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『映画大好きポンポさん』

「映画は90分で作れ」
これは僕がポンポさんの中でも最も気に入っている創作哲学だ。

そしてもう一つ。
「泣かせ映画で感動させるよりおバカ映画で感動させるほうがカッコイイ」

この間『映画大好きポンポさん』映画版を観てきた。

はじめはいつもの映画評にしようかとも思ったのだが、いろいろ考えているうちに「この映画を映画のみで語る」ことは不可能だという結論に達したので今回はダラダラと思ったことを書いていこうと思う。


漫画版と映画版

「ポンポさん」の漫画版(原作)と映画版はいわば相互補完の関係にある。
原作にあった内容が映画では省かれていたし、原作になかったが映画で追加された部分もあった。

思い出せる範囲で上げてみよう。
原作をベースに追加された要素と削除された要素を書き出してみる。

【追加要素】
・ジーンの学生時代の友達(アラン・ガードナー)の存在と活躍
・映画撮影時の即興シーンにおけるマーティンおよびナタリーからのアクション提案
・編集時の苦悩
・撮影終了後の追加シーン撮影

【削除要素】
・ポンポさんのかわいいシーン
・ミスティアの夢の話
・撮影開始前のジーンとナタリーの会話

こうすることで、映画制作サイドが何を重要視し何を切り捨てたのかが見えてくる。(切り捨てるとは悪い意味ではない。映画を観たものならわかるだろう)
それはつまり「映画を作る楽しさと難しさ」だ。

原作は漫画であり、もっと言えばポンポさんというキャラクターを使った映画論だ。
だからストーリーにそこまでの重要性はない。
事実単行本換算でいえば、ジーンが映画を撮り始めるまでに100p以上使っているのに対し、撮り始めてからは30pも経たずに終わってしまう。
さらに漫画ではヒロインとしてポンポさんのかわいらしさを強調するシーンがところどころに挿入されているし、ミスティアの「自分で映画をプロデュースしたい」という夢も語られる。

これらが映画版でカットされた理由は、おそらく「本筋とは関係ないから」だろう。
追加要素を観ればわかるが、映画版は映画撮影を通して=ジーンの視点によって本作の創作論を伝えようとしている。

ポンポさんは映画プロデューサーで且つジーンの師匠でもあるが、映画版で彼女を可愛く見せる必要はない。なぜなら原作と違い映画の中で(作中作の中で)ナタリーという女優をより可愛く見せることができるから。
またミスティアの夢に関しても、彼女の夢とジーンの映画撮影には何ら関係がない。
だから苦心の末切り捨てた、はずだ。

さらに漫画内でも相当重要な、撮影前の打ち入りパーティーでのジーンとナタリーの会話。
ジーンは「現実世界から逃げて逃げてここに来た。だから僕は映画を撮るか死ぬかしかないんだ」とナタリーに話す。
創作者の狂気が最も端的に表れた箇所であるが、映画ではカットされている。

ここはアランの存在を追加し、さらに追加シーン撮影や編集のシーンを追加することでより明確に「映画として」描き出す方向に切り替えている。
創作は自分が切り捨ててきたものに支えられている。
切り捨てたからこそ糧になったものがある。
ジーンの中に眠る創作の狂気はアランやマーティンの存在を通して表出する。
ここに先述したナタリーとの会話シーンまでもを入れてしまうとむしろくどすぎるのだろう。

総じて「映画を作る漫画」→「映画を作る映画」への変換のために必要な行いだった。
それによって『ポンポさん』は映画でも素晴らしい出来になったと言えるだろう。


漫画でしか味わえないもの

だがしかし、僕は映画だけで満足しないでほしいとも思っている。
映画版はシーンを増やしてなおテンポの良い名作になっていたが、とはいえそもそもが150pもない漫画だから、どうしても若干の贅肉ができてしまっていたように思う。
というより漫画版の完成度が高すぎて、余計なものがなさすぎるのだ。

一番はやはりジーン以外のキャラクターの掘り下げだろう。
たとえば人物が出てきたときには必ず、その人物のお気に入り映画3本のタイトルも出て来る。
正直80年代以前の映画も多く僕も知らない作品ばかりだったが、それによってそのキャラクターがどういう思考を持っているのか、どういう創作をめざしているのかが一目で分かるようになっている。

さらにはそれらの映画全てに著者の紹介とレビューが載っている。
さらにさらに巻末にはポンポさんとキャラクターたちがその映画に対して語り合う書き下ろしまで入っている。
まじでこいつが素晴らしい。この書き下ろしのために金を払う価値がある。
特に最後のポンポさんの好きな映画紹介が秀逸だ。
これはできればぜひ映画版にも取り入れてもらいたかったワンシーンなのだが、入れなかったということは漫画で読んでほしいという著者の意思表示なのだと僕は受け取った。

というわけでこちらにamazonリンクを貼っておく。
マジで巻末漫画を読むために880円出す価値は存分にあるから、ぜひ買って読んでほしい。



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