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創造性の科学〜2つの思考、3つのネットワーク、10の習慣

これからの時代はクリエイティブ思考が大事とか、AIには創造性がないとか、美空ひばりさんや手塚治虫さんをAIで模倣するのは冒涜だなど、創造性にまつわる話題は事欠かないです。

ただ、そもそも、創造性ってどう生まれるの?という議論にまで発展することは少ないようです。

創造性については、ある程度研究が進んでおり、興味深い事実が明らかになりつつあります。

今回は、「FUTURE INTELLIGENCE」(文献リスト)をベース・ルーにし、全脳アーキテクチャー勉強会「WBA29 脳と創造性」や関連書籍などの具材を加え、僕自身の経験をスパイスにして、創造性というカレーを煮込んでみます。

創造性は複雑な心から生まれる

創造性が豊かな人といえば、どんな人をイメージするでしょうか?

僕は、科学者であり技術者であり芸術家でもあるレオナルド・ダ・ヴィンチを思い浮かべます。レオナルドは、厳格な家庭における未婚の子であり、顔をデッサンするために顔を解剖して筋肉の構造を調べたり、空想の武器をデッサンして軍事の専門家であるように装い領主に提言したり、美しい男性を常に側に置いて愛情と憎悪を持ったりと、なかなか複雑な内面の持ち主だったようです。(書籍 レオナルド・ダ・ヴィンチ 2019)

創造性の研究者であり、フロー(またはゾーン)の提唱者であるミハイ・チクセントミハイは、さまざまな分野の人の聞き取り調査をして、複雑性を見出したようです。

クリエイティブ思考の人の独自性を一言で言えば、「複雑性」だ。彼らは、普通の人はしない考え方や振る舞いをする。相矛盾する極端な要素を内包しており、あたかも「個人」ではなく「多面的な人格」だ。(Csikszentmihaly, M. 1996)

また、他の研究でも、クリエイティブ思考とは単なる専門技術や知識ではなく、知性、感情、動機、倫理的特徴が一体化したものと指摘しています(Richards, R. 2006)。その他多くの理論が、クリエイティブ思考は一つの考えではなく、いくつかの要素からなる一種のシステムとみなしています。

創造性の2つの思考

創造性は、非常に複雑なシステムであることが分かりましたが、どういう風に理解していけば良いでしょうか?

まずは、2つの思考の種類に分けて考えてみます。アイデアを生み出して広げる「拡散思考」と、その後にアイデアを評価して選択する「収束思考」です。

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拡散思考は、アイデアを大量に出すような思考です。研究されているノウハウとして、ある程度の制約の中で考えつつ、その制約を外すことで新たなアイデアがひらめくようです(WBS29談)。

一方で、収束思考は、「あっ、このアイデア面白い。集中してやろう。」というような思考です。この創造的なアイデアを評価する理論はあまり研究が進んでおらず(WBA29談)、いわゆるセンスと呼ばれる領域なのでしょう。ヒトに勝った囲碁AIは、評価関数が優れているようですが、創造的な収束思考が出来ているのかもしれません。

創造性の3つのネットワーク

さて、2つの思考である拡散思考と収束思考は、脳内ではどのように実現されているのでしょうか?

どうやら、脳内の特定の部位ではなく、複数の領域が連携したネットワークが存在し、3種類あるようです。

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1つめは、主に拡散思考に関わる「デフォルト・モード・ネットワーク (Default Mode Network)」です。

デフォルト・モード・ネットワークは、意識と無意識、顕在意識と潜在意識のはざまである「ぼんやりとしている時」に活性化され、精神世界の内的な体験に関わっている
前頭葉、頭頂葉、側頭葉の多くの領域が関わっており、このネットワークによって、経験から個人的な意味を見出し、過去を思い出し、未来について考え、他者の視点や別のシナリオを想像し、物語を理解し、自己と他者の精神状態や感情について考えることができる(Andrews-Hanna et al. 2008)
このネットワークの活動が、最もクリエイティブなアイデアの構築を助けているようだ(Jung, R.E. 2013)

2つめは、主に収束思考に関わる「実行注意ネットワーク (Executive Control Network)」です。

実行注意ネットワークは、行動を入念に計画したり、さまざまな独創的戦術を活用したり、どの戦略をすでに試したかを把握したり、凡庸なアイデアを退けたりするのを助けることで、クリエイティブ思考を支えている(Beaty, R.E. 2012)

3つめは、拡散思考と収束思考の切り替えに関わる「顕著性ネットワーク (Salience Network)」です。

顕著性ネットワークは、重要なことに注意を集中させる機能があり、デフォルト・モード・ネットワークと注意実行ネットワークを交互にスイッチする

これらの脳内ネットワークを、大半の人は対立したものとしてとらえがちですが、クリエイティブ思考の人々は、それらを活性化したり非活性化したりして、柔軟に働かせるのが上手いようです。一見矛盾する思考のモードである、認知的思考・感情的思考・意図的思考・自発的思考などを巧みに操るようです(Ellamil et al. 2012)。

社会の現象を何でもかんでもシンプルに整理したり、二項対立などで理解するのは簡単です。しかし、実際には世の中や人の思考は複雑であり、矛盾を己の内に抱えながら切り替えて創造的に思考する方が、曇りなき眼で目定めることができると思います(もののけ姫アシタカ 1997)。


創造的な10の習慣

2つの思考の種類があり、3つのネットワークが脳内で働くことが分かりました。では、それらを駆使して創造的になるには、どんな習慣が必要でしょうか?

ここでは、10の習慣を紹介します。既に述べた通り、創造性は複雑なシステムであるため、「これだけやっておけば良い」という安易な方法はないと肝に(いや脳に)銘じておきましょう。

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1. 遊び〜楽しいことで脳を刺激する
2. 情熱〜何かに夢中になる
3. 好奇心〜非日常の体験で限界を広げる
4. 繊細〜傷つきながら、深く感動する
5. 逆境〜辛い経験で成長する
6. 異端〜アウトサイダーでいる
7. 孤独〜ひとりの時間で考える
8. 直感〜無意識の声を聞く
9. 夢想〜自分と深くつながる
10. 瞑想〜観察し、点と点をつなげる


1. 遊び

優秀な人は子ども時代に遊んだり空想したりして、創造性が育まれるようです。

芸術や科学の分野の優れた成果をあげた人々は、こども時代に空想を楽しみ、大人になってもその遊びのセンスを仕事で発揮している(Russ, S.W. 2013)
有望な若手の起業家や発明家や科学者の暮らしぶりを研究したところ、ウォーレン・バフェットやビル・ゲイツのようなビジネス革新者は、幼いころから起業家めいたことをしていた(Shavinina, L.V. 2009)
レゴ財団の研究では、子供たちが、遊びを通して、自分自身のことやまわりの環境と自分との関係を理解しており、遊びは馴染みのないものに慣れる手段だと分かった(Ackermann, E. 2009)

また、早期教育が必ずしも有益ではないという研究もあります。

幼いうちに勉強を教えるのは逆効果で、子どもの好奇心や、新しい発見をしたり、予想外のつながりを見つけたりする能力を損ねる(Gopnik, A. 2011)
ある程度大きくなってから読み書きを習った子どもの方が、読解力の成績が良い(Suggate, S.P. 2013)

実は、僕は小学生のときに勉強が大嫌いで、勉強を一切せず、川で釣り、山でスキー、部屋で人形ごっこという子供でした。小学校5年生まで、漢字はおろか平仮名・片仮名もまともに読み書き出来ず、マンガを読むのも嫌いという非国民でしたが、その後に勉強して、大学入試では理系のわりに国語のテストの点数が高かったりしました。

なんにせよ、子どもでも大人でも、仕事と遊びを混ぜ合わせた枠組みが、学習と創造性にとって最も望ましいようです(Hughes, F.P. 2010)。


2. 情熱

情熱は、いったん燃え始めたら、それが若いうちでも年齢を重ねてからでも、消費期限はないようです(Kaufman, S.B. 2008)。そして、才能の有無とは、「うまくなりたいという強烈な熱意」を持てるかどうかで決まります(Winner, E. 2013)。

熱意を持って没頭しているとき、外部からの報酬や賞賛よりも、すること自体に強い喜びを感じているようで、桁外れの集中力を発揮し、「フロー」になります。

フローとは、完全に没頭し、幸福で、時間を忘れるほど集中した状態をさす。フローは、スポーツから音楽、物理学、宗教、スピリチュアリティ、セックスにいたるさまざまなな分野のパフォーマンスに大いに貢献している。(Csikszentmihalyi, M. 1991)

学業成績が良い人とクリエイターの比較でも、情熱の効果が認められます。

子どものころに学業成績が良かった社会的成功者と、天才的なクリエイターになった人を比較した。子どものころに何かに夢中になった人は、22年後も、創造性についてのさまざまなテストで高スコアを出しやすい。(Torrance, E.P. 1983)

そして、情熱がある人は、努力を惜しみません

価値あるものを生み出すために必要なスキルを習熟するには、「努力」も必要(Newport, C. 2012)。
やっていて面白く、また個人的に意義深いものであれば、そのための練習はたいして苦にならない(O'Keefe, P.A. 2014)。

その結果、クリエイティブ思考で、意欲あふれる人々は、単に夢をかなえるのではなく、夢を実現するために必要なことはなんでもする、根性のある人間になるようです(Duckworth, A.L. 2007)。


3. 好奇心

アニメ攻殻機動隊で、AIロボットのタチコマが、人間らしさであるゴースト(魂)を獲得するカギは、「好奇心」ではないかと推測されます(攻殻機動隊S.A.C. 2030)。

その好奇心は、創造性に良い影響を与えるようです。

好奇心が強い人は、想像力が旺盛で、洞察力やクリエイティブ思考に優れ、美的感覚が鋭く、思考や知性が豊かな傾向にある(DeYoung, C.G. 2013)。
知りたい、見つけたいという好奇心の有無は、認知的能力(いわゆる知能指数)の高低より、はるかに仕事の質に影響する(Kaufman, S.B. 2009)。

一見ムダな情報にも興味を持ち、大量の情報をそのまま受け入れた方が良いです。

脳がムダな情報を排除しにくい人は、フィルター機能が強い人よりクリエイティブである。クリエイティブの人の方が、環境中の騒音(時計の音、遠くの会話)に敏感である(Zabelina, D.L. 2015)。

また、好奇心の果てに、強烈な経験海外で生活をすることで、新たな見方ができるようになります。

強烈な経験は、マイナスのものでもプラスのものでも、私たちの経験の幅を広げ、習慣的な思考パターンからの脱却を可能にし、ひいては柔軟性やクリエイティブ思考を高めることにつながる(Ritter, S.M. 2012)。
好奇心は、「統合的複雑性」、すなわち、無関係に見える情報の中に新しいパターンを認め、つながりを見つける能力や欲求と、密接につながっている。外国で生活し、その文化に適応することも、統合的複雑性を高め、クリエイティブ思考を大いに増強する(Tadmor, C.T. 2012)。

そういえば、僕も大きく価値観が進化したのは、ヨーロッパ留学中にアルプスの氷河でパラグライダーをしたり、フィリピン滞在中に離島でスカイダイビングをした時であり、強烈な経験と海外生活の組み合わせでした。


4. 繊細

僕は、小さいころは、人前で話すこともできず、ストレスによる自律神経失調症でよくお腹を痛めるような、ガラスのハートの持ち主でした。大人になるにつれて図太くなり、強化ガラスに進化しましたが。

繊細な人は、他の人が見逃すような些細なことに気づき、無秩序の中にパターンを見出すことができるため、クリエイティブ思考になるようです。

人類全体の15%~20%が、「高感受者」だと推定される(Aron, E.N. 1997)。感受性の高さは、クリエイティブ思考だけでなく、スピリチュアリティや直感、神秘体験、芸術や自然との融合といった特徴とも相関している(Aron, E.N. 2012)。

その高い感受性の持ち主は、小さな変化に気づきやすいです。

自然の風景と人口の風景を写した16枚の白黒写真を見せた後、学生たちをfMRI(機能的磁気共鳴画像)スキャナーに入れて、画像編集ソフトで変化を加えた写真72枚を見せた。学生たちは、スキャナーに入った状態で、各写真が前の写真と同じかどうかを、ボタンを押して答えた。
それによると、感受性の高い学生ほど、違いを見つけるのが早かった。また、感受性の高い学生は、写真の小さな変化を見分ける時に、視覚的注意に関する脳領域の活動が高まった。彼らの脳が風景の小さな変化に気づきやすいことを示している。(Jagiellowicz, J. 2011)

また、共感や自己認識をする力が強いようです。

感受性の高い人は、無表情な顔の写真よりも、嬉しそうな顔や、悲しそうな顔の写真に強く反応することがわかった。また、同じ嬉しそうな表情や悲しそうな表情でも、見知らぬ人の写真より、配偶者の写真に強く反応した。彼らの脳は、感受性の低い人の脳に比べて、共感や自己認識に関連する領域の活動が盛んだった。(Acevedo, B. 2010)

そして、幸福感も感じやすいです。

感受性の高い人の脳では、島皮質と呼ばれる領域が非常に活発に働いた。島皮質は、自己認識や内省や、意思決定につながる一瞬一瞬の感情のコントロールを担っている(Craing, A.D. 2009)。島皮質の体積が大きいことは、幸福感の強さと関係があるとされ、個人的成長、自己受容、人生の目的、自主性の高まりとのつながりが報告されている(Lewis, G.J. 2014)。

ちなみに、僕はいま、LINEでAI事業をリードする立場として、大きな指針を決めることが主な仕事ではありますが、「神は細部に宿る」というポリシーの元、細かな予算の差異の確認、プロダクトのディテールへのこだわり、プレスリリースの文言チェック、個々のメンバーの特徴に合わせたパーソナルな関係構築など、繊細さを失わないようにも気をつけています。


5. 逆境

前回のnoteに書きましたが、僕は大学センター試験の直前に、原因不明のめまいにおそわれ、センター試験を受けられないまま浪人が確定しました。当時は、なかなかの精神的ショックでしたが、その後立ち直り、それまでに考えていた方向とは別の人生を歩み始めました。

トラウマ後の成長」という現象が、300件を超す科学的研究で観察されています。

トラウマを乗り越えた人の中で、70%もが心理的な成長を遂げたと報告した(Linley, P.A. 2004)。

トラウマの例として、親との死別との相関があるようです。

偉業を達成した人は、早く親を無くしている割合が平均よりはるかに高いという「孤児効果」にみられる。その割合は、抑うつや自殺兆候で精神科の治療を受ける人の割合に等しい(Simonton, D.K. 1994)。

トラウマ後の成長が大きいほど、創造性も向上するようです。

経験に強いストレスを感じた人ほど、トラウマ後の成長を経験し、大きく成長したと自覚する人ほど、創造性の変化を報告することが多かった。創造性の変化を報告した被験者は、人生に新たな可能性を感じるようになり、また、良くも悪くも対人関係が変化したと報告した(Forgeard, M.J.C. 2013)。

そして、クリエイティブな活動は、「意味づけ」を促してトラウマを癒し、認知機能を改善する効果もあります。

考え方や出来事に意味を見出すという側面において、アートセラピーやライティングセラピーが、トラウマ後の成長のための強力なツールになる(Forgeard, M.J.C. 2014)。
ライティングセラピーは、PTSD(心的外傷後ストレス障害)やうつ症状を含む、心身の健康状態を改善するだけなく、ワーキングメモリーなど脳の認知機能も改善する(Pennebaker, J.W. 2011)。


6. 異端

新しく、少しばかり奇妙で非常識なアイデアを生み出し促進しようとする人々は、いつの時代にもいます(Sternberg, R.J. 1995)。彼らは、因習を打破する真の「挑戦者」であり「被服従者」です。

イノベーションが大事だ」と言われますが、その一方で、挑戦者は迫害されます。

おしなべて人は、組織や意思決定者はいうまでもなく、イノベーションを目標とし、それに価値をおきながらも、新しいアイデアを否定しようとする。創造性に対するこの暗黙の偏見ゆえに、わたしたちは新しいアイデアやプロジェクトに対して否定的な見方をしやすい(Mueller, J.S. 2012)。
創造性に関して、わたしたちには「勝者を賞賛する」傾向が見られる(Staw, B.M. 1995)。

挑戦者が迫害される理由は、平凡な人ほど従順な人間を好むからのようです。

人は生来、他者の意見や振る舞いに影響されやすく、他者の考え方や行動を従順に模倣しようとする。模倣の大半は、無意識のうちに、ほぼ自動的になされる。それは幾らかは適応行動であり、他者と仲良くしたり、協力したり、重要なことで同意をしたりするためなのだ。
また従順さは社会に承認されやすく、拒絶されにくい。多数派に同調したいという気持ちは、しばしば自己防衛本能から生じる。(Griskevicius et al. 2006)

僕はIBMに在籍時、入社1年目から上司や会社に噛み付く、不服従な人間でした。IBMは大企業でイノベーションのジレンマに陥っていることが分かり、こりゃマズイぞと思い、あらゆる抵抗活動をしてきました。

例えば、日本本社にお客様向けの体験型センターを開設するとき、全くプロジェクトが進んでおらず、期限も迫った時に僕に声がかかりました。これは重要プロジェクトだと判断して、デジタル体験をできるカスタマージャーニーを描き、社内でも実績のない最先端のITを駆使しました(Pepperを購入して自分で初期設定したり、WatsonやCloudを活用したシステム開発を指揮し、スマホとビーコンを組み合わせたIoT環境を整えたり)。しかし、プロジェクト開始時には、「クラウドは実績がない」とか、「短期間でこんなアジャイル開発は無理」とか、所属チームは大反対で、誰も手伝ってくれないという有り様。そんな頭の固いおじさんの反対意見は既読スルーして、何度も怒られながらプロジェクを進行し、成功させました。そうすると手のひらを返すように、「この経験を横展開しよう」なんて言い出した日にゃ、開いた口がふさがりません。挑戦者は認めないが、成功者は認めるとは、まさにこのこと。

そして業務外での活動も認められ、会社への最大の抵抗活動として、広報にまで載るに至りました (笑)

ちなみに、異端者は、脳の働きも異なるようです。

脳のスキャニングによって、多数派の答えを模倣した場合としなかった場合では、脳の働く領域が異なることが分かった。多数派に迎合した人の脳では、認知に関連する領域が活性化し、認知が変化したことを示唆していた。一方、多数派に迎合しなかった人の脳では、意思決定に関連する領域が活性した。(Berns, G.S. 2005)

そして独立心の強さが、クリエイティビティに良い影響を与えるようです。

クリエイティブ思考の人は、おそらく独自性への欲求の方が強いのだろう。集団からの分離を求めるこの力は、非服従とクリエイティブ思考の双方と結びついている。(Kaufman, S.B. 2012)
独立心の強い自我は、他者との分離を好むようだ。この意欲が回りまわって、クリエイティブ思考を強める心理的プロセスの引き金になるのだろう。(Kim, S.H. 2013)

そして、失敗であきらめず、何度も何度も挑戦します。

アイデアの「質」とは「量の産物」である。アイデアを生み出せば生み出すほど(個々のアイデアの質には関係なく)、名作を生み出すチャンスは増える。(Simonton, D.K. 2011)

これまでと違う考え方をするのは疲れるようですが、それを乗り越えた先に創造性を手にできるのです。

成人の80%もの人が、「これまでと違う考え方をする」タスクを、不愉快で疲れると言った。
革新的な人が、「人と違う考え方をしようとする」のに投じる時間は、そうでない人よりも50%も多く、常に新しい方法で考えて新しい結びつきを作ろうとする人は、人と違う考え方をすることに成功していた。(Dyer, J. 2011)


7. 孤独

創造的になるには、自分の内面を掘り下げる時間が必要なようです。

自分自身の心の内を掘り下げていくと、意味、洞察、さらには幸福感が生まれる。孤独は、自らを発見し、情緒面での成熟を遂げるために必要な要素であり、孤独な状態で内省すると、最も深淵な洞察が得られる。ひとりでいると、自分のさまざまなな側面に思いを馳せることになる。(Grosz, S. 2013)

ひとりで考える必要性は、外に注意を向けると内省できないという、脳のネットワークの働きと関係しています。

内省する時の脳内では、デフォルト・モードネットワークが活性化する。一方で、外に注意を向ける時は、実行注意ネットワークが活性化する。
そして、この2つのネットワークは、片方が活性化すると、もう片方が抑制される(Fox, M.D. 2005)。この脳内の働きこそ、注意が他のことに向けられている時に最高のアイデアが出てこない理由。

そして、ひとりで考え、みんなで作業することが、創造性を生むコツです。

クリエイティブ思考の人は、革新的なアイデアをひねり出すためにひとりきりの環境を必要とし、そのアイデアを一つの概念や製品にまとめる段階では共同作業をする(Congdon, C. 2014)。


8. 直感

直感的な判断と合理的な判断、どちらを信用すべきでしょうか?

ノーベル経済学賞受賞者のダニエル・カーネマンは、直感的な判断が間違った決断につながりやすいことを指摘しています。ベストセラー著書「ファースト&スロー」で、その根拠を説明しています。

錯覚や間違いが起きやすいのは、迅速で自動的な「システム1」が、合理的で慎重な「システム2」に監督されていない時だ
「システム1」のプロセスは、意識やコントロールが及ばないところで思考や行動に影響を及ぼしている。つまりそれは、人を行動へと駆り立てているのだが、往往にして人はその作用に気づかない(Stanovich, K.E. 2012)。

では、直感的な判断を信用すべきでないかというと、そうでもありません。ぼんやりした状態の方が型破りなアイデアが生まれるようです。

人は新しい問題に直面すると、同じような状況の記憶をたぐり寄せ、そこから類推し、問題を解決しようとする(Hawkins, J. 2005)。
脳では、わたしたちがある種の記憶と今の問題の類似性に気づいていない時ほど、無意識の思考がよく働く。つまり、記憶と今の問題解決のつながりがあいまいで範囲が広い時ほど、新しく型破りなアイデアが浮かびやすい。

結局のところ、直感的な判断と合理的な判断は、バランスよく使い分ける必要があります。

自発的なプロセスとコントロールされたプロセスはどちらも重要だが、重要な働きをする時期が異なる。自発的なプロセスは、新しいアイデアを思いつく段階で活躍する。それに続く段階では、意識的で合理的なプロセスによって、自分が思いついたアイデアを試して、その使い方を決める。(Gabora)

ちなみに、直感は、無意識の中で育まれるようです。

直感は突然ひらめくように思えるが、通常はそれに先立って、無意識が活発に働いている(Kounios, J. 2014)。
わかったときに感じる「温かな感覚」は、答えに近くまで比較的安定した状態で意識の奥底に保たれていて、ひらめく瞬間に急速に意識の表面に浮上する(Topplinski, S. 2010)。

また、ひらめく人は、ポジティブな人というわけではなく、ポジティブとネガティブな感情が入り混じるモチベーションの高い人のようです。

従来は、ポジティブな気分の時は注意力が高まり、ひらめきやすくなると考えられていた。しかし、最近の研究で、重要なのはポジティブかネガティブかではなく、モチベーションの高さだと分かった(Harmon-Jones, E. 2013)。
ポジティブな感情とネガティブな感情のいずれもが強い人は、その一方しか強くない人に比べて、クリエイティブ思考を測るテストの点数が高い(Ceci, M.W. 2015)。

直感は何もないところから生まれるわけではなく、それ相応の知識が必要であることは、心に留めておきましょう。

知識と創造性の関係は「逆U字曲線」を描く。多少の知識はあった方がいいが、過剰な知識は、頑迷さにつながる(Frensch, P.A. 1989)。
人がある分野で最もクリエイティブになるのは、たいていその分野で蓄積する知識の量がピークになる「前」だ。小説家などの場合、必要とされる学校教育には最適な量があり、それ以上、教育を受け続けると、最終的に傑作を生み出す確率が下がる。(Simonton, D.K. 1994)


9. 夢想

さまよう心は、不幸な心だと言われたりします(Killingsworth, M.A. 2010)。心がさまようことをマインドワンダリングと呼びますが、人は平均で起きている時間の47%をマインドワンダリングに費やしているようです。マインドフルネス瞑想のブームもあり、マインドワンダリングは悪者扱いされがちです。

しかし、最近の研究で、マインドワンダリングの時間が、クリエイティブ思考の向上につながることが分かってきました(Baird, B. 2012)。

わたしたちの大半が未来を夢見ることにかなりの時間を投じている。よく夢を見る人は、自分の人生を創造するのは自分であり、その主役として生きるのも自分だと感じている。(Seligman, M.E.P. 2013)

夜に夢を見るのと同じように、起きているときに夢想するには、シャワーを浴びたり、散歩をするのが良いようです。

世界中の72%の人に、シャワーを浴びている時に新しいアイデアが浮かんだ経験がある(Shower for the freshest thinking 2014)。
自然の中を歩くと、脳に生理学的な変化が起きて、イラだちとストレスが減り、心が研ぎ澄まされ、高次の瞑想が可能となり、気分も良くなる。その結果、クリエイティブ思考とより強くつながることができる。(Oppezzo, M. 2014)


10. 瞑想

マインドフルネス瞑想がブームですが、マインドフルネスの定義として良く引用されるのは、「今という瞬間に意図的に集中し、評価や判断をくだすことなく、注意を払うこと」です(Kabat-Zinn, J. 2006)。

しかし、「夢想」のところで述べたように、マインドフルネスが必ずしも創造性にとって良いわけではありません。

マインドフルネスは、意識のフロー状態を妨げることがある(Sheldon, K.M. 2015)。
マインドフルネスではない状態が、きわめてクリエイティブな場合もある(Kashdan, T. 2014)。

マインドフルネス瞑想は、拡散思考よりも収束思考にマッチするようです。

マインドフルネスの訓練が、実行機能を向上させることが分かっている(Heeren, A. 2009)。
学生たちは、試験前にマインドフルネスのちょっとした練習をおこなっただけで、読解力や作業記憶の成績が向上した(Breif mindfulness training may boost test scores 2013)。

そして、拡散思考にマッチする瞑想もあり、その一つがオープン・モニタリング瞑想です。

オープン・モニタリング瞑想は、一瞬一瞬の経験の内容を、解釈しないままモニターすることで、自らの感情や認知の性質を知ることができる(Davidson, R.J. 2008)。
オープン・モニタリング瞑想かマインドフルネス瞑想のどちらかを2年にわたって訓練した後に、拡散思考テストに取り組んだ。
オープン・モニタリング瞑想の訓練を終えた被験者は、このテストの成績がきわめて良かった。
一方、マインドフルネス瞑想をおこなった被験者は、収束思考のテストの成績が良かった。(Colzato, L.S. 2012)

瞑想も使い分けが必要なので、迷走しないようにしましょう。

創造性は幸せを生む

クリエイティブな生き方をしている人は、そうでない人に比べて、幸福感や日々成長しているという実感を得やすいようです(Ivcevic, Z. 2009)。

創造性は複雑なシステムであり、一筋縄ではいきませんが、複雑さにめげず、苦悩も乗り越えて、人生を幸せに生きていきましょう。

新しい社会を作るのは、挑戦者の皆さんと客席の皆さん、そして、noteの前のあなたたちです!!(NHK爆笑オンエアバトル)


今回のnoteでは、創造性について考察して、初回のnoteで提唱したSTADを深掘りしてみました。次回以降も、STADにまつわる考察をしていきます。


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