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魂の灯 -1- #ppslgr

「書けない……」

乱雑に本が積まれたワンルーム、暗がりの中で呻きが密やかに消えた。
パソコンの前で顔を伏せる、ぼさっとした黒髪に眼鏡の若者。モニターには、テキストエディタが開かれたまま、カーソルバーが虚無的に点滅していた。

「センセイは……どうして、オレを……」

握りしめた両拳をデスク板面に押し付けて苦悶するも、答えが出るはずもなく。問いかけは暗がりにとけゆく。それでも、苦闘の中で、若者の眼だけは死んでいなかった。

「書くんだ……オレは……!」

―――――

エメラルドグリーンとホワイトの装飾が彩る、創作商業施設Noteのメインストリート。雑多な人種が行き交う大通りから、一足路地に入り込み、薄暗がりに猥雑なジャンルの露天やテナントが並ぶ、そんな脇道を通り抜ける。

そうすると、上品で陽光に溢れた雰囲気から一変して、胡乱な、胡散臭い雰囲気の区画が姿を見せる。上品な雰囲気の店と、胡乱な店が入り混じった混沌とした世界。

そこから更にもう一歩足を踏み込んだ先に、一際胡乱な文字書き達「パルプスリンガー」がたまり場とする、古めかしい西部劇の意匠を伴ったバー・メキシコが存在していた。

西部劇のアレ、ことウェスタンドアをきしませて入ってきたのは、ぼっさりした黒髪に黒縁眼鏡、可もなく不可もなしといった感じの体格、さらにジーンズとロボットアニメのロゴが、でかく熱く描かれたTシャツを着込んだ若者。

彼が店内を見回すと、とりわけ混沌とした雰囲気の連中が、丸いテーブルを数名で囲んだグループをそれぞれ作り、自らの作業に没頭している。コーヒー、紅茶を淹れる者。流行りのエンタメについて、感想を交換する者。どういう訳かプラモデルを組み立てる者に、ただただ建設的な事は何もせず、瓶のCORONAビールをあおる者。

そんな雑然という言葉がぴったりの、混濁した店内に、若者は目的の人物を発見した。ただ一人ノートパソコンに向き合い、うんぬん唸りながらキーボードを叩く、椅子にかけたコートを初めとして全身黒尽くめの男。その男の身の回りには、見てわかるほどに雑多な武器が、身につけられている。

男が、自分に近づいてきた若者に気がつくと、声をかけた。

「よう、二代目チャンプ。俺に用があるなんて珍しいな」
「よしてくれよ、レイヴン。バティで良いって」
「そうか、わかった」

にべもなく了承すると、レイヴン、ワタリガラスを意味する呼び名で呼ばれた黒尽くめの男は、再びキーボード打鍵を再開した。したが、すぐにバティと名乗った若者に対して、続きの言を述べる。

「何か悩みがあるんだろう?」
「う――どうしてそれを?」
「深刻な顔して、普段絡んでる連中に見向きもせずに、俺の所に来たらそりゃあ何かあるんだろうなって事くらいわかるさ」
「何もかもお見通しか……敵わないなぁ。まあ、実際その通り」

卓につくバティに、レイヴンはノートパソコンをどけると、CORONA瓶を栓抜き差し出す。

「ほら、シラフじゃ言いにくい事もあるんじゃないか」
「ありがとう、でも大丈夫だ。ああいや、CORONAはもらうけど」

ヌルい黄金を一息あおると、覚悟を決めた様子で、バティは吐き出した。

「レイヴン、どうしたらそんなに毎日書けるのか、秘訣があったらオレにも教えて欲しい」

【魂の灯 -1-:終わり|-2-へと続く|第一話リンク|マガジンリンク

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