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マッド・ティー・チェイサー -4-

 廃倉庫を破壊するのもいとわず暴れまわっていた装甲ゴリラ機は見えざる蜘蛛の糸で絡めとられたかのごとく動きを止め、棒立ちとなった。それどころか、右腕に掴んでいるミートマッシャー棍棒を天高く掲げると己の頭蓋に目掛け降ろし始めた。外部スピーカーを通して辺りに伝わる白スーツの絶叫。

「クソッ!やめろっ!やめてくれっ!一体どうなっているんだ!?」

 無線通信を介したハッキングだ。既に装甲ゴリラは白スーツの男の制御下にはなく、S・Cがスローター・ハウンドを介して行ったハックで機体の制御権を奪い取られている。今はもう開かないコクピットの中で棍棒が振り下ろされるのを待つばかりだ。

「こっちはお前らに何の縁も恨みもない!今回の件は不幸な事故だったんだ!ゆるしてくれ!」
「浅ましいですね、貴方の方はほんの一回でも命乞いを聞き届けた事はないでしょう?」
「やめっ……」

 白スーツの男の懇願が最後まで言い切る前に装甲ゴリラは自ら掲げたミートマッシャー棍棒でもって自身の頭蓋を胸部にめり込むほど強かに殴りつけた。金属がひしゃげる不快な音が辺りを満たし、損壊した胴の亀裂からはオイルとも血とも判別がつかない液体が滴り落ちた。

 せめてプロの運び屋を使っていれば荷物の取り違えも起こらず、即席ひき肉になる事もなかったので、いわゆるインガオホーというヤツだ。若い運び屋を地に降ろしてやると、俺の方に疾駆してくるスローター・ハウンドの左手に飛び乗る。未だ焦点の定まらぬ眼でこちらを見上げてくる運び屋。

「あんた達、一体……」
「お前のポカのせいでくだらん騒動に巻き込まれた一般市民だ」
「貴方は運が良かったですね、これを機にドラッグは止める事をおススメしますよ。嗜好品の為に破滅するなど本末転倒ですから」

 S・Cが言ってもいまいち説得力ないな、と苦笑しつつ稀少茶の入ったジュラルミンケースをコクピットハッチから顔を出したS・Cに受け渡す。三時のティータイムのはずがとんだ惨事だった。

 再び甲高いホイール走行音が俺の耳朶を打つ。後ろを見れば呆然としたままの運び屋が俺達を見ていたが、じき正気に返るだろう。今後どうするかなど本人が決めればよい事だ。

 日はまだ高い。三時のおやつには充分間にあう。

ーーーーー

「コゥラアアアアアアアア!!!お前ら人にパンケーキ焼かせたまま黙って何処ほっつき歩いてやがったんだ!」

 いつものバーに戻った俺達を迎えたのは白詰襟の軍服が壊滅的に似合っていない、ワイルドな海の男の怒声だった。

「あー……わるい、悪い。なんせ肝心要の紅茶がいくえふめいで」
「だからって一言位言ってきゃいいだろうが!悪いが先に焼いた分は他のヤツが食っちまったからな!」
「マジかよ」

 ブッダエイメン、天を仰ぐ俺に別のテーブルに座っている丸メガネに豊かな黒髪を三つ編みにした中性的な面立ちで、分厚い歴史書に視線を落としたままの白衣の人物と年季の入った狩衣めいている服装をまとった青年がひらひらとこちらに手を振る。着座しているテーブルの上には生クリームの痕跡残る大皿。なるほど、彼らか。

「次焼きあがるのに時間がかかるから大人しく待ってな」
「あいよー」

 軍服姿の男の詰問を俺が受けている間にS・Cはいそいそとジュラルミンケースを抱えたままキッチンに足を運ぶ。ここのキッチンは誰でも使っていい取り決めだ。破滅的な料理の腕でキッチンその物を爆発四散させない者に限るが。S・Cが今日一日で5人始末したとは思えない笑顔で俺に振り向く。

「R・V、飲み方はどうされます?」
「ストレートにしとく」

 かしこまりました、といつもの調子でキッチンに引っ込む。もちろん、俺の分はS・C本人の分のおまけに過ぎないのだが。

 そんな感じでここ、超大型自由売買商業施設”Note”の午後は過ぎていく。この程度のトラブルなど、ここでは日常茶飯事、すなわちチャメシインシデントなのだ。

【マッド・ティー・チェイサー -4-終わり】

作者注記

 本作はNoteに投稿しているパルプスリンガーをモチーフに小説を書く、という企画の一作目だ。参加者は19人いるので後18本だ、ガンバレ俺。

 と言う訳で今回の主役はこちらの方。

 slaughtercult=サンです。彼がトップバッターだったのは「ドSガンマニア紅茶紳士」というめちゃくちゃ尖った個性の持ち主で話もキャラも非常に組み立て安かった為。乗機の方はローラーダッシュがポイントとみて、ATをベースに敵機のハッキングなどの電子戦機能を持った機体として設定をデザインさせていただきました。ご参加、本当にありがとうございました。

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