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その黒き書に触れるな -5-

 図書館の正門から外に出た俺達の視界に入ったのは蚊柱の超大規模版の様な黒いノイズの竜巻だった。老紳士の姿は見えない。取り込まれたか、中から操っているか、それはこちらにはさして重要ではない。

 このような事態を想定してか日本国立図書館第七分館は小高い丘の上に隔離するように建造されており、近くには他の建物はない。もとより隔離場なのだ、ここは。だがここで打ち滅ぼさなければ早々に市街地に向かうだろう。M・Tと視線を交わし、ともに頷く。黒いノイズはまだこちらには注意を向けていない。

 共に情報機器の板面を操作、アプリケーションを起動し各々の乗機を上空に構築する。蛍の大群が群れなし渦巻くように光の粒子が青空に形を成していく。コクピットの形が定まった時点で搭乗席へと転送される。一瞬の浮遊感の後にいつもの慣れたシートへと身をゆだねた。

 形成体積がより少ない関係で俺の機体の方が先に顕現し終わる。灰黒の甲冑に身を固めたかの如き人型機動兵器。重力とは無縁であるかの様に浮遊する愛機を操り空を駆ける。一方で図書館の有った丘全体を覆うかの様に巨大な城塞都市が俺の眼下で出現した。

 途方もないサイズの城塞の中央にはこれまたそのサイズに見合った巨大なる人型像の上半身が居座っており、見る者に威圧感を与える。もっとも地上からでは城塞部分が大きすぎてとても表部分をうかがうのは難しいだろう。

 『洛陽』、それがM・Tが操る超巨大城塞型兵器の名称だ。つい先ほどまで存在しなかった異物にも反応することなく黒いノイズは未だに渦を巻いている。だが相手の出方をうかがうつもりはない。

 先に動いたのはM・Tの方だった。城塞部分に密集する兵士型無人機が弓を手にすると火矢を掲げ、放つ。青空を赤く染めるほどに大量の火矢が黒きノイズの渦に降り注いだ。刹那、ノイズの渦に変化が起こる。

「:aph$ra%gpr&%ofg:ap"rhf'gppdofopahy$&fgai390r7q[-04rtq-0347-af」

 人間の聴覚では理解できない異音を吐き出しながらノイズの渦は幼稚園児が作った雑な犬の像めいた四つん這いの獣の形態へと変わる。大地から跳躍し、火矢の嵐を突き抜け城塞を飛び越えて巨像を直接噛み砕かんとする黒きノイズの獣。洛陽は焦ることなくその塔めいた巨腕を振るい、獣の鼻先へと正拳突きを見舞った。

 空中で大質量の物体同士が激突し、大気をふるわせる。俺とて観戦しているばかりではない、洛陽の迎撃で動きが止まった獣に上空より強襲、乗騎の右腕より形成した光刃でもって獣の首を一閃、切り離した。

 名状しがたい悲鳴を上げながら獣が仰け反る。空中に取り残された首側へと再度城塞から火矢が無数に打ち上げられると獣の首は瞬く間に燃え上がり、炭へと変わっていく。だが、本体の側は未だ健在だ。宙で一度靄の様に形が崩れると今度はアンバランスな人型とは程遠い巨人へと形を変えた。

 今の所こちらの干渉が相手に対し無意味な様子はない。だが相手は得体の知れない異世界の存在だ。油断せずに擂り潰す。

【その黒き書に触れるな -5-終わり:6へと続く

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