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魂の灯 -93- #ppslgr

「終わっ、たぁ……」

先程まで全力で殴り合っていた怪物が、コクピットのモニタ越しにぐずぐずに崩壊していく有様を見届けながらバティはシートの中に沈み込んだ。
夕日が地平線の彼方に沈みこみ、激闘の余波で吹き払われた夜空が一面に閉幕を下ろしていく。

「はぁ~……」
「待って」
「え、何、オレもうグロッキーなんだけど……」
「アレ、ダメージが限界を越えたソウルアバターの崩壊プロセスじゃない。つまりまだ……!」
「な、クソッ!諦めの悪い!」

バティはノアのアラートに応じて、再び操縦桿を握り込む。機体は既に立っている状態を維持するのがやっとで、先程まで握っていたヌンチャクはマニピュレーターごと海へ脱落していっている。水しぶきが、大きく立ち昇った。

「ノア、周辺索敵は」
「やってる、周囲360度反応無し、索敵可能範囲をローラーしてるけどさっぱり」
「逃げた……いや、そんなはずない。オレ達をほったらかして逃げるなんてこと、あいつには出来ない」
「でも反応が」
「上だ!バティ!」
「おお!?」

天より墜ち来るそれが、はっきりと視認出来たわけではない。
それでもバティはイシカワの声に応じて、ほんのわずかだけ、機体の背を後方にそらした。そして、それは来た。

「ガッ!?」
「ぐぅ!」
「あぁっ!」

衝撃に、三者三様のうめき声をあげる。確かに、ヤツは諦めていなかった。
バティの眼前、コクピットハッチが外から強引に引きちぎられてバッと本物の夜空が広がった。そのど真ん中に、彼は立っていた。

「まだ諦めていねぇんだな……!」
「……ああ、そうだ。そうだよ」
「こんのッ!」

知らず、バティは駆け出していた。コクピットのコンソールを足蹴に飛び越え、ハッチの歪んだフレームを踏みしめ、本来しないはずの板に飛び降りる。それは、虚神が変じて巨神を貫いた一本の長剣、その刀身であった。剣の上に、二人は立っていたのだ。

「人質は解放!機体は全損!後は身一つでもまだやるってのかよ!」

一歩、踏み出すと同時に、バティは一喝した。

「そうだ、ボクは……やる、やるんだ!」

少年もまた、叫びをあげて一歩踏み出す。

「こ、の……大馬鹿野郎!」

そして、二人は弾かれた様に駆け出した。
沈みゆく夕日の一条の光が、二人の姿を影に描く。

「う、ぉぉおおおおおおおお!」
「ふ、ぐ、ああああああああ!」

やり場のない感情を載せて、両者の拳が、正確にお互いの頬を貫いた。たたらをふんで仰け反るも、まったく同じタイミングでバネ仕掛けめいて向き直りお互いの額を、視線をぶつけ合う!

「いい加減!諦めろ!」
「まだ、まだだ!まだ何も終わってない!」
「生きてんだからそれでいいだろうが!このバカ!大バカ!」

バティの拳が少年の腹に食い込んだかと思えば、反撃の蹴りがバティの脇腹に叩き込まれる。もはや回避やガードの割って入る余地はない。これはボロボロになった男二人が、それでも立って続ける、最後の喧嘩であった。

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