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魂の灯 -62- #ppslgr

「……ッ!」

バティの中で思考がスローモーション撮影めいて鈍化する。隙間をついて抜ける、のはネコでもないともう無理だ。暗肉の檻を切り裂いて空間を作るのも、相手の供給の方が早い。

「詰んだ……⁉」

あっさり罠にかかってしまった自分に苛立つよりも早く、バティの身体は強引に暗色の檻を突破した何かに突き飛ばされて囲いを突き抜け、観客席を縦断する通路の上を転がった。

自分の身体にまとわりつく残滓をネコめいて振り払うと、自分を突き飛ばした相手に向かって顔をあげる。茶の瞳が黒い瞳と入交わった。

「ノア!」
「来ちゃダメ!」
「でも!」
「バックアップは取ってるから!だから……!」

会話は最後まで行われることはなく、少女の華奢な身体は暗肉の波濤に飲み込まれて見えなくなった。バティの奥歯がギシリと鳴り、豹のごとく身を縮めて跳躍から観客席の背もたれをかの義経公もかくやと飛び渡りステージ上の少年へと肉薄する!

「オオッ!」

振り下ろされた二刀の流れが交差を描くよりもなお早く、刃は少年の平手によって停止。酷薄な笑みを浮かべる少年の眼と視線が衝突する。

「彼女を開放しろよっ!」
「聞いてなかったのかい?あの子の身体は代えが効くそうじゃないか」
「そういう、問題じゃない……っ!」

ギシリと噛み合ったまま押しきれないと見るや、周囲を暗色の檻に包まれるよりも早くステージから、二刀を少年に受け取らせたままに飛び退き迷わず拳銃を連射する!額、心臓、腹部を過たず打ち砕く9ミリ弾!しかし先程と同様、爆ぜた少年の身体は巻き戻し映像それそのものにまたたく間に修復され、元通りとなる。

「クソッ!」
「落ち着けバティ!表に出ているのはただの囮だ!」

イシカワの言葉に、周囲を見回すも少年の隠匿は完璧な様に見えた。ステージから見渡した観客席は今や暗色の皮膜に包まれ、波打つばかりでそこにはいかなる知性体も存在しないかのように見えたのだが。

次の瞬間、日光を遮ってイベントホールを巨大な影が覆った。続いて、落下した影が突き出した黒橙の刀身が観客席の左舷を焼き貫き、一瞬にして融解させる!薙がれ、焼き払われた一角から人型の影が飛び退き、乱入者、バティ、イシカワを頂点とした三角形の中央へと移った!

「待たせたな」
「レイヴン!」
「凶鳥……!一体どうやって僕の居場所を……!」
「伏せ札だ。説明する気はないね」

黒衣の男が携えた黒橙の太刀を握りしめたかと思えば、瞬間に砲弾めいて少年に肉薄する!莫大な熱量を持った煉獄の刀身が空気を灼き斬る!

だが、恐るべき地獄の一刀が達するよりも早く少年の身は暗色に沈み込み、不利となった戦場より離脱した。続いて暗色の波濤もまた、潮が引くようにイベントホールから衰退していく。

「引き際だけは超一流の鮮やかさだ、全く面倒な奴め」

燃え盛る太刀は一瞬にして凝固し冷却した鉄の棒に変わり、黒衣の男が刀を収めるように手のひらに押し付けると魔法めいて姿を消した。

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