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UE:スイート・デイ

蒼天を埋め尽くすほどの蒼い光の帯の群れが荒れ果てた地に突き刺さった。
天誅とでも言わんばかりの輝きが地に衝突するほどに莫大な熱エネルギーへと転換され、大規模のドーム型爆発が世界を覆いつくす。

終末における最終戦争の如き蹂躙を黒甲冑の武者を模した巨大な人型兵器が大地を駆け、破滅をくぐり抜けていく。その間にも世界全てを塗りつぶさんがほどに光の一閃が降り注いでいく。

光を放つ主である機械の神は中空にその身をとどめていた。
蒼天を写し取ったかのごとき蒼と白の色彩。無駄をこそぎ落したかの如き騎士を模した機体には幾重にも翼めいた輝きを背負い、微動だにせず空に浮かんでいる。

未だはるか遠くに僅かに見える存在へと疾駆する黒武者。
だが、遠い。余りにも遠かった。蒼穹の機神から放たれる光は徐々にその精度を増していき、黒武者の装甲をかすめながら遥か後方へときえては光爆を引き起こす。

「……ッ!」

速さが足りない、あまりにも足りない。
やがてコロナめいた極光が黒武者の機体を呑み込んでいった。

ーーーーー

「これで今日だけで100戦100敗ですね、マスター」
「ちくせう……」
「せめて現行のランカーを相手にしませんか?行方不明になった方を想定してシミュレーションしても……」
「あんな強いのが死んだとも思えないけどな」
「生存が確認できていないのも事実ですよ。まずはちゃんと目の前の相手を考えましょう」

コクピットシートの上で自身のサポートAIの言に押し黙る精悍なる男、ハガネ。
自身がシミュレーションで相手にしていたのはかつて存在したある戦士を再現したデータだ。そして、今、彼は行方がわからなくなっていた。

「朝からコクピットにこもって何してるかと思えば、勝てもしないほど強い相手に悪足掻きですか?」
「うるへぇー」

つづいてスピーカーから聞こえてきた少女の声に悪態をついて返すハガネ。

「せめてボクのチューニングが進んでからにしてくれません?今のフルメタルドーンじゃ機体性能に差がありすぎて勝負になりませんよ」
「機体の性能は勝負の決定的な差、か」

コクピットのコンソールに突っ伏して脱力するハガネ。
シミュレーションとはいえ100戦ボコボコに負け続けると心身の疲労は決して小さくない。素直にコクピットを出て休憩することにした。

ーーーーー

リラクゼーションルームのソファにもたれてクソザコナメクジめいてだらけるハガネ。流石に勝てない相手に100戦は無理があった。
PDCA……カイゼンを行うにしてもそもそも機体の地力が違い過ぎる。走攻守、どれ一つとっても次元が違う。サポートであるタタラに苦言を呈されるのも当然であった。

「せめてもう少し手近な相手にするかぁ」

愚痴る男の前に音を立ててドアを開け、長い髪をシニヨンにまとめ、白衣をまとった少女が入ってきた。名をカナメといい、ハガネの機体の調整を担当しているエンジニアだ。先ほどあきれた様子で水をさしたのも彼女であった。

「せっかくなので戦闘データを解析してみましたが、聞きます?」
「わかりきってる話だからイラネ」

大人げなくふてた様子のハガネのでこにカナメが差し出した紙箱が押し当てられた。

「……なんだよ」
「その様子だと今日が何の日だったか全然気づいてないですよね」
「平日だろ」
「バレンタインデー、ですよ。やっぱり頭の先から骨の髄まで戦う事しか入ってないんです?」

カナメの指摘にちゃんと姿勢を正してラッピングされた箱を受け取るハガネ。

「いただきます」
「なんです、改まって。ハガネさんらしくないです」
「調整の合間ぬって用意してくれたってのに不躾な態度で受け取るのは悪いからな。ありがとうカナメ」

普段不遜不敵不屈の態度を崩さないハガネが見せた殊勝な態度を想定してなかったのか目を伏せる少女。

「お礼なんていいですよ。パートナーとして最低限の礼儀ですから。というか他にくれる人いないんですか?」
「いない!」
「ハガネさんの人生がボクは心配です」

渡す物を渡すと身を翻して去ろうとする白衣の少女。去り際に振り向くと一言付け加える。

「今から装備の追加とチューニングしますからそのまま休んでてください。新装備試すならもう少し実力差の小さい相手にしてくださいね」
「おうとも」

少女が去った後、受け取ったチョコの包みを開いてつまむ。

「ぞんがい、甘いもんだな……バレンタインってのは」

ーーーーー

数時間後、ハガネは再び愛機のコクピット内で新規に追加調整された内容を確認していた。

「瞬間的にベクトルを加速、急転換を可能にする機能か」
「これでもう少し回避行動に融通が利くと思います」
「ありがとうな」

ハガネの本日二度目の殊勝な回答にスピーカー越しに押し黙るカナメ。
回答が来ない間にもシミュレーション設定を行う。流石に勝手が変わった機体で無謀な仮想戦闘などしても時間の無駄なので無難なテストデータを設定する。実弾ライフルやミサイルランチャーを搭載した標準的な人型兵器だ。

「流石に懲りたんです?普通のテスト機体にするなんて」
「使い勝手が変わってるのに無茶はしないっての」
「そうですか」

通信からため息が漏れ出てきた。つづいて行われる問いかけ。

「ハガネさんは今いるランカー相手じゃ不満なんですか?もう行方知れずになった人の背中を追ってもしょうがないと思いません?」

相方の疑問に設定の手を止めてスピーカーに向き直る。

「思わないね。強いヤツがいるなら乗り越えたくなるのが俺だ」
「はぁ……まさかそこまでクレイジーバトルマニアとは思ってなかったです」
「あきれたか?」

憮然とした返しにむしろ生き生きとした声を返すエンジニア。

「もう慣れました。それにハガネさんはボクにあの『蒼穹の機神』と戦える機体を望んでいるってことですよね」
「まあな」
「望むところです。未だにあのデウスエクスマキナを超えるSAは登場していないですから、ボクが創ります」

自信満々に答える少女の声に苦笑するハガネ。

「期待しているぜ」
「ええ。でも一歩ずつ行きましょう、無茶はだめです」
「そうだな」

会話の最中にシミュレーションのローディングが終わる。
コクピット内モニタに映し出されるシミュレーションの戦場。
密集した都市ビルの隙間合間にテスト機体が身を潜めている。自身の機体が立っているのはその場で最も高いビル、その屋上。

自殺者めいてハガネは愛機と共に宙に舞った。
だがソウルアバターは人間ではない。即座に向かってくる銃撃をスラスターをふかして軌道変更、猛禽のごとく旋回しながら落下、直下にいた迷彩巨人を引き抜いた刀の一閃で両断。まずは一機。

即座に跳躍。ビルを足蹴に三角に飛び回る黒武者の居た場所をミサイルが直撃し紅く爆発が起きた。飛び回る黒武者に何機もの敵機から銃撃が向けられる。回避機動に追いすがる弾丸の軌跡。

不意に、黒武者はあたかも空気を蹴るように空中で機動を変え、瞬間的に下方へと踏み込む。その場にはやはり身を潜めていた迷彩巨人。
急降下ざまに掌底で頭部ごと胴部をえぐり取る。無惨にへこんで光へと分解される敵機。

犠牲になった友軍機をかまうことなく行われる銃撃。しかし弾丸が届くころには黒武者は再び跳躍、空中での急転換、バレルロールといった変則軌道を繰り出して全ての攻撃を回避しては次々テスト機を撃破していく。

そうして半刻ほどたったころには30機は居たテスト機は全て撃破されていた。

「全機撃破完了です。お疲れ様でした、マスター」
「おう。被弾回数は?」
「4回かすめたくらいですね」
「上々だ」

実際、カナメの機能追加と調整の効果ははっきりと優位性を感じ取れるものであった。調整前であればもっと被弾していたことをハガネもまた確信していた。

「一歩ずつ、だな」

焦っても仕方がない、と己に言い聞かせコクピットに持ち込んだチョコをつまむのであった。

【UE:スイート・デイ:終わり】

作者注記
バレンタインデー向けに考えた話だったのだが、色々横やりが多くて今更なタイミングになってしまった。まあ、ゆるせ。

マガジンについてはこちらをご参照のほど

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