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その黒き書に触れるな -6-

 こちらが追撃に移る前に、黒く脈打つノイズの巨人は一際激しく脈打ち、頭部らしき部位から赤いメッシュがかった漆黒の螺旋を放ち、空を薙いだ。

『!!!』

 迷わず防御行動に移る二機。俺は機体をバレルロールからの宙がえりさせ、洛陽は下半身の城塞都市部分の内、後方の一部をピザのピースをつかみ取るように抜き取り、正面に盾めいて構える。

 分厚い城塞都市構造物で出来た盾は生身の人間であればやすやすと削り取る黒い渦にも耐え、本体部分である上半身を守っているが徐々に表面が削れ、摩耗していっているのが視認出来た。

 だがそれをただ見守っているだけでは俺は済まさない。俺は自機の背部に存在する翼型スラスターを大きく展開させ、羽毛にも似た波導制御器を毛羽立足せるとそこから猛雨の如く蒼いレーザーを放つ。ゲリラ豪雨よりも激しく黒い巨獣に突き立つレーザー雨。着弾のたびに光が弾け黒いノイズがえぐれた。またも人智を超えた絶叫を挙げ仰け反り、渦の射出を中断する黒い獣。獣がもがく程に大地がえぐれ、木々が宙を舞う。

 洛陽もまた、損耗していた城塞盾を黒い獣に投げつけては、即座に両腕を頭上に掲げる。洛陽の頭上に生じるのは太陽にも似た白熱する光球。投げつけられた城塞盾を巨腕で打ち払うも掲げられた光球に身動ぎする黒獣。

『何故だ!?私が手にしたのは紛れもない外界の神のはず……!何故お前たちたった二人にこうも追い詰められるのだ!』

 初めて人間に聞き取れる言葉を放った黒い巨獣にM・Tは淡々と回答した。

「貴方は一つ致命的な勘違いをしている。神はいつだって人間の都合によって排除されてきた。であれば、私達がその黒い神を破壊できない道理はない」

 感情の高ぶりを見せぬままにM・Tは洛陽を御して掲げたマイクロ太陽を黒い獣へと解き放った。灼熱に燃える光球を避け切れず真正面から直撃を受ける巨獣。流石に一息で燃え尽きるほどヤワではなく、両腕で巨大なる光球を押しとどめながら必死に踏みとどまる。だが、

「そして、この世に現れ出でた以上、神も悪魔も滅びない道理もない。よーぅく覚えて逝きな!」

 黒い獣を対角点として洛陽の反対側に回っていた俺とその乗機が放った洛陽の光球に匹敵するサイズの蒼いスフィアが黒獣の背をあやまたず直撃、莫大なエネルギー体に挟み込まれた黒い神の獣は徐々にその姿を光の中に呑まれていき、最後には光がもたらす対消滅によるドーム型爆裂に巻き込まれた。

『バカなバカなバカなバカナばかなバッ……っ!』

 空気振動とは異なる原理で伝達していたであろう老紳士の末期の絶叫も途切れて消える。爆発の後には深々と大地に刻み込まれたクレーターと、洛陽の城塞部分によって保護された図書館が騒動と変わらない姿を保っていた。

ーーーーー

「ガス管の爆発って、誤魔化すにしても雑すぎないか?政府の広報ってば」

 数日後、”Note”内一角のバー「メキシコ」にておざなりに垂れ流されているニュース番組から俺は国立図書館の騒動が表向きにはどう処理されたのか知った。もっとも情報化社会が極まったこのご時世に何があったかなど公然の秘密の様なもので(物好きが放ったドローンによる映像がネットに流れてたし)目敏い奴らは何があったのか朧げながらに把握しているかもしれない。

「おや、これR・Vが関わってるんです?」

 テーブルの上に突っ伏してグダグダしていた俺に気を使ってくれたのか、自分の分と合わせて紅茶を用意してくれたS・Cに大手を振って答える。

「そーとも。今のご時世、車が電柱にぶつかったくらいのノリで世界が危うくなるからな」
「それはそれはお勤めご苦労様です」

 俺の回答をさして意に介さず卓に着いたS・Cと並んで同じテーブルに着く一人の人物。

「結局流出はあの一冊だけだった。ある意味大量流出からの転売騒動よりは楽だったかも。S・C、私にも一杯いただける?」
「そいつは重畳」
「ええ、多めに入れましたから」

 うやうやしく紅茶をつぐS・Cからティーカップを受け取るM・T。彼が手にしているのは俺が見た事ない、革表紙で出来た装丁の分厚い古書。

「……所で、その今持ってる一冊も禁書だったり、しないよな?」

 俺の問いかけに悪戯っぽく笑って書を差し出すM・T。

「どうかな、読んでみる?」
「いや結構、俺はありきたりなパルプでおなか一杯だ」
「そう」

 俺の返答につまらなそうに書を引っ込めてティーカップを傾けながら書を広げるM・T。いつも通り新たに仕入れた銃器について語り始めるS・C。二人を交互に見ながら俺は今度はちゃんとメキシコにも自前の武器を保管しておこうと誓うのであった。

【その黒き書に触れるな -6-終わり】

作者注記

 本作はNoteに投稿しているパルプスリンガーをモチーフに小説を書く、という企画の二作目だ。参加者は19人いるので後17本だ、ガンバレ俺。

 と言う訳で今回の主役はこちらの方。

 三宅つの=サンです。福助要素はドッカに行ってしまった。すまんなほんとうにすまん。

 つの=サンはパルプスリンガーでも歴史知識に理解が深く、読書家である事が日々の投稿内容から読み取れたのと、ご本人様が中性的キャラ造形を好んでるっぽいので思い切ってそんな感じのキャラ造形にしてみました。
 中性的な容貌のミステリアスな読書家パルプスリンガー、という感じです。

 乗機である「洛陽」はゲッターロボ系はわかるとのことでしたので真ドラゴンとかあの辺のトンデモゲッターのニュアンスにつの=サンの著作である中から歴史小説の要素を配合して城塞都市にロボットの上半身が乗っかっているというデザインにしました。ザ・ダイナミックロボ!と言う訳でご参加、本当にありがとうございました。

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