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銀幕と妄想のスイーツ


憧れのスイーツ、とは。
……私の場合、真っ先に出てくるのはフィクションの中のスイーツです。
小説、アニメ、映画のなかの食べ物って……通常の三割り増しで美味しそう、ですよね。
今回は『映画に出てくるスイーツ』を、映画の感想だの妄想だの加えて記事にしたいと思います。

【アマデウス】ヴィーナスの乳首

映画『アマデウス』に登場するお菓子、ヴィーナスの乳首。
インパクト抜群の呼び名と見た目。まさに“おっぱい”そのもので、ナイスネーミングというよりは、うんうん頷きながら「だよね〜」という感じ。

ウィーン菓子専門店「Neues(ノイエス)」の
「Venusbrüstchen(フェヌスブリュストヒェン)」…色白ですな。


『アマデウス(=神に愛されるの意)』は、18世紀のウィーンで宮廷音楽家だったサリエリと、若き新進気鋭の音楽家モーツァルトの出会いの物語です。
有名過ぎる作品なので、ご存知の方も多いでしょう。

モーツァルトといえば、これ!

幼い頃から神童と呼ばれた天才モーツァルトは、天才過ぎるゆえか、生活管理が超だらしなく、どんどこ曲を書いて稼ぎまくっていても稼ぐそばから使っていたので、奥さんのコンスタンツェはいつも家計に頭を悩ませておりました。(ある意味お約束的な、型破りな天才のイメージは、この作品の影響も大きいかもしれません)

とあるきっかけでサリエリのことを知ったコンスタンツェは、夫の仕事の斡旋を彼に頼みに行きます。
モーツァルトの才能を目の当たりにして衝撃を受けていたサリエリ。彼にとってモーツァルトはすでに、単なる仕事のライバルを超えて、強烈な嫉妬と羨望の対象でした。
サリエリは彼女の頼みを聞く代わりに、とある条件を持ち出します……。

その場面で、彼女に供されるのがこのヴィーナスの乳首。
庶民の口に到底入るものではない高級菓子。女性を釣るエサとして非常に効果があったようす……だってねえ、庶民はおそらく食べれないんですよ!このお菓子も、たぶん他のお菓子も。貴族御用達の店に出入りすらできなかっただろうし。
(ちなみにサリエリはこの菓子で、メイドも買収する。乳首大活躍)

今どきならセクハラ!?
乳首の色はピンクな方が……いやいや


どんな味だろう、と妄想してましたが、Eテレの『グレーテルのかまど』で放映してたらしく、丁寧な作り方のページがありました!PDF付きです。
えっ、その気になれば作れるのか、ヴィーナスの乳首……。まあ当時のレシピとは違うでしょうけれども。

下記サイト↓

マロングラッセのホワイトチョコがけ、みたいな味のイメージかな?めちゃくちゃ甘そうですね〜
いっかい食べてみたいです。いっかいでも食べれば、たぶん満足すると思う(笑)

【ショコラ】チリペッパー入りホットチョコレート

女優ジュリエット・ビノシュがチャーミングな『ショコラ』
北風と共に、とある閉鎖的な村に訪れた母娘。母親が作る不思議で魅惑的なチョコレートが、余所者を受け入れない、頑なな人々の心をしだいに溶かしてゆき……という物語。

ジョニー・デップ。ジプシー役、めちゃハマってました

ビノシュ演じるチョコレート店の店主ヴィアンヌ。彼女の明るさと、それぞれの悩みにぴったりなチョコレートを提供する不思議な力は、差別と偏見に満ちた眼差しを隠そうともしない村人たちを癒し、ひとりまたひとりと虜にしてゆきます。
主人公が間借りしている物件の大家の、狷介なお婆さん(演者はジュディ・デンチ。これは怖いよな)に、ヴィアンヌが差し出すのがホットチョコレート。

チリペッパーをひとつまみ入れて……
ひとくちすすって、初めて微笑むお婆さん。ヴィアンヌとお婆さんと映画を観ている人間が、スパイシーなココアの香りで、ひとつになる瞬間です。

自宅でも再現できそうですね!

物語の中盤で、ヴィアンヌが村人を招いてパーティを開くんですけど、料理にはふんだんにチョコレートが使われていて。スイーツとしてではなく、チョコレートソースを肉料理にかけて食べるという。
肉料理にチョコレート?ちょっとピンと来ないんですが、美味しいらしいんです。映画で村人はうっとりした顔でむさぼり食っていてですね……
宴の最後には、何かといがみ合っていた人々が、ホットチョコレート片手に笑顔で語り合うのです。甘いものは心の棘を柔らかくしますよね。ほんのひとときの間であっても。

あとは出てくるチョコレートが、どれも美味しそうで。(GODIVAが全面協力)
観ると、チョコレートが食べたい、よし今からチョコレートとミルクとチリペッパー買いに行こう!ってなります…たぶん。

店頭のチョコレートアートがまた素敵


【マリーアントワネット】ラデュレのマカロン


ソフィア・コッポラ監督、パステルカラー&ロックが溢れるガーリッシュな伝記映画『マリーアントワネット』

究極の“インスタ映え”

パステルカラーのドレスって、似合うのやっぱり欧米の人なんだなぁ。と強烈に思いました。アジア人が決して真似できない“映え”がある。めっちゃある。(まあ、外国の人は着物着た日本人見て、似たようなこと感じるのかもしれないけれども)

映画は、ほぼマリーの主観のみで物語が進行するので、宮殿とその周辺しか出てこない。終始どの画面もロココ調ゴージャスだったりパステルカラーだったり、入念に整備された庭園だったりで美しく、生々しいものや汚いものが全く映らないんです。
マリーは第一王子を病気で亡くしてますが、それすら「匂わせ」程度にしか描かれていません。公開当初は「ただ綺麗なだけで中身が無い」的な批判もあって、賛否両論だったとか。

どこを観ても映えしかない

でも考えてみれば、アントワネットは究極のお嬢様かつ、セレブのトップなので。自分で事業を経営したり稼ぐ必要はなく、求められているのは彼女の血統…「世継ぎ」だけなので。誰も彼女に、もっと周りをよく見て自分の頭で考えた方がいい、と言わなかったのかもしれない。嫁入りしたの十四歳ですからね。
映画のマリーの浮世離れした感じ……革命が起こって王政が傾いても、どこか他人事というか。意外と本人はこんな感覚だったんじゃないかなぁ、などと思ったりしました、私は。
ソフィア監督自身もお嬢様でセレブなので。監督でなければ撮れない映画だったんじゃないか……。

靴はマノロ・ブラニク

それはともかく。
映画にはこれでもかと「かわいい」が登場します。レースやビーズを贅沢に使ったドレスや帽子、カラフルな靴、手の込んだ料理とシャンパン、可愛らしいケーキ、山盛りのマカロン。
でもってスイーツ監修はパリの老舗パティスリー『LADUREE(ラデュレ)』

ほらほら「映える」だろぉ〜


映画のパステルカラーなマカロンですが、実際には当時のマカロンは、いまと違う姿だったようです↓

お口あーん、も絵になるキルスティン・ダンスト


【アメリ】クレームブリュレ

不器用な両親のもとで育てられた不器用な娘アメリが主人公の、カラフルで軽快であると同時に、登場する人々の言葉や表情の端々に垣間見えるディープな人生の色合いが魅力的なラブストーリー。
こちらも有名過ぎる作品なので皆さんご存知とは思いますが……観たことない方はぜひ観ましょう。傑作なので。noteに集うような妄想好きな方にはことにおすすめです。

カメラ目線多め/www.miramax.comより

医師の父親に心臓病と誤診され、他の子と触れ合う機会が極端に少ないまま幼少期〜少女期を過ごしたアメリは、今どきの表現をするなら内気でコミュ障。そんな彼女が、とあるきっかけから“他人を喜ばせるための策略をこっそり巡らせる”ことを始めます。
あくまで自分を出すことなく、他人を喜ばせ幸せにするためのイタズラを仕掛ける。
和風にいえば幸せ義賊?幸せねずみ小僧?

劇中に、彼女と両親の「好きなことと、嫌いなこと」の紹介が出てきます。
好きな「もの」じゃないんです。「こと」なんです。そうすることで、それぞれの価値観とか性格を俯瞰でみることができるし、夫と妻の共通点や、そこから推測できるアメリへ接し方など、いろんな妄想が膨らみます。
ちょっと長くなるけど引用。

プーラン氏(アメリ父)

・すきなこと   
壁紙を大きくはがすこと
靴を並べて磨き上げること  
道具箱を開けて中を掃除して元通りにしまうこと


・きらいなこと
知らない人との連れション
馬鹿にされたような目でサンダルを見られること
濡れた水着がカラダに張り付くこと

アマンディーヌ(アメリ母)

・すきなこと  
フィギアスケート選手の華麗な衣装
床をぴかぴかに磨くこと 
バックを開けて中を掃除して元通りにしまうこと

・きらいなこと
長風呂で手にしわが出来ること
自分が好きじゃないタイプの人に手を触られること
朝ホッペタにシ-ツの跡がつくこと

アメリ      

・すきなこと
豆の袋に手を突っ込むこと      
映画の見ている人の顔をこっそり見ること
映画の中で些細なことを発見すること
サンマルタン運河での石の水切り
クレームブリュレのおこげをスプーンで割ること

・きらいなこと
昔のアメリカ映画に出てくるわき見運転シーン

ブリュレ割るぞ〜

はいはい出てきたクレームブリュレ
アメリがお焦げをスプーンで叩いて割って、中からとろ〜りとカスタードクリームが出てくる、あれ。ワクワク感と、パリッととろっと甘〜い食感の記憶が口のなかによみがえる。好きなひとならわかるわかるーとなる、あれ。
こういう「わかるわかる」が入ると、映画にも主人公にもグッと掴まれますよね。映画におけるスイーツの役割のひとつだなと思います。

たまりません

このクレームブリュレというスイーツがまた、この映画にはぴったりだと思いませんか。濃厚なクリームの表面に、パリッと硬くてほろ苦いお焦げ。
ここで出てくるのがシュークリームとかケーキじゃダメなんですよね。この、甘さと苦味、柔らかさと硬さの合わせ技が……人生、って感じしません?(笑)

ちょっと記事の趣旨から外れますが『アメリ』は映画の美術がすんごく素敵。強く華やかな色合いが、現実世界をどこかファンタジックに魅せています。
『マリーアントワネット』の全編ソフトフォーカスのフィルターがかかったような、オール中間色パステルカラー少女の夢的な画面作りとは好対照。
コントラスト強め、影が暗くて色合いは鮮やかな原色。テーマカラーになっているのは「赤」。壁紙の赤、洋服の赤。そして赤を引き立たせるピーコックグリーンやターコイズブルー。
こんなに「これでもか、原色!」って感じなのに、下品にならないギリギリの絶妙なラインでオリジナルな世界観を作っている。

ジャン=ピエール・ジュネ節、炸裂!


ついでに。映画の絵作りのサイトを見つけたのでリンクを貼っておきますね↓

<サイト引用>
例えば「アメリ」のような映画は彩度を強くしただけではなくティントでルックにフィルターをかけてグレーディングをしているのが目立つ映画です。ティントとは撮影時点で収録された色を、RGBカーブなどを使って自由にいじり黄色だったり緑だったりの色にシフトすることです。これは映画のルックにとても大きな影響を与えます。


いかかでしょうか?
映画とスイーツのマリアージュっていいですよねえ。生きることは食べること。でもスイーツにはそれだけじゃない。スイーツには……「夢」と「想い」と、なんてったって「映え」があります。

……映画とまったく関係ないんですけど、さっきこれ食べました。
記事書いてたら、なんか甘いものが食べたくなってw

久世福さん限定の「ポロショコラ ほんのり河内晩柑」
ほんのり柑橘の香りと、濃厚なのに後味すっきりなチョコレートケーキです。
美味しゅうございました。

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