【ライヴ動画＆原稿】死ぬこと以外かすり傷

【原稿】

「死ぬこと以外かすり傷」
この言葉をはじめに言った人は、きっとものすごく苦労をしたんだと思う。多分、貧乏とか虐待とか愛する人の裏切りとか死別とか病気とか事故とか災害とか戦争とか核兵器汚染とか種の滅亡とか。
それに比べると、そのひとつも経験してない私が、死ぬことにけっこういい線まで近づいたという経験が全然ない私が、「死ぬこと以外かすり傷」なんて言ってもかっこうがつかないなと思う。
この言葉の意味はきっと、「死ぬこと以外なら、たとえどんなに失敗だって、災難だって、とりかえしがつくよ、いつか笑って『かすりきず』だったと思える時がくるよ」「だから失敗しても落ち込むなよ、前向きにやろう」てことだと思う。

そう、どんなにでっかい傷だって、死なない限りはかすり傷。

いれずみなんかほらなくても
手首なんかきらなくても
腹なんかきらなくても
指なんかきらなくても
領収書はきっていいよ
身銭なんかきらなくていいよ
苦しいのも、苦しいフリも、しなくていいよ、してもいいよ。

きる きる いきる きる きる いきる きず きず きずな？

「傷に腹持つ者同士だから、絆は深いよな」
「この傷をもってない人には、私達の痛みは分からない！」
「この傷をもった人は、こんな傷を持っています。」

きる きる いきる きる きる いきる きる きる くぎる わかる人

傷ついた分だけ強くなる、と言って、全然傷ついてない人をバカにする人。
傷という目印がないと、自分の居場所が、立ち位置が、分からない人。

きる きる いきる きる きる いきる みす みす のがす みるチャンス

「原爆ドームとか行くやつなんなの？　なんでわざわざ金払って怖い思いすんの？」
「ジェットコースターとか乗るやつなんなの？　なんでわざわざ金払って怖い思いすんの？」

きる　きる　いきる　きる　きる　いきる　やす　やす　しんじる　きれいごと

私、渋谷でVRゲームセンターに行ったことあるんですけど、そこでお化け屋敷体験をやったとき、友達と二人で入ってマッサージチェアみたいな椅子にしばりつけられて、ヘッドギアとヘッドフォンつけられたんですけど、私の方はヘッドフォンから怖い音がたくさんなるんですけど、ヘッドギアの方はいつまでたってもロゴのままで、一向に絵が出てこないんですよ。で、いつおばけ出てくるんだろう、いつお化け出てくるんだろう、怖い怖い、ってずっとびくびくしてて、ついに最後まで出てこなかったんですね。で、ヘッドギアとヘッドフォンとったあとに、「あー怖かった」って言ったら、友達は全然怖くなかった、しょぼかった、って言うんですね。どうやら私のヘッドギアが壊れてたようで、映像が出てこなかったんですよね、で、映像が出てない私のほうが、ずっと怖かったっていう。

涙の数だけ強くならない
雨降っても地かたまらない
喧嘩しただけなかよくならない
折れた骨は強くならない
かくかくしかじかなんでもない
いろいろあってはいろいろない

どうしましたー？　どうしましたー？　わかりますかー？　お名前と生年月日言えますかー？　きこえますかー？

事故とか災害で私が死んだ時に私の死体だって分かるように内臓に刺青をいれておくんだ。なんて彫るかって？　「あたり」って。外からは見えない。裏地に凝るのがおしゃれでしょ。

きる きる いきる きる きる いきる キル キル 殺す 殴る蹴る

これは戦争で銃の弾が腹に当たったときの傷。
これはあなたを産んだ時にお腹を切った傷。
これは不良４人を俺一人で相手したときの傷。
これは線路に転げ落ちた老人を助けた時の傷。

見せびらかさなくていいよ、裏地に彫るのがおしゃれなんでしょ。あなたにとって大層なご自慢の傷も、どうせ他人にとってはかすり傷。

かすり傷の自慢　時代遅れの自慢　じわじわ来る　残酷な時間

自然治癒　未然に防ぐ

戦争で夫や子供を失うのは私達で最後にして。

きる きる いきる きる きる いきる きず きず すぐ つぎ

傷つきました。気分を害しました。つぐなってください。
こちら傷があるのでお安く致します。
お前、一言多いのがたまに傷だよな。
よくも傷ものにしてくれたわね。
なんでもないです、この傷は、自転車で転んだだけです。
本当？　誰かにやられたんじゃなくて？　一人で悩まないで。

「一人で悩まないで」と言うけれど、あの、音だけが聞こえて映像が全然でないVRの最中、隣の人は映像を楽しんでいるなんて思わなかった、そういうもんだと思ってた、だから係の人に何か言おうなんて思わなかった。「一人で悩まないで」と言うけれど、そんなもんだ。

死ぬこと以外はかすり傷　死ぬときは身ひとつ　身ひとつについた　きみの傷
死ぬこと以外はかすり傷　死ぬときは身ひとつ　札束もバラバラ地位はチリヂリ　名誉もさようなら
死ぬこと以外はかすり傷　死ぬときは身ひとつ　肌身離さず　持ってていいよ、きみの傷。

神様や仏様の彫刻を彫る人は、彫る石や木の中に、神様や仏様がそのままの形で埋まっている、という。彫り師は彫るのではない、ただ、その形をノミで浮かび上がらせるだけなのだと。もう形は出来上がっているのだと。

僕たちは神様や仏さまではないから、きまった形をもっていない。
誰かの手が、風が、雨が、電波が、僕自身が、無数のかすり傷をぼくにつけ、僕の形を変えていく。

丸くなったっていいよ　
とがったっていいよ　
えぐられたっていいよ　
ただ僕を彫る手が止まらないことだけが正義だ

彫り方を、彫り癖を、生き方を、生き癖を、僕にぶつかった全てのものが僕に刻み付ける。

やがて最後の一手がぼくに致命傷を与えるだろう、それ以外の傷は、今見える傷も、もう見えない傷も、僕には致命傷ではない。

死ぬこと以外はかすり傷。

僕たちの全ては傷物だ。
僕たちの全ては傷痍軍人だ。
僕たちの全てはすねにきずもち。

だからみせびらかさなくていいよ。みせびらかしてもいいよ。

「死ぬこと以外かすり傷」written by 渋澤怜
チャック清水使用曲　モーリス・ラヴェル、セザール・フランク、ヨハネス・ブラームスetc

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★死ぬこと以外はかすり傷

2017/11/10のコンサート「死ぬこと以外かすり傷」のタイトルにちなんだ演目。

この会のタイトル、絶対みんな渋澤がつけたと思ってるだろうけど、実はツーマン相手のチャックさん発案。私はこんなこと言えるほど「傷歴」が無いのだ。でも、傷があることも、無いことも、誇っていいし、誇らなくてもいいよね。

【動画】

https://youtu.be/oHZmMhHAHdU