夢に舞うは胡蝶、現に横たわるは蚕蛾 -42- #ppslgr
「あの、言ってる事全然わかんないんだけど」
「まあ、そうだよな」
俺達二人の後をついてくるシャンティカが手を挙げて質問を差し入れる。
彼女の表情は今にも知恵熱を起こしそうなほど赤く火照っては難渋した様子を見せていた。
「正直、無理にわかろうとする必要はないと思うよ?僕らの世界でも理解して使っている人はほとんどいないんじゃないかな」
「でも、気になるわよ」
「フムン」
実際問題、ソウルアバターの基幹技術とは量子値の虚数において粒子波長へ干渉、修正、励起する事で実数として変換し物理的存在として現出させる訳だ。だがこんなインチキめいた屁理屈を、大真面目に考えて理解しようとしている連中はそれこそ極々わずか。それこそ俺やM・K以外は基幹技術の研究者くらいだろう、ここのイカレ野郎のような。
「例えば、だシャンティカ。有ると無いという概念はわかるか?」
「うーん……何となくは」
「とりあえずはそれでいい。では無い物を有る様に出来るとは思うか?」
「普通は、出来ないと思う。少なくとも私には無理」
まるで禅問答めいているが、俺の頭だと極限まで噛み砕いてコレが限界ではある。
「そうだ、それは俺達の世界でも不可能なはず……だった」
「今はそうじゃない?」
「うん、そうなるね」
禅問答の続きを、M・Kが引き継ぐ。もっともここからは事実の羅列からなる歴史の話になるが。
「何もない所から物質を現出させる。それは当然僕達の世界でもバカげた夢物語のはずだったんだ、でも……一人の人間がそれを実現させてしまった」
「蒼穹の機神……だな」
「神様なの?」
「いいや、列記とした人間って言われてる。あった事はないけどね」
蒼穹の機神、始まりの根絶者、神をも屠る者、そんな大仰な通り名で呼ばれた男は、自分の個人名すら公共にあかす事はなくソウルアバターの基幹技術を各国に提供して公の場から姿を消した。
何故こんな危険極まりない技術を公開したのか、今となっては意図を問いただす事も出来ないだろう。
「あ、ちょっと待って。その人がここの親玉の可能性はないの?」
「正直言ってあのバケモノがこんなセコイ小細工する必要があるとは思えねぇなぁ……」
「だねぇ、仮に彼がここの首謀者だったとしても、直に出て来てちょちょいってすれば邪魔者なんて軒並み排除できるだろうし。僕達二人がかりでも五分に持ってけるかな?」
首をかしげてもはや見る事すらない相手との強さ比較を勘案するM・K。
「ちょい不利くらいじゃねーかな。ま、いないヤツの強さ論議なんてしても仕方ないし、そもそも奴さんが出てくるまではだーれも虚実転換技術なんて実現どころか考えすらしなかったんだ。つまりアイツは一人で新技術を作り上げた。そんな男が今更手下集めてどうこうするってのは少々考えずらい」
「うん、わかっている情報だけでも否定材料の方が多いね」
俺達のやり取りを聞いて安心したのか、一息つくシャンティカ。
「なら、良かったわ。神様になんて勝てる気しないもの」
「一応人間らしいんだがなぁ……」
とはいえ、何かの間違いで件の男が敵だとすれば俺達でも無策では勝てない。今回の件とは全くの無関係であることを祈るばかりだ。
【夢に舞うは胡蝶、現に横たわるは蚕蛾 -42-:終わり:その-43-へ続く】
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