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その黒き書に触れるな -3-

 重い鋼鉄の戸を開けて入り込んだ先は視覚的には一般的な図書館のそれと大差ない。整然と並んだスチール製のラックにまばらに保管された書籍。しかし空気は違う。入室する以前ですら感じていた圧迫感はより強くなり、霊廟めいた静謐な雰囲気を感じる。

 視覚、聴覚、直感を駆使して周囲の様子を把握するが近くにはテロリストの気配は感じられない。さっきの二人もタバコ吸っていたのも含めるとまさか図書館の為にたった二人で潜入工作しかける人間がいるなど想定しておらず、内部の人間を軟禁した時点で気が抜けていたのだろうか。だからと言ってこちらは油断などしないが。

「禁書庫の場所は事前に教えた通り」
「了解」

 図書館地下部の構造はさほど複雑ではなく、長方形の大部屋にいくつかの別用途の小部屋が接続されている造りだ。もちろん本棚が並んでいる訳だがアサルトライフルに使用される弾丸の貫通力を考慮すると信頼できる遮蔽物とは言い難い。精々身を隠すぐらいが関の山だ。

 ハンドサインで俺がおとりとなって地下図書を巡回するテロリストを誘い出すことを伝え、M・Tも了承。即座に駆け出すと軍靴の靴音が広大だが書籍棚で圧迫された空間を打ち鳴らす。

「誰だ!?」

 自分達以外には存在しないはずの何者かにありきたりな反応を返すテロリスト。手近な一人が本棚に隠れながらこちらの様子をうかがってくる。流石に遮蔽物無しに身を晒して突っ込んでくるほどアホではないか。先ほど奪い取ったアサルトライフルでもって適当に威嚇射撃、怯みつつもこちらの射撃の途切れを狙って撃ち返してくるがその頃には俺も別の本棚を隠れ蓑に移動を繰り返す。

「クソッ!侵入者だ!」

 最初の一人の呼びかけに答えて周囲に分散していたテロリスト達が集まってくる。大体10人程度、結構多いが集まってきたのが運のツキだ。わざと大きな靴音をたてながら図書館内を逃げ回る。こっちの思惑通りに俺に食い下がるテロリスト達。銃撃の嵐が巻き起こるがこちらに集中しているテロリスト達は自身の背後に忍び寄ってきた存在に気付かなかった。

「アッ、アババババッ!!?」

 黒い影にも似た靄の塊がテロリスト達に背後から襲い掛かり、彼らの全身を覆っていく。靄に包まれた途端テロリスト達は電撃でも流されたかのように痙攣し銃を取り落とすとすぐにバタバタと地に伏せていく。

 M・Tが使用した呪詛の一種だ。俺もかつて目にするまではその効果のほどは半信半疑だったが、実際に使われる場面を見ればこれこの通り効果は抜群である。相手の方はよもや侵入者の一人が呪術使いでもあるなどと考えてもいまい。

 しかも術者が相手の存在さえ認識していれば、視覚的に遮蔽されていても正確にアタックできる優れものだ、敵には回したくないものである。手早く失神したテロリストを数珠繋ぎに拘束し本棚につなぎ合わせる。武装の類は蹴ってこいつらの手が届かないところに。今はこれで充分だ。

 拘束し終えた俺の所に合流したM・Tと共に入り口とは反対側真っ正面に位置する禁書庫へと駆ける。増援の気配はひとまずはない。まずは禁書の搬出状況を確認する必要がある。

 一見ごく普通の、しかし分厚い鋼鉄のドアを油断なく引き開け、中の様子をうかがう。人間の気配はない、銃を構えたままアサルト。

 中は伽藍とした小部屋の中央に重厚な金属製の電子論理錠のついた金庫戸。禁書庫と外界を隔てる壁だろう。その金庫戸も今は半開きになっている。知覚機能を活性化させ中の様子を探るがやはり人間の気配はない、代わりに感じるのは得体の知れない存在がギチギチに詰め込まれているかの様な忌避感だ。

 意を決して金庫戸に手をかけ、M・Tに視線を送る。頷く彼。さて、鬼が出るか蛇が出るか。

【その黒き書に触れるな -3-終わり:4へと続く

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