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夢に舞うは胡蝶、現に横たわるは蚕蛾 -43- #ppslgr

「それで、なんで無い物を有る事に出来ると違う世界に行けるの?」
「そう、そこだ問題は」

一般には、異世界に行くというのは感覚的には場所と場所の間を移動する様な、すなわち距離的に途方もない長さの場所へ移動するような感覚で捉えられている様に個人的には考えている。だが、実際の事象としての実体は異なる。どう説明したものか考えあぐねている俺から、M・Kが続きを引き継いでくれた。

「えーと、極めて単純なたとえにするとだね。二つの世界がある場合には、その世界同士はカードの表と裏なんだ」
「カードの裏表?」
「そう」

M・Kがそのゆったりとした袖口から魔法の様に一枚のカード、表が王を示す絵柄、そして裏が魔術士を示す内容のそのカードは彼の指先でくるくると回転して見せる。

「表の世界からは裏の世界は見えないし、裏の世界からは表の世界も見えない。でも一枚のカードとしては同時に存在しているんだ」
「うーん……同時に有る、と言うのは何となくはわかるような。でも、それと最初の話はどうつながるの?」

誰にも支えられずにくるくると回転していたカードはいつしか宙に浮かぶと、ひとりでにその表面に切れ込みが入りモザイク状に裏表が入れ替わっていく。

「そう、ここからが本題。本来なら別の世界同士は実は同時に存在しているけど、双方からは存在しないように見えているんだ」
「えぇ……ちょっと待って」

まるで伝承の一休宗純和尚のように、こめかみに人差し指を当ててシャンティカは苦悩する。本当に禅問答もいい所だが、世界の本質がそうなのだから致し方ない。学問の理解とは険しい道である。

「つまり、あなた達の世界からは私達の世界は存在するけど見えなくて、私達の世界からもあなた達の世界は存在するけど見えない……そういう事?」
「うん、そういう事。そこに在る木は、真っ暗闇だと見えなくなるけど変わらずそこに存在する。要はそこに光が当たってるかどうかなんだ」
「わかるようなわからないような……やっぱりわからないわ」

長々と説明を受けてもイマイチ理解が及ばなかった事を気にしてか、わかりやすいションボリ顔を見せるシャンティカ。だが、ふと閃きを得た時特有のすっきりした顔になると俺に質問を向ける。

「じゃあ、あなたと私が初めて会った時に、あなたが途中で消えちゃったのは一時的に見えるようになってたのが解けたから……よね」
「そういう事だな」
「そうすると、この事件が解決して……M・Kさんの協力が得られなくなったら、私また自分の世界に戻るんだ」
「ああ」

そこまで話すと、不意に彼女の足が止まる。そんな彼女をいぶかしんでは連動して足を止める俺達二人。

「……そっか、そうなんだ」
「本当は、違う世界の間をほいほい行き来するもんじゃないからな」

と、不意にM・Kが俺の耳を引っ張っては耳打ちする。

(ちょっと、ここはそういう事言う所じゃないでしょ)
「しかしだな、彼女を生来の環境と違い過ぎる場所に引き留めるのはだな……」

そんなやり取りの間に、うつむいていた彼女はしっかりと顔を上げて前を見る。俺達の間を縫った虚空へ視線を向けていた。

「大丈夫、行きましょう?」

彼女に促されて俺達も前へと進む。もう少し猶予があれば良かったかもしれないが、恐らくは時間はさほどないかもしくは手遅れの可能性もあった。
足を止めていられる時間は余りない。

【夢に舞うは胡蝶、現に横たわるは蚕蛾 -43-:終わり:その-44-へ続く

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