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終の棲家に必要な物とは

パッと見、それは豪邸に見えた。
だが、ディッグはその印象を打ち消す。これはサイズこそ大きいが、豪邸の意匠ではない。

友人である黒ずくめの男が、珍しくデザイン帳にらくがきしていたそれが、自分の職務の範疇なのでつい目をやってしまった。

素人が雑に引いたラインでも内容は充分見て取れる。
その建物には取り繕うような装飾がなく、ただ重厚な漆喰と木柱がそびえ立つ大きな建物で、ほとんど窓がない。
もしかしたらまだ書き足していないだけかもしれないが、それにしたって無骨な建物だ。
しかし、牢獄としては条件が合わない。
塀などの囲いは描かれておらず、出入りはしやすい構造に見て取れた。

「図書館?」
「当たりだ、よくわかったな」

ポツリと口をついてでた言葉に、真っ黒くろすけのレイヴンは、しかめっ面でらくがきを検分したあとでテーブルに放り出した。

「自宅はこじんまりしたのが良いって前に言ってたから」
「よく覚えてるな、まあそれは今も変わってないが」
「でも一体全体、なんで図書館なんか?」
「夢だよ夢、自宅の敷地に欲しい施設を突き詰めたら、こうなった」

よくよく見ると、広大な図書館の隣にちょこんと、小人の住まいじみた一軒家があった。見るからに多人数の住居ではない、ちんまりとした平屋だ。

「家はそっちかい、図書館を欲しがるなんて君らしいというかなんというか」
「豪邸なんて持て余すだけだしな。物書きからしたら必要なのは書斎と書庫、だが本は買えば買えだけ増えるし重い、スペースも取る。となったら専用に建てちまうしかないだろう」
「公共のでは?」
「査定に通ったやつしか入らん!くだらん本は自分で買って積むしかない!」
「そういうことなら仕方ないね。他にほしい設備は?」
「そうだな……」

ザカザカと筆を走らせるレイヴン。
稚拙な筆致で、何やら温泉めいた図形が描かれていく。

「温泉とサウナはほしい」
「その心は?」
「読書の前後のリラックスだ。必要だろう?」
「まあ確かにね。他にはどうだい」

ディッグの問いに答えて、デザイン帳には調理スペース、カフェ&バー、リラクゼーションルーム、コワーキングスペースなどがどんどん書き足されていく。そして期せずして、二人はその図をまじまじとのぞき込んだ。

「なんというかこいつは……」
「これは、もしかしてアレじゃないかい?」

次の瞬間、二人は異口同音で結論をぶつけ合った。

『スーパー銭湯』

バーに響き渡る二人の笑い声。
しかして、この場では誰もが酒をかっ喰らって管を巻いている以上、そのうちの二人が急に笑い出したとして誰も不審には思わない。

「くっく、世界の真理だ。スマホに電子書籍突っ込んでスパ銭行けばこの世の娯楽の完成って訳だな。無いのはネコちゃんくらいか」
「いやぁ現実的だけど夢がないねえ」
「欲しい施設のある町に住むのが一番現実的か、だがまあ……」

レイヴンは図書館にだけぐるりと丸をつけて、夢の跡を放り出した。

「図書館だけなら、どっかに建てても良いかもな」

【終わり】

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