『死刑に至る病』

『死刑に至る病』という映画が今月上旬に公開された。
阿部サダヲと岡田健史が主役のミステリーだ。
この前見てきたのだが、かなり面白かったので忘れないうちに感想を書いておこうと思う。

公式サイトのURLを貼っておくのでとりあえずこれを見てほしい。


総合評価

以下に感想を書き殴ったのだが、ネタバレ前に点数を見せておいた方が親切かと思ったので先に簡単な総合評価から。
点数をつけるとこんな感じ。

・ストーリー:4点
・演出:5点
・キャラクター:4点
・総合:4.3点

若干引っかかる部分はあったものの、2時間集中力が途切れることなく没頭できるいい映画だった。
かなり傑作に入る部類だと思う。僕の趣味に刺さっただけかもしれないが。


良かった点 ※ネタバレ注意 

この映画で阿部サダヲは、地域住民みんなに慕われていながら、裏では何人もの少年少女を拷問し殺害していた死刑囚のサイコパスを演じている。
彼が「起訴された24件の殺人のうち最後の1件は冤罪だ」と言い出し、大学生の主人公(岡田健史)に冤罪証明を依頼するところから物語は始まる。

僕はこの映画を、楽しい土曜の真っ昼間に見に行った。
上記の通り絶対に愉快な映画ではない。だというのに席はほとんど埋まっており、そのほとんどがカップルだった。
僕もカップルに挟まれて映画を観た。
適度な胸糞エンドだったのだが、果たしてカップルたちはこの後どんな顔で映画館を出たのだろうか……。

それはそれとしてとてもいい映画だったので、グロめキツめが好きな人はぜひ見てほしい。
とにかく阿部サダヲがすごい。もう、本当に申し訳ないが、他の役者が食われまくって食い散らかされてしまっていた。それほどまでに阿部サダヲの演技はすごかった。

「人に好かれる殺人鬼」というキャラクターは、まあ正直それなりに手垢がついているだろう。よくハリウッド映画でも人のいいお隣さんが実は……みたいなのに遭遇する(気がする)。
パっとタイトルは思い出せないけど。でもなんとなくイメージできるんじゃなかろうか。

だが阿部サダヲは違う。
彼は本物の化け物だ。

通常ああいうキャラクターは(ある程度意図的に)怪しく見えるような演出や演技がなされている。だから作中の登場人物たちは殺人鬼を信じ切っていたりするが、見ているこちらは「いつ牙を剥くのか」とハラハラすることになる。
だが阿部サダヲの場合観客までもが「このサイコパスにも善性があるのでは……」と本気で思う。思わされてしまう。

特に圧巻なのは、作中何度も描かれる主人公が阿部サダヲと面会室で話すシーンだ。
ここでは是枝監督の『三度目の殺人』でも使われていた、ガラス越しにシルエットが重なる演出を引用されている。「一般人」と「犯罪者」(こちらとあちら)を隔てるガラスに映ったシルエットが重なることで、あちら側に徐々に侵食されていく様が描かれている。

だが『死刑に至る病』はさらに一歩踏み込んでくる。
文字通り。
阿部サダヲはガラスで隔たれたこちら側へと手を伸ばし指を絡めてくる。
主人公への影響力が薄くなってきたと感じた時は平気でガラスを迂回し、こちら側へと立ち入ってくる。
画面の中で起きている事象はまさに「人を意のままに操る」阿部サダヲの闇なのだ。

だというのに主人公も観客も、最後の最後まで阿部サダヲのことを嫌いになれない。
どこかで「でも、あの人にもいいところがあるから」と思わされてしまう。
そしてラストに筋金入りの邪悪であると明かされて、僕らは彼をどこかで信じていた自分にゾッとするのだ。

良くなかった点 ※ネタバレ注意

ただ1点、どうしても良くないというか気になる部分があった。

ラストシーン。

あれは蛇足だ。
何が、というのを説明するのはめんどくさいので詳細は省くが、僕としては完全なる邪悪を描いた阿部サダヲのシーンで終わりにしてほしかった。

たまにあるんだよな、とりあえず不穏な感じで終わらせなきゃいけないと思ってる脚本。
なんかいい例がないかなと思ったらちょうどいいのがあった。
『ODD TAXI』だ。

あれと同じように全てが綺麗に片付いたと思ったら最後の最後にちょっとノイズが走った感じ。
ノイズを走らせるくらいなら阿部サダヲの顔面ドアップとかで終わってよかったんじゃないか?


終わりに

阿部サダヲはコメディ系俳優のイメージが強いと思う。
グループ魂のボーカルでもあるし。
けれど『死刑に至る病』は阿部サダヲに定着していたイメージを全て取っ払い、彼の実力を遺憾なく発揮した作品だった。

これからはエグい系阿部サダヲが見れる作品も増えていくだろう。
もしかしたら昔の作品にはそういうのもあるかもしれないし。

というわけで僕は次の休みに阿部サダヲ映画を漁ってみようと思っている。

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