『流浪の月』

昨日、『流浪の月』を観てきた。
朝の8:30に。

そんな朝っぱらから見るような作品じゃあないのだが、かなり面白かったので感想を書いておく。

公式サイトはこちら。
ほとんどの映画館で23日頃に終幕するらしいので、気になった人が行けるかどうかはよくわからない。
配信を待つべし。


総合評価

ネタバレの前にまずは簡単な総合点から。

・ストーリー:4点
・演出:3点
・演技:5点
・総合:4点

人によっては内容が気持ち悪いと思うかもしれないが、そんなことは置いておいて広瀬すずと松坂桃李の演技を見てほしい。


概要

原作は第17回本屋大賞をとった凪良ゆうの小説『流浪の月』。

父が死に母親に捨てられ、引取先で性的暴行を受けていた9歳の少女(広瀬すず)はあるひ19歳の大学生(松坂桃李)に助けられ、そのまま彼の家に居候をし始める。
二人の生活は穏やかでプラトニックなものであったが、世間では9歳の少女の誘拐事件となってしまった。
そして最終的に「ロリコンの誘拐犯」と「傷つけられた被害者」というレッテルを貼られてしまう。
それから15年後、二人は偶然の再会を遂げる。
しかしその時にはすでにお互い、別のパートナーとの新たな人生を送っていてーー。
というのが簡単なあらすじだ。

二人の関係は恋人や友人、夫婦といったレッテル貼りできないものである。
だがそれは二人にしか通じないものだ。
引き裂かれた二人が一緒にいるだけで、世界は拒絶反応を起こし排除しようとする。

作品を観た時に感じる「世界の残酷さ」は、しかし現実の自分たちにも潜むものだろう。
映画館で二人を応援していた観客たちも、映画館を出ればTwitterで誰かに暴言を吐いているかもしれない。それも勝手につけたレッテルで。
その残酷さを僕らに示すのがこの作品のテーマだと僕は思った。


良かった点 ※ネタバレあり

僕は常日頃から言っていることがある。
「広瀬すずには一生映画の中で酷い目に遭っていてほしい」

別に広瀬すずが嫌いなわけではない。
むしろ女優の中ではかなり好きな方だ。
そして彼女の演技は悲劇を演じているときに真価を発揮する。

もし見ていない人がいたら、ぜひ『怒り』と『三度目の殺人』を見てほしい。
この2作品は間違いなく彼女の出た映画の中でも傑作と評されるべきレベルのものだ。
(ちなみにどちらも日本アカデミー賞の助演女優賞にノミネートされており、『三度目の殺人』では最優秀助演女優賞も取っている)

今回の彼女は「誘拐された可哀そうな少女」というレッテルを貼られて人生に苦悩している。
上場企業に勤める彼氏(横浜流星)と同棲しており結婚の話も出ているが、モラハラ気味の彼についていけない部分もある。

ファミレスのバイトをしているが誘拐のことは同僚にも知られており、時々その話題が出るたびに辟易とする。
だが彼女にとってはそれが日常だ。
同僚の一人で子持ちバツイチの樹里はこう言う。
「逃げ場のない女にとって彼氏は生活必需品だ」と。

このセリフは後に明かされるが、まさに広瀬すずのことを指している。
「可哀そうな少女」というレッテルを剝がすこともできず、かといって一人で生きていくこともできない。
だから「自分を好きになってくれる相手」と付き合うが、彼女が相手を好きになることはない。
性的なことへのトラウマもあるだろうがなによりも松坂桃李を忘れられない。
彼女にとっては唯一自分を理解し救ってくれた、そして自分から愛することのできた相手だからだ。

で、何が言いたいのかというと、広瀬すずは松坂桃李といるシーン以外マジでずっと目が死んでいる。
顔で笑っていても目が死んでいる。
この目の死に方は本当に神がかっているので、ぜひ見てほしい。

そして松坂桃李。
松坂桃李も本当にカメレオン系の俳優だ。
どんな役をやらせても素晴らしい演技をしてくれる。
個人的に好きなのは『孤狼の血』だ。
(LV2はあまり見る気がしないので未視聴だが)

こちらも恋愛や性について他人には明かせない悩みを持っている。
作中ではロリコンだ変態だと言われているが、実は彼のコンプレックスはそれ以上に根深い。
性行為ができない=大人の恋愛ができないことから、そういうことが必要ないプラトニックな異性との関係が彼の理想だった。

だがそれを理解されないこと(理解してほしいとも思っていない)によって世間からは性犯罪者のレッテルを貼られてしまう。

さらに彼は親からも実は見捨てられている。
つまり松坂桃李もまた広瀬すずと同じく、逃げ場のない人間なのだ。
そのために、仕事をしている時も無理に作った恋人(多部未華子)と一緒にいる時も常に顔が死んでいる。

というかこの作品、どのシーンをとっても大体誰かの顔が死んでいる。
過去の同棲シーンと樹里の娘と3人暮らしのような状態になっているシーンだけが数少ない純粋な幸福のシーンだ。

なかなかこれだけみんな顔や目が死んでいる作品はないので、ぜひそこを見てほしい。


悪い点

悪いというか気になったところなのだが、樹里の娘はいったいどうなってしまったのか。
あの子供もまた母親に捨てられてしまい孤独な人生を運命づけられてしまった。だが広瀬すず・松坂桃李と疑似家族になっていたおかげで救われていただろう。

それが警察に引きはがされた後、どうなってしまったのかは何も語られない。
母親とは連絡がつかないだろうから施設送りにされてしまったのだろう。
もちろん世間的にはロリコン誘拐犯と一緒にいさせるわけにはいかないのだろうが、だとしても「友人の子供を一時的に預かっている」だけの状態から勝手に警察が引きはがしたのだとしたら、それこそ普通に誘拐なのではないだろうか?

主人公二人に関してはある意味根回しが足りずに犯罪となってしまった部分はあるのだが、預かった子供の方は全くもって非がない。
理不尽さの演出としてはわかるし、別にケチをつけたいというのでもないが、やっぱり最後子供を持っていかれた後に二人で「どこかへ流れていけばいい」といって終わってしまうのはどうなのだろう。

結局大人になりきれなかった、という解釈をしておけばいいのだろうか。


終わりに

内容が重たいわりに息がつまるような演出が少なかったので、意外と見やすい作品だったと思う。

だがそれはそれとして、長い。
2時間半は人間の集中力ではかなり難しい。

『映画大好きポンポさん』でもいっていたが映画は90分でまとまっているものの方が僕はいいと思う。
長くて2時間。

150分を越え始めると集中力と腰がきつくなり、場合によっては膀胱にも来るので、なんとか映画を作る皆様方にはできるだけ短めに撮ってもらうようお願いしたい。

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