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BWD:ハイド・ナイト・サバト

深夜の街中、月光が照らし出す中オタクめいた風体のさえない青年は恐怖に直面した。月明りが照らしたのは黒い山羊の頭、烏の翼をもった偉丈夫。すなわちアクマである。

「な、なんで……なんでこんなところにアクマが」

青年を掴み上げる黒山羊アクマ!青年の身体は闇の中軽々と宙に浮く!

「ここに近づくな」
「……えっ?」
「よいか、ここに近づくな。さもなくば」
「誓います!約束しますからオタスケー!」

青年の言葉を聞いて青年を地に降ろす黒山羊アクマ。一目散に青年はその場から逃げ出したのであった。

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時は新世紀!
現実世界はある狂人の凶行により幻想世界と直結してしまった!

その日から現実世界は少年がリキシになりJKが生霊操ったり
ジゴクがデリバリー感覚で配達されたりの理不尽不条理がまかり通る
幻実世界と
なってしまったのであった!

この物語はそんなファッキンブッダファックワールドにおいて力強く生きる人々の物語である!

ーーーーー

「アクマの関与を調査してほしい?」
「はい、最近私の近辺でアクマと出会ったという事件が頻発していまして」

ここはいつもの都心のバー、「涅槃」。
連絡用の3Dホログラフィック映像に映っているのは可愛らしい耳長の少女だ。彼女は自身を「最近売り出し中のバーチャルアイドル・耳長エルフちゃん」と名乗った。なるほど小柄で華奢な体つきに緑がかったショートのブロンドにちょこんと小さな三つ編みを肩に流し、服装も森の中の弓使いを思わせるような内容。

対してカウンターに座って依頼を確認するのはいつもの二人。黒い袈裟コートの黒ずくめボンズ、カリューと白スーツに銀髪のうさんくさ探偵セージである。

「レディ、君の身辺をアクマが徘徊するような心当たりは?」
「それが今の所思い当たらなくて……こうして依頼させていただいたんです」
「フムン」

あごをさするカリュー。己の禅に照らし合わせてアクマの動機を考えているのだ。調査役の探偵が居るといえ彼は彼で思考をめぐらす。

「この依頼受けようぜカリュー」
「ん?まだ依頼料の話聞いてないぞ」
「足りない分は俺モチのツケで頼むわ、お前の取り分も含めてな」

ははーん、こいつこの依頼人とお近づきになりたいのだな?とカリューは即座に看破した。もっともそれはセージも即相方が理解すると踏んでの事であった。

「対価が出てくるならそれがどこからであろうと俺はかまわんぞ、アクマが徘徊しているのは事実だしな」
「よし、決まりだな」
「お受けしていただけるのですか?その、私まだ駆け出しでそんなに料金支払えなくて」

申し訳なさげに眉を下げる愛らしい少女に探偵はプラプラ手を振って答える。

「払える分だけ出してもらえれば後はボランティアって事で今回はお受けしますぜ。あとで調査に必要な情報確認のメールを送るんで連絡先お願いしますわぁ」
「わかりましたっ!ありがとうございます探偵さん!」

深々と頭を下げて感謝するエルフの少女。映像には追記で「後で連絡先をお送りします」とのメッセージが表示され、暗転する。

「イヤッホウウウウウウ!」
「人の自由恋愛には口出ししない主義だが、物好きだなお前は。彼女はバーチャルなんだから映像で見た通りとは限らんぞ」
「ふっふっふ、俺を甘く見んなよ?声はれっきとした肉声、ボイスチェンジャーや電子合成音声じゃない。そして声のトーンと呼吸の質から彼女本人は中背でスタイルのいい若い女性とみた」

相方の回答にうわぁ……という顔をするボンズ、と表情を殺したまま隣で内容を聞いていた給仕の少女。

「おまえその推理力の無駄遣いなんなの、マジで」
「なんだろうとわからないものは手元の材料で推理するのが探偵ってもんだぜ」
「流石にそれはドン引きです、セージさん」
「ハウァッ!」

傍観に徹していた給仕の少女カスミに容赦のない冷淡な突っ込みをもらい大げさにのけぞる探偵であった。

ーーーーー

「しかし、動機がわからんな」
「動機、ですか?」

場所は変わってアクマの遭遇事件が頻発している現場、閑静な住宅街へとやってきたボンズ・探偵・メイドの三人。事件発生時刻と同様に月明りが三人を朧げに照らし出す。

「そこなんだよなー、事前調査だと死者はでてないし。ただひっかかるとこはある、ぜ」
「なんだ?」
「アクマじゃなくて遭遇した被害者の方だ。ポイントは三つ、一つは遭遇者全員が生きて帰れてる事。二つ目はアクマが『ここに近づくな』と警告してる証言がある事。三つ目は被害者全員がこの辺りに来た理由をはぐらかしている事」

探偵の言に考え込むボンズとメイド。

「うーん……ここに守らなければならないナニカがあって、アクマはそれを守るためにここに来た人を追い返している、ここに来た人たちもそのナニカを求めているってことでしょうか?」
「冴えてるねカスミちゃん。整理して考えればここにあるナニカってのは限られてる、ただの住宅地だし」

探偵の助言にハッと顔を上げる給仕の少女、ボンズも同じ結論に至ったのかうなずく。

「ストーカー……?ここに来た被害者は実は加害者で被害を受けているのは依頼者の方、アクマは彼女を守るために?」
「ナイス!カスミちゃん探偵もイケると思うぜホントに」
「フムン……ならば正解かどうかは」

言葉を切って背後の闇に振り替えるカリュー、そして闇より一切の音なく姿をあらわす黒山羊アクマ。

「本人にあらためるとするか」

ボンズの言に翼を広げ闇の中威嚇する黒山羊アクマ。

「バニッシャー……というやつか。なにゆえこの地に足を踏み入れた」
「なんでもなにも、アンタに会いに来たんだぜ」
「黒山羊の頭部、黒い翼、あなたはバフォメットにまつわる方でしょうか」

メイドの問いかけに以外にもうなずいて答える黒山羊アクマ、バフォメット。

「如何にも。サバトの主、バフォメットに連なる者である」
「俺が聞きたいのはただ一つ、おまえの目的よ。理由いかんによってはお前を斬らねばならぬ」

目にもとまらぬ早業でボンズの手に収まるライトセーバー降魔の利剣。その刀身が蒼く輝き闇を払う。その輝きに目を細めるバフォメット。

「いきなり斬りかからぬ点は評価しよう、だが理由は言えぬ。契約の内容を明かすことは契約に反するのだ」
「むぅ、ならば」

アクマの言にカリューは道具袋より盾めいたカガミを取り出す。ブディズムの秘宝の一つロウ・ミラーである。

「貴様のカルマ、計らせてもらうぞ」
「好きにするがいい」

アクマに向かってミラーを向けるボンズ。その中を覗き込む探偵と給仕。

「……暗いからわかりにくいですけど、ほとんど白みたいな灰色です」
「ああ、少なくとも黒かねぇぜカリュー」

二人の言葉にロウ・ミラーを降ろしバフォメットと視線を合わせるカリュー。

「なんじ・罪なし」
「ほう、ブディストとやらは無慈悲な悪魔殺しと聞いていたが」
「それはおれのセンセイ辺りが原因の風評被害なので他のボンズはもう少し話はわかるぞ」

バフォメットにしんなりした様子で軽口を返すも内心で次の禅を考慮するカリュー。
まず、アクマと言えど悪行をなしている訳ではないので強引な聞きだしは出来ない。拷問などブディズムに反する。このアクマも契約を守るであろうから例え死んでも口は割らないであろう。であれば

「セージ、被害にあったという連中の口を割らさせる方が早いと判断する」
「オーケィ、それでいくか」
「待ってください、どなたかこちらに駆け寄ってきています」

給仕の言に二人は顔を見合わせ次にアクマに視線を向ける。首を横に振るアクマ。

現場へと駆けて、というには程遠い精々早歩きめいた速度で闇の中向かってくるのは宵闇色の服に中世の時代がかった三角帽子、豊かな黒髪を三つ編みにした服の上からでもわかる豊満な魔女めいた少女であった。
双方の間に割って入ろうとするも息を切らしてべちゃりと転倒する謎の少女にボンズとメイドは困惑するが探偵は何かを察しアクマを手でもって制する。

「マッタ、おれらこの子に危害は加えないから大丈夫だぜバフォメットさんよ」
「本当か?貴様からは下心の気配を感じるぞ」
「そりゃ俺この子とお近づきになりたいから。でもアンタを怒らせるようなことはしないぜ、そこは約束する」
「……よかろう」

バフォメットを探偵が制している間にボンズと給仕は闖入者の少女を助け起こす。助け起こされた途端ソフトウェアが固まったようにフリーズし蚊の羽音めいた声を発する少女。

「無理して話さなくていいぜ、面と向かって話すの苦手なんだろ?」

探偵の言葉に涙ぐんでうなずく少女。

「オッケーオッケー、俺が今から推理した内容はなすから合ってるかどうかだけ首振って答えてくれ」

二人のやり取りをかたずを飲んで見守る三者。

「君は姿こそ違うが今回の依頼者、でこっちのアクマの旦那は君の近親者が契約して君の護衛に回した。君は俺達が揉めてる間にその事に気づく何かを見つけてここに止めにやってきた。合ってる?」

探偵の言葉に驚きのあまり身じろぎつつもうなずく少女。

「……この…か…おば…ちゃ…メール…で」
「そっか、わかったぜ」

少女から視線を外してバフォメットに振り向く探偵。

「旦那、アンタ入界許可は出てる?」
「もちろんだとも。不法入界すればそちらから攻撃を受けるのは避けられないと把握していたからな」
「イエーイ久々に話のわかる相手でよかったぜ!じゃこの件はこれで一件落着ってことで」

Kabooooooom!締めに入った探偵の言葉を爆音が遮る!

「おいおいおいおいここ住宅地だぞ!?どこのイカレだっての!」
「シータ、私の後ろに隠れなさい」

バフォメットの言葉に素直に後ろに隠れる少女。彼女の本名はシータというらしい。突然の爆撃にも関わらずすかさずメモする探偵。

「アッハッハッハ!居たなヤギアクマ!科学のパワを受けてみろ!」

アスファルトをひび割らせながらその場に現れたのは二階建ての建物を越える高さの四脚歩行戦車だ!先ほどの爆撃はマウントされたミサイルによるものである!戦車のハッチから身を乗り出して狂笑するのはオタクめいた冴えない青年!

「ぼくとエルフちゃんの恋路を邪魔するヤツは皆殺しにしてやる!」
「わーおう……最近のストーカーってのは気合入ってんなぁ」
「一方的な好意の押し付けとか、そういうの私良くないと思います!」

その場のメンツに向かって放たれる主砲からの砲弾!それは着弾する前にメイドの張ったドーム型霊気結界で押しとどめられ地面に落下する!

「何するんですか!ここにはあなたが追い求めている人もいるんですよ!?」
「うっそだぁ、どこにもいないじゃんかよ!」

南無三!この恋路に狂ったオタクはバーチャルアイドルがそのまま実在すると妄信しているのだ!ゆえに本人がその場に居る事に気づいておらぬ!
つづいて戦車から放たれるミサイルたち!

「南無!」

カリューは手にした数珠玉を宙に放つ!デコイめいてミサイルを誘導し空中で爆破させるお数珠!アクマへと振り返る探偵!

「おいバフォメットの旦那!俺とも契約しないか!」
「なんだと?」
「この世界の人間と契約した状態ならアクマが戦っても違法にならないんだ!そういう取り決めだからな!」
「……なるほど、よかろう」

探偵が掲げたタブレットに指先を触れさせる山羊アクマ!契約が承認されタブレットが光り輝く!

「これで全力を出しても良いのだな?」
「ああ、ウソだったらアンタと一緒に豚箱に入ってやるよ!契約者だから一蓮托生だ!」
「信じるぞその言葉!」

闇夜に吼える黒山羊アクマ・バフォメット!その姿は瞬く間に影に溶け、歩行戦車の脚を伝って黒いインクで塗りつぶすようにまとわりつく!

「ヒィエッ!なんだよ!なんだよこれ!」

勝利を確信していたアイドルオタクは自分の理解を越えた現象に戦慄する!
まとわりつく黒インクの影の中より黒山羊アクマがその頭部をオタクに向かって突き出す!

「ほう……貴様、私に向かってここに来ないと誓った男ではないか?」
「ヒギィィイイイイイッ!」

面と向かって異形の存在に威圧されオタクは失禁!しかし操縦補助AIによって暴走する歩行戦車!路上駐車された車がその足で踏み砕かれる!放置しては危険だ!

「バフォメット!一旦そいつから離れてくれ!」

ボンズの指示に素早く戦車から身を離すバフォメット!闇の中カリューの振るうライトセーバー降魔の利剣が閃く!歩行戦車に走る無数の斬撃!歩行戦車は怪盗アニメめいてバラバラに分割!大地に落下する戦車本体!

「あわ、あわわわわ……」

かろうじて失神しなかったものの完全に戦意を失い泡を吹くアイドルオタク青年。そして彼を取り囲む面々。

「動機とかそゆのはもういいぞ、イヤというほどわかったからな」
「ヒエッ」
「なー、おにーちゃん。気の毒だけどちみが恋した相手は存在しないんだよ」

探偵の言葉に硬直するオタク。オタクの前におずおずと出てくる魔女めいた少女シータ。

「わた……が、長耳……エ……の……中……ひ……です」
「えっ……」

シータの言葉をかろうじて聞き取れたのかがっくりとうなだれるオタク青年。青年の襟首をつかむカリュー。

「エルフが好みならそゆのが居る世界に行って実物の相手を口説くんだな。だがしかし」

オタク青年がボンズにつるし上げられる!

「そのまえにきさまにはおれのぜんをたっぷりたたきこんでやる、かくごしろ」
「オ、オタスケー!」

オタクをつるし上げたまま闇の中に去っていくボンズ。同僚の二人には手ぶりで『「涅槃」で合流な』と伝える。

南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏……

ーーーーー

二日後の昼、バー「涅槃」にて。
そこにはいつも通りカウンターで過ごすボンズと探偵、そして給仕の姿があった。

「この度はありがとうございました」

礼儀正しく会釈する3Dホログラフィック映像の中のエルフ。どうやらアイドルとしてふるまう時はマインドセットのおかげか流暢にしゃべれるようである。その上で映像越しに彼女は自身の身の上を語り始めた。

「私、本当はエルフじゃなくて魔女の家系の産まれなんです」
「ああ、わかってるぜシータちゃん」
「ありがとうございます。でも、私は自分の事があまり好きになれなくて……この世界には異なる存在として振舞うVチューバーやバーチャルアイドルという職があると聞いて、なりたい自分として振舞えると思ってこの世界にやってきたんです」
「で、おばあちゃんが君の事を案じて黒山羊の旦那を派遣したと」

探偵の言葉にうなずく幻想の中のエルフ。

「その通りです。でもその事を伝えるメールが迷惑メールフォルダに行ってしまっていて……気づいたのは皆さんに相談した後のことでした」
「しょーがないさ、俺だってやらかすし」

ヘラヘラ笑って慰める探偵の言にうなずくボンズ。

「その、探偵さん」
「なんだい?」
「やっぱり、この世界でも自分を偽るのは悪い事でしょうか」
「いいんじゃない?俺は悪い事だとは思わないぜ」
「でも私、彼をがっかりさせてしまいました。アイドルなのに」
「そりゃあ君を仮想のアイドルだって理解してなかったアッチに非があると思うぜ、俺はね」

探偵の言をボンズが引き継ぐ。

「シータさん、そんな深刻に考えなくてもいい。バーチャルの像なんて言うなれば余所行きの服みたいなもんだからな」
「余所行き……ですか?」
「そ、余所行きだ。あの男はおめかしした君に一目ぼれしたが、服を普段着に着替えた君に落胆した。だがそれはヤツの覚悟が足りなかったのよ、君のありようが移り変わっても受け入れるという覚悟がな。ゆえに君が責任を感じる範疇ではない」
「そーそー!女の子は剥いてなんぼだしね!」

パーンッ!慰めになっていない探偵のセクハラにカリューのハリセンがさく裂する!

「だから、胸を張ってアイドルを続ければいい、と俺僧は思うぞ、と」
「ありがとう、カリューさん。私、頑張りますね」

ボンズの回答に初めて笑顔を見せる幻想の中のエルフの少女。

「シータさん!良ければ私とも連絡先交換してください!」
「えっ?よろしいんですか?本当の私は……ただの魔女、ですよ?」
「私オカルトマニアだからむしろ普段のあなたと仲良くなりたいです!お友達になってください!」

給仕の少女の言葉に笑みをこぼすエルフの少女。そのまま歓談が盛り上がる少女達を見ればボンズは会話から離れてCORONAをあおる。一方でセージはカリューの一撃の重さに昏倒して床にひっくり返った結果会話に参加することなく終わったのであった。

【BWD:ハイド・ナイト・サバト:おわり】

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