ライフ・イズ・エンターテインメント！-1-

　閃光、そして消滅。それが俺が見ていた試合で起こった事実だ。バー「メキシコ」で視聴した人型機動兵器「ソウルアバター」同士での試合。そこであったことはまさに、瞬殺だ。

　古代ローマのコロシアムを鋼鉄で再現したかのような会場内。メタリックブルーに輝くあたかもマッスルマンめいた装甲をまとう巨大人型兵器が、試合開始からいきなり胸部装甲を展開。装甲内部より解放されたプラズマ反応炉から放たれた光線が、対戦相手である密林色のこれまた筋骨隆々を想起させる厚い装甲をまとった人型兵器を一瞬で消し飛ばしたのだ。

　バー内で俺と同様に試合を観戦していたパルプスリンガーなり、来店客なりはざわつき、どよめき、ある者は嘆息さえした。俺もまた、この不可解な試合展開に内心怪訝な感情を持て余す。何故ならばこの試合の勝者は、この様な戦い方をする男ではないと良く知っていたからだ。

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　その筋骨隆々にして顔面を一つ目玉を模したアイコンマークの描かれた白い覆面で覆った偉丈夫は、バーメキシコに戻ってくるなりどっかりと椅子に座り込み、自らビールクーラーより持ち出したCORONAを親指でもってボトルネックの所でへし折り覆面のままラッパ飲みした。

　俺はそんな彼がついているテーブルに同席すると率直に問いかける。

「H・M。さっきのアレ、何かあったのか？」
「どうもこうも、ぶっつけ本番で新要素なんか使うんじゃないって話だR・V」

　返ってきた答えににじむ声色は何とも言えない、やるせない様に俺には感じられた。俺は普段から着ている黒ずくめのうち、コートを脱いで椅子に掛ければ本格的に話を聞く体勢に移る。だが、その間に遅れて入店してきては無駄なく精密な動作で、H・Mの傍らまできたアンドロイドを見て事情を察した。

　新たに現れたそのアンドロイドは、人間でいえば発育悪め10歳の子供のような体格を紺色の軍服とドレスの合いの子めいた衣装に、切りそろえたショートのブロンドとエメラルドの様にも見える瞳。表情の変わらない顔立ちは幼げな造作だが情動が見受けられず如何にも人形その物だ。

「なるほど、その子か」
「そう、そうだ。まったく俺としたことが肝心要のAIのオーダーをミスっちまうとは」

　普段は剛胆にして喧嘩っ早いH・Mも、この時ばかりはCORONAを次々ラッパしていく。そんな彼を機械その物の瞳で視線を送るアンドロイド。

「我々は最短、最適な形で勝利しました。私の思考ロジックではマスターが何故私のアシストに不満を表しているのか理解できません。何故でしょうか？」
「いいかK/R、観客はあんな瞬殺劇を見にきてんじゃねぇ。そんなのはこの遊び心のないまっくろくろすけにやらせとけばいいんだ」

　H・Mの言葉にこちらに視線を送ってくるアンドロイド……K/R。そんな彼女に俺は大げさに肩をすくめて見せる。確かに最速・最短・必殺が俺の流儀にしてバトルスタイルだが、それは彼とは戦う場を異にするからである。

「まっくろくろすけさんはマスターが何故不機嫌なのか、お分かりになられますか？」
「まっくろくろすけじゃない、R・Vだ。そりゃわかるが、AIである君にはわからんのも無理はないと俺は思うぞ。なにせプログラムの根幹である合理・論理からは程遠い概念だからな、エンターテイメントってのは」

　俺の言葉にK/Rは俺の表情筋の仔細まで分析するかのように瞳孔を模したカメラアイをすぼませては広げた。

「エンターテイメント……理解不能です。それは私が制作された目的には合致しない、非合理的概念であることまでは理解可能です」
「あーあーあーそうだろうな！全ては俺がテック業者に『戦闘補佐用AI』なんてオーダーかましたとこが原因だとも！だがなK/R！俺のパートナーである以上俺の流儀に合った戦い方を身につけてもらうからな！？」
「了解しました、善処いたします。マスター」

　親子どころではない体格差でK/Rに指先突き付けるH・Mの姿はともすると誤解を招きかねない光景だ。なお、AIと言ってもわかれと言って即座に理解が出来るほど都合のいい造りはしていない、果たしてどうなる事やら。

【ライフ・イズ・エンターテインメント！-1-終わり：-2-へと続く】

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