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その黒き書に触れるな -2-

 非常灯だけが灯った薄暗く、幅広い通路を白衣のM・Tと黒衣の俺が行く。
彼の案内によればこの通路は秘匿書籍を極秘に搬入するための地下通路であり、地上から占拠したテロリストは把握していない可能性が高い、とのことだった。

「本の為にこれだけの施設とは、逆説的に禁書の危険性も読み取れるな」
「日本はまだ禁書の数は少ない方。正確には蒐集、管理できている数が」

 暗に在野に核爆弾の様な本がまだ残っているとほのめかす彼にワオ、と大仰に驚いて見せる。世界のアンダーグラウンド領域にはまだまだ俺の知らないシンピテキが存在するようだ。もっとも俺はそういうシンピテキ・スカム存在を積極的に拝見しに行く趣味はないので、こういう機会でもなければ中々触れる機会はない。

 俺とM・Tが立てた作戦はこうだ。
まずは機密地下通路から秘匿書庫に最短距離で突入。遭遇したテロリストは即時無力化する。秘匿書庫に着いたら禁書の搬出状況を確認、流出した書籍を確認後は持ち出している輸送部隊を追撃して奪取、もしくは部隊ごと巻き添えに破壊。

「しかし良いのか?こちらの判断で秘匿禁書を破壊するなんて」
「私はこういう有事の際に備えて政府から対応権限を委託されている、遠慮はいらない」
「了解した」

 端的に説明する彼に了承だけ表明した。俺は必要以上に他者の過去を深掘りする悪趣味はもっていない。現場の判断で対応して良い、という事だけ認識できれば十分だ。

 こちらの想定通り、長い地下通路には幸運にもテロリストの巡回警備の対象になっておらず、すんなり地下図書への接続門までたどり着く事が出来た。近代的鋼鉄ドアが重苦しく通路と図書館を隔てている。

 M・Tへと手ぶりでここからはテロリストと遭遇する可能性が高い事を相互認識し合うと彼が持参した分厚い書物を開いたのを確認してから一気にドアを押し込む。くぐもった悲鳴、間抜けめ。

 ドアを開いた先は図書館へとつながるドアがある隔壁室であり、あっけにとられタバコを取り落としたテロリストが俺の視界に入る。一息に踏み込んで相手がアサルトライフルを掴むよりも早く超密着距離に入ると突進の勢いを乗せたボディブロウ、みぞおちを撃ち抜かれて悶絶し、前かがみになる相手に容赦なく円運動の軌跡で振り下ろしたかかと落としを延髄に食らわせる。

「ム、グ……」

 振り返ってドアで挟みこんで圧倒したもう一人のテロリストへと向き直ると、ファンシーにデフォルメされた子羊の群れにもふもふされ、昏倒していた。視線を回すと俺が打ち倒したテロリストも同様に子羊達にもふもふされていた。M・Tが行使した魔術によるものだ。彼はその歴史知識の深さに加えこのような秘せられた非科学的技術知識をも備えている。

「これで三日は目覚めない」

 断言するM・Tにうなずくと念のためテロリストの親指同士を後ろ手に回しワイヤーで拘束、手にしていたアサルトライフルとマガジン、その他の武装を取り上げる。時間は惜しいが無力化を手抜きして背後から奇襲されるのは避けたい。

 武装解除を終えると改めて地下図書室へと続くドアの前に立つ。そこからは鈍感な俺でもわかるほどの異常な雰囲気が伝わってくる。パンドラの箱の前に立つのはこんな感覚だろうか。希望の一つでも残っていればいいのだが。

【その黒き書に触れるな -2-終わり:3へと続く

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