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竜のいとまの使い方

「先生、頼まれていた分の本です」
 広大な空間の洞窟、その出入口に立ったゆったりとした旅装の女性は、自分の身体よりもボリュームのある背負い袋を下ろすとその場にへたり込んで息をつく。そんな彼女が置いた荷を、ゆっくりと地響きと共に歩み寄ってきた黒曜石めいた鱗の巨竜が、その鋭い爪の先で器用につまみ上げてはモノクルの奥の瞳を細めた。
「ありがとう、ワトリア君。予定よりも手持ちを読み進めるのがはかどってしまってね。このままいくと読む本がない余りに、暇で暇で死んでしまう伝説の病にかかってしまう所だったよ」
 洞窟の中は巨竜の体格に合わせてスケールアップした構造になっており、床は石畳ならぬ岩畳、外に接する壁にはいくつか窓ガラスがはめ込まれて陽光を中に呼び込んでいる。他にも借り受ける本のサイズに合わせ、竜でもつまみ取れるように広めに隙間を取った本棚や、女性からは建築物の様に見えるサイズの机と思しき物体も鎮座している。
 竜の身からすればそれはそれは小さな背負い袋から、実に丁寧かつ器用に本をつまみ上げていくと、一冊一冊宝物同然に本棚に納めた。そして底に残った一冊を爪で引っ掛けると、傷つけないようにデスクの上へ広げた。
 代わりに女性の方は、預けていた本をこれまた一冊一冊、慎重に背負い袋の中に納めていく。
「捗りましたか?」
「うん、アルヴァ族やタンガ族の歴史は実に興味深い。もっとも、後者は竜族とは浅からぬ因縁があるのだがね」
「竜狩り……ですか?」
「そう、実際には彼らではなく、特化した狩人が成し遂げた事例がほとんどで、彼らが行ったのは私達竜の身の加工だ」
「そういえば竜種武装、最近ちょっと市場に出回ったと聞きました」
「聞くところによると暴れん坊が一人、流浪の旅人に不覚を取ったとか。ううん、実にコワイ。同じ相手にかかったら、私なんかイチコロだろう」
「もし襲われたら、すぐに逃げてくださいね!」
「うむ、そうしよう。何事も命あっての物種だ」
そう返しながら、竜は直近で会った客人を思い返していた。その背に有ったのは間違いなく竜種武装、一介の旅人がおいそれと買える代物ではない。恐らくは彼女も一枚絡んでいるのだろう、もっとも自分に対して敵意、殺意がないのは明らかであったが。

空想日常は自作品のワンカットを切り出して展示する試みです。
要するに自分が敬意を感じているダイハードテイルズ出版局による『スレイト・オブ・ニンジャ』へのリスペクト&オマージュになります。問題がない範疇だと考えていますが、万が一彼らに迷惑がかかったり、怒られたりしたら止めます。

現在は以下の作品を連載中!

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主にロボットが出てきて戦うとかニンジャとかを提供しているぞ!

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