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ライフ・イズ・エンターテインメント!-2-

「うっし、まずはこいつからだ」

 バー「メキシコ」にて、白覆面の如何にもプロレスラーめいた偉丈夫、H・Mがどっさりとテーブルに積んだ紙媒体の書籍の山。それらは俺がざっと背表紙を流し見た感じだとプロレスに関する物が主だが、他にもファンタジー、バイオレンス、ニンジャ、などなど……要するにH・Mがエンターテイメントとして好んでいるジャンルの詰め合わせと言った所だ。

 金糸の髪の少女アンドロイド、K/Rはすぐに本の山を表紙ばかり視認すると口を開いた。

「マスター」
「おう、なんだ」
「マスターが用意した書籍の中には実戦における戦闘、戦術、戦略に関する書籍が存在しません。ここにあるのは全てプロレス誌、マンガ、パルプといったジャンルの書籍ですが本当にこれらがマスターが私に学習させたい内容という事でよろしいのでしょうか?」

 K/Rの言葉にがくりとテーブルに手をつくH・M。うむ、うむ、現時点におけるAIの教育というのはとどのつまり、こういう融通の利かない話だ。しかもK/Rの疑似人格プログラムは既に、基本方針として戦闘に勝利する事を最優先として設計、構築されている。それは言うなれば人間における行動方針の様な物だ。その基礎となる考え方と真逆の事をさせようというのだから、実に骨の折れる話である。

「そーだ!何一つ間違っていない、ぞ!」
「承知いたしました、しかし問題があります」
「問題ぃ?」
「私にはエンターテイメントについての評価基準がありません。このままマスターが指定する書籍をスキャンしてもマスターの求めるエンターテイメントという概念を正しく理解できない可能性が高いです」

 K/Rの言葉にしばし硬直した後、俺に視線を振ってくるH・M。その白覆面は本人の感情を反映してか困った様に一つ目アイコンがまゆ尻を下げる表情を見せた。そんな目?で俺を見ないでくれ、俺とて概要を知っているくらいでAIの教育の専門家ではないのだ。

 沈思黙考を重ねた後、俺は口を開く。

「K/R、お前さんは戦闘において勝利する事を目的として設計されているな?」
「はい、まっくろくろすけさん。私は製造段階において貴方の指摘された通りに構築されています」

 K/Rの中で俺の識別名称が更新されていない事はこの際指摘せず、話を続ける。

「であればまず、勝利条件をマスターであるH・Mが求める内容に更新すればいい、出来るか?」
「はい、勝利条件をマスターにとって好ましい内容に更新する事は基本機能の範疇に含まれます」
「だ、そうだ」

 俺とK/Rのやり取りを見ていたH・Mに話を振ると、彼は一つ目アイコンを文字通り白黒させて勘案しているらしき様子を見せる。

「よし、よし、わかったぞ。良いかK/R、俺達の勝利条件は常に『観衆を盛り上げ、楽しませる』事が最優先事項だ。それを満たした上で勝つ。わかるか?」

 H・Mの言葉にカメラアイの瞳孔を拡縮させて反応を示しながらK/Rは自身の思考ロジックにおける優先事項を書き換えているのかわずかな時間、停止したのち、H・Mの方へと向き直る。

「情報を更新しました。では、ここにある書物がマスターの言う『観衆を盛り上げ、楽しませる』技術を学習することにつながるということでしょうか?」
「そう、その通りだ!」
「了解しました、これより学習行動を開始します」

 K/Rはそう答え、椅子にちょこんと座ると人間の速読を遥かに上回る速度で書籍のスキャニングを始めた。次々と読破されているように見えるが、実際には書籍の内容からエンターテイメントとしての要素を抽出できるかどうかは、学習が進まないと判然としない。

 だが、まずは第一歩は踏み出したと言えなくもない、な。

【ライフ・イズ・エンターテインメント!-2-終わり:-3-へと続く

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