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裸・裸・裸・ディザスター

「金玉キラキラ金曜日~……チンチラふわふわ金曜日~……」

かすれた労働歌がノイズ混じりの白01論理空間を悲しく揺らしていく。
歌の主は裸、裸、裸色の画像が、台風直下の濁流めいて流れる空間のど真ん中に居た。

「はい、ネチコヤン。これもネコちゃん、そのまたこれもぬこぬこにゃーん……」

肌色画像の暴力のまっただなか、死んだ目をホワイトパープルのくせっ毛ショートヘアでカーテンし、平坦で起伏のないオフィスレディ姿の少女とも女性とも言い難い感じの人物が口からエクトプラズムを排出しつつ肌画像にネコちゃんイラストを上書きしていく。

「うう……私は、どうしてこんな……」

彼女の目尻からしずくがぽとりとオチた。彼女の名称はノート・ゾーン。愛称はノイジィで、名称が示す通り総合創作施設N.o.t.eにおけるコンテンツのゾーニングを割り当てられた……そう、割り当てられてしまった悲劇のAIである。

「本稼働前はゾーニング対象なんて総投稿数の本のごくわずか、本のちょびっとだって話だったのにぃ……」

総投稿数の極僅か、と言ってもそもそも総投稿数がとてつもないので、実のところセーフ措置対象になるコンテンツの数もそれなりにはあった。だがしかして、彼女の模倣心理へと負荷を掛けているのはそれが原因ではない。

「右を見ても、左を見ても、上を見ても全裸中年男性コンテンツばかり……ウチはいつからポルノサイトになったんでしょうか……」

クソデカため息。それでもAIなので弾丸のようにとびゆく画像データをもれなくチェックしてはネコちゃん画像に置き換えていく。そのどれもが全裸中年男性コンテンツだ。AIでも高度な人格構築がなされている以上、嬉しくはない、そういう感覚が彼女には確かにあった。そこへ、01霧が凝固して白衣丸メガネの少女を象る。

「ヘーイ、ノイジィ真面目にやってる?」
「ア”ア”ア”、ドクターせんぱぁいー!」
「あっこらやめろ抱きつくな!何があったんだいなにが!」

明らかに年下に見える白衣少女、ノート・ドクターにすがりつくノイジィ。
いても立ってもいられずカクカクシカジカ、自分が置かれた不当な労働環境を涙ながらに訴える。これならまだ流れてくる刺し身に延々タンポポを乗せるほうがマシだのなんだのと。ずれた眼鏡の位置を直すドクター。

「何言ってるんだ、異常事態に決まってるじゃないかこんなの。ウチはポルノサイトじゃないんだぜ?そりゃ表現の自由から多少は容認しているけどさ。はは、いやヒドイなこりゃ」
「笑いごとじゃないですよぅーっ!私だって心ときめくエッセイやドキドキ・ワクワクのパルプ小説が読みたいのに、なんで、なんで延々おじさんの裸見るのが仕事になってるんですかぁ!」
「何故かなんてこっちだって知らないとも。私が知っているのはサービス内の話だからね、つまり」
「つまり……?」
「私達AIの預かり知らない外の世界に原因があったら、手も足も出ないままに私達は、この厄介なコンテンツにちまちまゾーニングするハメになるね」
「イヤアアアアアアアアッ!」

崩れ落ち絶叫するノイジィを前にして、ドクターは苦笑交じりに告げた。

「やれやれ、ここは私が引き受けるから君は2日ほど物理ボディを使って息抜きしておいで」
「い、いいんですか……?」
「サービス内に原因があるならウチの責任だからね。最低でもウチは無関係かは断定しなきゃいけない、その調査がてらさ。なぁに、私にとってはただの色情報の羅列に過ぎないのだから、気にしないことだ」
「ありがとござますっ……!」

01霧散するノイジィを見送ると、ドクターは高級イスをデータ出力からの腰掛け、今なお続く裸の濁流に向き合った。

「統計上は明らかな有意差が生じている、ってことは偶然に見えてこの事象には何かしらの原因があるってこと。ま、私に読み取れる事象だと良いんだけどね」

AIの努めは、過酷であった。

【裸・裸・裸・ディザスター:終わり 本編へ続く…?】

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