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ライフ・イズ・エンターテインメント!-3-

「マスター、何故このような非効率的な戦闘が観客を盛り上げることにつながるのでしょうか」
「む?ムムムムムムム……!」

 テーブルに山と積まれた書籍をスキャニングし終えたK/Rの言葉は合理・論理に従って考えれば至極真っ当な物と言えるかもしれない。実際に戦うのではあればいちいち攻撃を受けたりするのは非合理的な要素が多い。

 その一方で一般的には、娯楽においてワンサイドゲームというのは何であれ興ざめと受け取られる事が多いと俺も認識している。もちろん、一方的な展開を好むヤツも世の中には居るが……おそらくは少数派だろう。

 白熱する展開、と言うのは基本的には両者の力量が拮抗しているか、もしくは劣勢の側が苦境を跳ね返す事で生まれる。だが人間が何故そこに熱狂を感じるのかについては論理的言語化は非常に難しい。だが人間とはそういう物だ、などと言ってもこの精緻なAIには伝わらないはずだ。

 H・Mはというとこれまた覆面を赤く染めて(彼の覆面が一体どのような原理で出来ている物なのか俺もそろそろ気になってきた)熟考している。俺もまた思考を巡らせているが、人間が盛り上がるロジックをAIが受理する様な表現に上手く落とし込む事が出来ない。

「マスター?」
「まて、まて、ちょっと待つんだK/R。今考えてるから!」
「了解いたしました。まっくろくろすけさんはいかがでしょう?」
「右に同じ、だ」

 俺達の回答にじっと次の回答を待つK/R。AIとはいえこのまま待ちぼうけさせるのも進展がない。

「H・M、今の質問についてはこちらが回答を言語化できるまで保留させて、別のジャンルを体験させた方がいいんじゃないか?」
「タシカニ」

 H・Mは席を立つとバー内にある『エンタメ保管ラック』から今度は大量の映像ソフト媒体の山を抱えてきた。内容はやはりプロレス、バイオレンス、ファンタジー、他にも多種多様な映画、ドキュメントなどなど……かなり多岐にわたる。代わりに俺の方で今まであった書籍の山を抱え込むと保管ラックへと戻しておく。その内の、俺が読んでいないプロレスに関する書籍についてはテーブルに残したままで。

「わりぃがK/R、今すぐにはお前が納得する回答を出せねぇ。代わりにもう少し学習対象増やすぞ、と」
「了解いたしました。現行の疑問を保留とし学習内容を追加します」

 人間と同様にノートパソコンのモニターからもはや古代の遺産の様な扱いの映像ソフトウェアを視聴するアンドロイド。そんな彼女を横目にH・Mは腕組みしながら天を仰ぎ見ながら思案に暮れる。

「人間が盛り上がるリクツかぁ……」
「実際、なんでだろうな。彼女に聞かれるまで深く考えた事がなかった」
「お前そんなんでパルプ書いてんのかよ!?」
「否定したいが、事実だ。流石に最近は多少、考える様にはなったぞ」

 反論した後、再度熟考。人間が盛り上がる要素、という物自体は明確にある。だが何故なのか、と問われるとやはり言語化が難しい。生理学の観点で考えると脳内においてアドレナリンなどの物質分泌を促進し、興奮状態へと導く刺激と考えられる。つまり、人間とはそういう造りの生き物なのだ。

 しかしK/Rに伝えるにおいて問題となるのは、『何故人間はAIから分析した結果、非合理的と判断する様な行為に熱狂するのか』というところだ。

 答えの出ない俺の視界に、ふわりとなびく長いブロンドが目に映る。バー「メキシコ」で働くウェイトレスだが、もしかしたら彼女からなにがしかのヒントが得られるかもしれない。

【ライフ・イズ・エンターテインメント!-3-終わり:-4-へと続く

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