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引っ越しと希死念慮/家賃を2万円近く無駄に払っていた話




相変わらずものを捨てまくっている。

ものすごくデブだったんだな。

部屋が広すぎたため、いくら贅肉をつけても邪魔にならないので、シェイプアップを怠っていた。

この一か月で、もう自分の身体の体積の軽く10倍はものを捨てている。

こんなに大量の要らないもののために上乗せで家賃を2万近く払っていたのかと思うと、ああ、私のこの2年弱は、穴の空いたひしゃくで水を掬うような毎日だったのかなと思う。


私は賃貸を見るのが異様に好きだ。ひとの部屋を見るのも大好きだ。

それと呼応するように、私の小説には、実は終始ひとつの部屋で展開されるものが非常に多い。

(その名も「へや」という小説もあるし、「プルメリア、カシスローズ」「ラリる猫」の舞台もひとつの部屋に始まり終わる。最新作「インターネットであそぼ」(紙限定公開)は、売れないバンドマン・中野の部屋の描写が異様に濃く、物語のハイライトとなっている。)


その「おへや系」の私にとって、部屋は、自分の精神世界を映すものだ。

こんな話をしておいて真逆のことをいうが、実は、元々私は、割と何でも捨てられるタチだと思っている。

いざミニマリストを目指すぞと決めたら、卒アル捨てるのも何の抵抗も無かったし、他人がくれたプレゼントもがんがん、メルカリで売ってる。

大学時代は英語の教科書が重くてむかついたので背にカッターを入れて縦に割いて、上下2分冊にしていた。

まあもの限らず人間関係とかも情にほだされずあっさり切る(切られる)タイプだし、持ち物や言動においても、装飾を嫌い、簡素であけすけでズバズバしている方だ。


本来そういった気質を持っていた私が、柄にもなく、メタボな部屋に住んでぶくぶく不要物をまとわりつかせるに至ったのには、本邦初公開の、恥ずかしい秘密がある。


さかのぼること2年弱前、私が前住んでいた家の契約更新の時期に、同じく更新の時期を迎えていた、当時惚れていた男の子が、

「金なくて更新料払えねえから家出るわ、どっか友達の家に転がり込むかな~」

とか言ってたので、当時のぼせていた私は

「私が大きめの部屋に住んだら、転がり込んでもらえるかも」

と考え、わざわざ2部屋あるこの家への住み替えをチョイスしたのだ。


まじ、超――――――――ださいっしょ。


しかし、そんなおめでたい試みは驚くほど滑稽な破たんをした。

その、2部屋あるでかい部屋に引っ越した翌日に、

荷ほどきを手伝ってくれていた共通の友人から、そいつに彼女が出来たって知らされたのだ。


マジウケるでしょマジで超ウケるでしょ。2年経ってやっとインターネットに書けるようになったよふふふふん。


そんな、引っ越し翌日に役立たずとなったと思われる、この無駄に広い部屋は、しかし結局その後、海外転勤の節目で一時的に家がない女友達とのルームシェアをしたり、子猫を拾ってかくまうなど、まあ、当初の目的とは異なる形で、その広さと寛容さを、この2年弱、それなりに発揮したのであった。


しかし、ここで重要なことがある。

私はそもそも、この部屋を全然気に入っていないということだ。

床面積と2部屋あることを優先してチョイスしたから、内装とか微妙なボロさとか、目についてイラつくポイントがちょいちょいあるのだ。

特に、「元和室のくせに、フローリング貼って頑張って洋室化しました」感が半端無くて、気に入らない。ふすまとか梁が残ってる洋室なのだ。頑張ってみんなのニーズに合わせてみたけど骨は変わってない感じ丸出し。まるで、キャパシティあるっぽくふるまってたけど結局キャパ狭を露呈した私みたいだ!!(結局、ルームシェア女子も子猫も、こじらせたり迷惑かけたり喧嘩したりした)

そもそも好きじゃない部屋をチョイスしたのが間違ってた 他人のために部屋を選んだのが間違っていた。

「人に親切にしてみても、そんな自分を好きになるとは限らないな」と思った。

たとえ誰かの役立っても、その親切が、無理めな理想の自分に寄せるための背伸び行為であれば、経験値は正しく身体に入らない。


これはこれで正義なんだけど、他人に優しくても自分が幸せになるとは限らないよね


とにかく、私が言いたいのは、「かくも部屋は自分のメタファーなんだな」ということ、少なくとも私にとってはそう。

だから、今現在の私が「もうこの部屋やだ!! 今すぐ引っ越したい!!!」と思っていることは、すなわち、「もうこの私やだ!! 今すぐ変わりたい!!!」と思っていることとイコールなんだと思う。

もう、何をしてても部屋のことしか考えられない。家にいると「次は何を捨てようか」と思って部屋の中のものを見回している。あるいはSUMOずっと見てる。他の事が手につかない。ついに不動産屋でバイトを始めた。不動産屋で働くと、安く部屋を借りられるそうだ。随分とド派手なライフハックをやらかしてしまった。格安SIMで毎月5000円通信料が安くなる、不動産屋で働くと家賃もそれくらいむにゃむにゃむにゃ。

ライフハックと言えば、私はライフハックが好きみたいだ。ものすごく追求してしまう。今までは「本当にやるべきことの手前にある小さなやるべきこと(家事とか)を追求して本題に入らないなんてダメだ」なんて思って、ライフハックオタクになりそうな自分を制御してたけど、もうなんか、こうやって考察を深めてエモい文章を書いていく方向で極めていくしかないかもしれない、だってほっといても追及しちゃうんだもん。

この文章を書きながら何度もSUMOみちゃってる もう楽しさはとっくに通り越して辛くなってる。恋に近い。会いたくて内見したくて切なくなってる。早く両想いになりたい。きみにきめたい。でももっと良い相手が現れるかもしれない……

バイト先の不動産屋のサイトで、新宿でなんとか手が届く物件を見つけてしまい、うお、新宿住めんの?! プラス3000円で?! ってなってる。普通に、この辺(中野区杉並区)に住み替える予定だったんだけど。

「中央線から離れろ」という神託は受信している。みんなわかると思うけど、中央線、長く居つくと、ずぶずぶずぶと、ゴムのズボンが下がってもオーケー、な感じに、下限が下がっていく感じ。そもそもウエストゴムのズボンで外に出ても良い感じ。

西新宿のビル街とかタワマンとか見て、お金持ちの光を毎日目に入れる生活の方が、身が引き締まると思う。うん、私、今バイト暮らしだし一人暮らしだし融通がききまくるので完全に雰囲気だけで住む場所を決めてる。好きな街に住む。超シンプルだ。もう杉並区中野区はいーんじゃない?! って気がする。

この、「見栄張って新宿に住みたい」という欲望は、今の私のどんな状態を表しているんだろうか。

新宿に住んでるって言ったらみんな、新宿で飲んでる時「あいつ呼ぼうよ! 新宿住んでるし」って言ってもらえたり、新宿で終電逃した時に乱入してもらえるとでも思ってるんだろうか。それは「あいつ呼ぼうよ! 高円寺住んでるし」と高円寺で言われることよりも。


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