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魂の灯 -94- #ppslgr

「うおおおおおおおおぉぉぉぉっ!」
「うっらああぁぁぁぁぁぁああああ!」

バティの右ストレートが少年の頬に食い込む!
よろめきざまに返した拳が、バティのアゴをかすめ揺らす!
ふらつきながらも放ったフックが少年の鼻先を外す!
たたらを踏んで打ち下ろし気味に伸ばした拳がバティの前髪を擦る!

「……ッハア、ハァーッ……フーッ……!」
「ハァーッ……ハァーッ……!」

拳を握りしめて、両者手の届く距離で荒々しく息をついてにらみ合う。もはや目の前も目の前の相手にさえ、まともに狙って拳を打ち込むことさえままならない。だがそれでも二人はまだ、立っている。二人の姿を、今この瞬間にも地平線の果てへ過ぎ去りゆく日の光が、影を伸ばす。

「大体……ッ!こんだけ暴れる根性あんなら……ッ!もっと色々出来ただろうが!別に!なんでも!」
「そうだとしても、僕はこれを選んだ、選んだんだ……ッ!」

少年が振りかざした駄々っ子の腕振りは、外れた。避けたわけではない、ただバティの足がふらつき、たまたまかわす方向になっただけである。倒れ込みそうな身体を叱咤して持ち直すと、バティもまた腕を振り上げた。だが、当たらない。まるでフルマラソンを走りきった選手が、お互いを讃えようとして目の前で力尽きて倒れはてるがごとき有様だった。

「だったらッ、ハーッ……フゥーッ……何がゲホッゴフッ、なんでも、諦めさせてやる……!」
「やってみろ、出来るものなら……!」
「言われなくても……!」

二人は歯を噛み締め、おぼつかない全身を奮い立たせて、拳を握りしめると目の前に立つ相手をまっすぐに睨みつけた。どちらが立つか、倒れるか。身体が動く限りは、いな、意思が続く限りは終わらない。永遠にも思えた夕日のさし日が、地平線の彼方へと去った。

「アアアアアアアァァァァスネェェェェェェェエェエエエ!」
「バァァアアアアアッティィィィイイイイイイィィィイイ!」

魂のあらん限りに宿敵の名を叫び、二人は命のありったけを込めて拳を掲げ、眼前の相手へと駆けた。守りも、知恵も、全てを投げ売って、ただ自身の拳を届かせる。それだけに全てを込めてバティは拳を振り抜いた。そして、それは確かに届いた。同時に、自分に届くはずの物は来なかった。バティは眼を見開く。

少年の、アスネの右拳はバティの顔に届く寸前で、白化し、ひび割れて、砕け散っていった。彼の拳はバティへ届くことはなく、勢い余った彼の身体は、バティの胸へと倒れ込んでいった。

「アスネ!お前まさか……」
「その、まさかだよ。ひとりで皆敵に回すんだから、こうでもしないと」
「こ、の……おおばかやろうっー!」

びしり、本体であるアスネが力尽きたのに合わせて、二人が足場にしていた黒い長剣もまたひび割れる。そのまま、バティが身を起こすよりも早く剣は砕け散り、崩落した。

「ちょ、ま、ちょーっ!?」

バティの視界が、ドレッドノートの表面をなぞる。遠い、あまりにも。
バティは、宿敵の身体を掴んだまま、否応無しに落下しはじめた。

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