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夢に舞うは胡蝶、現に横たわるは蚕蛾 -46- #ppslgr

切裂かれた黒鉄色のゲートの破片がバラバラと落下し、拓けた向こう側にはまるで礼拝堂めいた静謐な空間がつながっていた。一見、科学技術を制御するための施設には見えない。だがスマホから制御できるなら、施設の見た目など些細な物ではある。

甲高く靴音を鳴らして奥に進む俺達の視界の先に、超然とした態度で一人の男が直立していた。紺の形がすっきりとしたスーツに整ったワイシャツ、そして落ち着いた柄のネクタイを締めた如何にも礼節をわきまえた服装のその人物は俺達を前にして不敵に微笑んでいる。

「ようこそ、来客の皆さん」
「随分と余裕だな、良い夢は見れたか?」
「夢、と。とんでもない、私が欲しているのは現実ですよ」

迷わず剣の切っ先を突き付けた俺に対し、首謀者と思しき男は態度を崩すことなくクツクツと笑う。

「一体何をもって現実を塗りつぶしたいというのかな?現実世界が気に入らないというのであれば、君なら何処へなりとも好きな世界に行けただろう」
「君も来たか、M・K。いや私の邪魔が出来るなど君を除けば、それこそかの機神くらいなものか」

答えをはぐらかす首謀者に対し、M・Kは淡々と自分の推測をひろうする。

「君が開発、実験していた内容から推測するに、考えられる展開は二つある。一つは現実世界と幻想世界を混ぜ合わせて一つの世界として重ねてしまう事。これも大問題だ、しかし本命はもう一つの方だと僕は考えているんだけど」
「その続きは不要だ、もう終わった事であるから。彼らは実に良い仕事をしてくれたとも」

そこまで言うと、男はキザな事この上ない振舞でもって、パチンと指を鳴らした。すると、どうだ。

「これは……」

自分達が今いる建築物は霞の様に頂点から大地にかけて掻き消えていけば、外は本来俺達が居たはずのあの錆雨の世界ですらない。余りの急展開に、先ほどから会話に割って入るタイミングを見いだせていなかったシャンティカが目を白黒させた。

男と、そして俺達三人が立っている大地は生命が感じられない死の荒野だ。
乾き砂埃を伴う地面に、辛うじて枯草が点々とあるばかりである。
それどころか、この風景には動くモノがない。動物が全くいない上に植物においても木々や青々した草木といった物は一切存在していなかった。

「人間、生きていれば一つくらい見たい光景というのはあるのではないか?少なくとも私にはあった」
「それがこの光景だとでも言うのかい?」
「はた迷惑な話だ、死んだ土地など現実にも幾らでもあっただろう」

俺の皮肉にも動じる事無く、男は眼を細める。

「ただ、私の見える範囲がこうであればいい、と言うのでは物足りないんだ。私は地球上からあらゆる生命が枯死し、根絶された世界が見たいんだ。他所の世界でなく、自分が生まれ育った世界がそうなっている所をね」
「もういい、対話が不要だってのはよくわかった」
「ああ、僕としても君がそこまで本気で拗らせていたとは思わなかったよ」

言ってる事をそのまま受け取るなら、この男は自分の世界が滅びた所を、自分の眼で見たいというそれだけの欲求で事を起こした。対話の余地などありはしない。

「よろしい。私としても君達がこの世界に残った最後の生命体だ。自らの手で仕上げをするとしよう」

この世界の地球に残ったたった四人の人間は、生き残りをかけて生存闘争を開始する。

【夢に舞うは胡蝶、現に横たわるは蚕蛾 -46-:終わり:その-47-へ続く

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