、アクション場面での負傷や結婚破綻、業界から受けた性的暴行の公表を機に仕事が減り、引き篭るようになっていきました。「もう俳優復帰はないかもしれない」と思われたなかでの『ザ・ホエール』の主役獲得。彼にとって12年ぶりの大きい役です。監督自身も、この物語の主役をキャスティングするのに10年の月日を費やしたそうです。
フレイザーはチャーリー役を完璧にこなすため、肥満症の人々から話を聞きながら長期リハーサルを行い、毎回4時間かかる特殊メイクと重たいファットスーツで撮影に挑みました。
まるで本物の脂肪のような自然な容姿と、俳優の渾身の演技力。アカデミー賞に選ばれたのも納得の作品です。

個人的な感想

あまりにも無力でやるせない。でも心のどこかに引っかかるような素晴らしい映画だったと思います。
手を差し伸べる人が近くにいたにも関わらず、身も心も分厚い壁を作り、身動きの取れなくなったチャーリー。決して万人受けするような性格の持ち主ではなく、感情移入が難しい人もいたかもしれません。それでも、心に傷を負った彼がジワジワと弱っていく姿は、観ていて胸が張り裂けるような気持ちになりました。物語終盤のブレンダン・フレイザーの演技は本当にすごくて、涙がボロボロ出ました。『ハムナプトラ』のときとは姿も役柄も全然違いますが、やはり彼にはこれからも俳優として活躍してほしいですね!
個人的に最も感情移入してしまった登場人物は娘のエリーでした。偶然にも私自身、エリーと同じような幼少期を歩んできたので・・・父親への怒りや悲しみ、世の中すべてに嫌悪感を抱くエリーにとても共感しました。「もし私がエリーの立場なら父親を許せるだろうか?」映画を観終わったあとはそんなことを考えてしまいました。

作中で度々語られるエリーのエッセイは、ハーマン・メルヴィル著の『白鯨』が原作です。クジラへの復讐に魅入られた捕鯨船の船長エイハブの物語で、まるでチャーリーとエリーのような関係だと感じました。感情のままにエッセイを書き殴り怒りをぶつけるエリーと、それを全て受け止め緩やかに死を待つチャーリー。一度浜辺に打ちあがって傷付いたクジラが立ち上がることは難しいでしょう。浜辺に佇み海を見つめるチャーリーは、自由を求めていたのかもしれませんね。

らゆらゆ

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