三度見たら死ぬ絵に泣きつかれた話
「お願いです……死んでいただけないでしょうか?」
「お断りいたします」
冬、深夜丑三つ時。
安アパートに染み込む寒さに凍えながらも明日の更新に備えてパソコンに向かっている俺は、突如辛気臭い感じの声で死に誘われた。当然、断る。
「ですよね……」
「大体どこの誰だ、不法侵入だぞ」
俺はメシ、風呂、寝る、創作の邪魔をされるのは相手が例えブッダでもオーディンでも許さん男である。迷わずマチェーテを手に取り振り向くと、そこに居たのは顔面蒼白黒髪の女の首だ。首から下は白い絹の様な物体で覆われており、ちゃんとした身体があるようには見受けられない。
「ヒッ……お、おゆるしください……!」
「他人様の命を奪っていいのは殺される覚悟がある奴だけって言葉を知らんのか?……いやまて、お前どこかで見たな。そうだ、今バズってる『三度見たら死ぬ絵』とやらで」
「ご名答です……」
都市伝説で囁かれる当人は、俺の前でさめざめと泣きだしてしまった。
「そんなつもりないのに、見たら死ぬで有名になってしまって……いっそ本当にするしかないと思ってしまい」
「通りでまだ二回しか見てない俺のとこに来たわけだ。誤カウントだぞ誤カウント」
「まことにもうしわけございません……」
地につくほど低い腰(存在しないが)で平謝りする『絵』を前に、こっちも嘆息してマチェーテを鞘に納める。
「で、実際の所どうなんだ。事実なのか?」
「そんな、絵を見ただけで死ぬなんてある訳ないじゃないですか、オカルトじゃあるまいし」
「絵の題材が夜に化けて出てるだけで充分怪談だがな……」
世間の噂話と違って特段、害はないらしい。
「私は一体どうしたら……」
「んなもん、無視したらいいだろう。世間の無責任な噂なんぞ」
俺のぶっきらぼうで無責任な言葉に、首はハッと顔を上げる。
「無視していいんでしょうか……?」
「良い、良い。無視してさっさと成仏しな。バズワードになったからヒト殺しましたなんぞ地獄遺棄だぞ」
断言すると、首は辛気臭さもそこそこにぱあっと明るい顔で光に包まれて昇天していった。成仏したらしい、コレデヨイ。
「しっかし、無責任な噂よなぁ」
カタタッと検索をかけると、絵を描いた当人の名前が出る。
『ズジスワフ・ベクシンスキー』
「2005年没、妻子に先立たれ、自身も殺害される……か」
死後に付く風評は選べないとはいえ、勝手な話ではある。
「まあ勝手に美少女にされるよかマシかぁ」
感慨もそこそこに、創作に戻るのであった。
締め切りまで、後半時。怪談よりも締め切りの方が恐ろしいというものである。
【終わり:1044文字】
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