こちら、百鬼夜行結婚相談所
「でーすーかーらー、結婚相手は携帯食料じゃないんですって」
「なんだよ、ケチ臭いな」
「ケチとかではなくて、結婚した相手を捕食されてしまっては弊社の信用ガタ落ちなんです」
スカッと日本晴れの昼下がり、悠久の時を生き延びた古屋敷の和室では厚手の卓を挟んで二人の男女が喧喧囂囂丁々発止の言い争いの真っ最中。
女は燃え上がる様な紅蓮の髪に、額より艶やかな二本の角を突き出した見た目だけなら見目麗しい美女。まとう衣は古めかしい紅葉柄の和服をしどけなく着崩した姿。
片や男はと言えば、ありきたりなワイシャツスラックスのサラリーマン姿。
特徴と言えるものはおおよそないと言える。
「昔から、嫁ぐといってかどわかして、油断した所をパクリってのが常道だろう?」
「今は違うんですよ、焔さん。結婚とは添い遂げる為に行うもので食料確保の手段じゃなくなったんです」
「わかった、わーかった。アタシが求めてるさーびすってヤツはここは提供してないのは、わかった」
焔と呼ばれた女は着物の衿を整えると、やおら荒々しく立ち上がる。
「メシじゃなくて夫が欲しくなったらまたきてやらぁ。アバヨ」
「ご来店ありがとうございましたぁ……」
縁側からヅカヅカと素足のまま出ていった焔を見送ると、相談人こと都留はため息をついて上等な誂えの卓に突っ伏した。
人化の禁忌、という魑魅魍魎の習性がある。あるいは森羅万象の必然と言うべきか、人に化ける様になった物の怪は、人を愛し求めるようになるのだ。
だがしかして、種族が違えば中々に長く共に生きるは難しい。
「せめて、今月は一件くらい成立をば……」
「ごめんください」
「あ、はい!ただいま!」
新たな来客に、都留は営業モードに切り替わって出迎えを行う。玄関に現れたのは、艶やかなる銀の髪に、大正期の女学生になぞらえた姿の少女。
「あの!ここなら龍でも、人間の殿方と添い遂げられると聞きまして!」
鬼でも狐でもなく、龍。
降って湧いた難題。
【続かない:799文字】
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