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戦艦でマグロを釣りにいくんですか?おかしいと思いませんかあなた?-3-

「俺の爺様は何か名を残すような海兵って訳じゃなかった。あくまで艦を十全に稼働させるために必要な要員のうちの一人で、戦闘機のエースパイロットでもなければ艦長でもない」

 記憶の糸を手繰りながら現代によみがえった戦艦の甲板上でかつての水兵であった祖父の事を俺は語り始めた。神妙な顔つきで拝聴しているA・D。

 会話の背景でまたノコノコ寄ってきて副砲による迎撃機構で撃沈されていく重武装マグロ密漁海賊漁船が俺の視界に入る。前のとは別のグループなんだろうが、無謀なやっちゃな。正確な射撃管制によるものか、爆発などの惨事にはならずに海賊船は沈んでいき、「武蔵」から海面に浮かぶ海賊に向かって救命用のボートが射出されている。A・Dによる人道的配慮、だろうか。

「何処のポジションだったんだ?」
「見張り員だったと聞いている。素晴らしく目が良かったそうでな、世間に名前は伝聞していないが戦史を調べた際に祖父に関連しているらしきエピソードが確認できた。もっとも別の見張り員だった可能性もあるが……」

 見張り員。長く平和が続いた上にレーダーが発達した現代の感覚では如何にも居ても居なくてもよさそうな感覚の者も多いかもしれない。(もちろん現代においてもそんなことはないのだが)しかし、第二次世界大戦期の海戦ではまだまだ有視界観測の重要度は高かった。航空機も当初はより早く敵を見つけるための偵察機としての運用がメインだったと記憶している。戦いでは敵をより早く見つけた方が優位になる。それは過去も現代も変わらない。

「優秀な見張り員だったんだな」
「ああ、そう聞いている。後は……」
「後は、?」
「本人は複雑だったと想像してるが、恐ろしく悪運が強かった」
「悪運とな」

 A・Dの言葉にうなずいて見せる。戦場においては様々な要素が生死の境目となるが、その中で運の要素は決して無視できない。人事を尽くしても死ぬ時は死ぬ、そういう物だ。

「A・Dは海戦を主にしているからわかるだろうが、軍艦が沈めば当然乗員は海に放り出される。その時点で友軍が健在でなければ生存は絶望的だ」

 俺の言葉に無言のまま神妙な顔つきでうなずくA・D。クリエイターと呼ばれる人種、さらにはパルプスリンガー達は特に現在普及している機動兵器「ソウルアバター」との相性が良く、こうして大規模な機動兵器を個人で保持、運用する事が可能になっている。

 とは言っても俺達パルプスリンガーは絶対強者ではない。油断をすればサボテンの影から現れたダニー・トレホ似の暴漢の投げたナイフが心臓に直撃したりして死ぬ。A・Dもまた、戦いに身を置く事の意味を理解している真の戦士だ。

「祖父が乗っていたと語った艦は三隻。どのような経緯で乗り継いだかについては俺は聞かされていないが、各艦の戦歴を調べる事でおおよその推測は出来た。まず、一隻目から二隻目は配置転換によるものだろう」

 配置転換、この場合は乗艦が別の艦に変更されることだ。もちろんA・Dもそれは承知であり、改めて説明する事ではないので省く。

「二隻目から三隻目の移動は、恐らくは二隻目が轟沈した事によるものだ」
「ひどい、沈み方をしたんだな?」
「ああ」

 空を、仰ぐ。俺が知っているのはあくまで戦史をつづった文字に寄る情報でしかない。だがそこから得られる情報だけでも祖父が見た光景は想像するに余りあった。

「二隻目の轟沈時、大多数の乗員は撃沈に巻き込まれて戦死した。祖父はその数少ない生き残りだと推測している」
「おう……ブッダエイメン」

 彼の言葉にこちらもうなずいて見せる。この蒼い海には先人達と、その乗艦が眠っているのもまた事実だ。

「祖父は戦争終結後、当時の事を誰にも語る事はなかったと聞いている。親父殿が祖父から唯一戦時の事を聞ける存在だったのは、当時の全軍艦のスペックと戦歴をそらで解説出来るほど熟知していたところを祖父が信頼したんだろう」
「人に歴史ありってこったな」

 そうだ、彼の言う通り生きている人間であれば誰であれ、過去の積み重ねによって生じたという事実の上に成り立っている。俺も、彼もだ。

 また接敵してきた海賊の船が武蔵の正確な無人迎撃機構射撃によって撃沈された。アイツらも歴史があり、事情があるんだろうがもう少し臆病になってもいいのではないだろうか。俺はいぶかしんだ。

【戦艦でマグロを釣りにいくんですか?おかしいと思いませんかあなた?-3-終わり:-4-へと続く

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