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19歳かぁ

ひと月ほど前から新しい生徒さんを教えるようになった。彼はサンフランシスコに住む学生で、去年の暮れ頃連絡をくれてトライアルレッスンをしたが、その後しばらく音沙汰がなかった。

すっかり忘れていた頃メールが来て、「あなたのレッスンを受けたいと思っているが、レッスン料金はいくらだっけ?実は、今、他の先生も検討しているところなんだけど」という。

コヤツ、私に駆け引きを持ちかけるなんて35年早いわ!と思ったので、すっとぼけて、以前提示した額をディスカウントせずにそのまま提示した。私の料金より安くて年齢も近い先生の方がいいだろう。

しばらく連絡がなかったが、またまた忘れた頃にメールが来た。この間、東京に短期留学して日本語学校に通っていたらしい。紆余曲折あったものの、トライアルレッスンから9ヶ月も経ってから、私とレッスンを始めることになった。

今朝、レッスンの時、彼は胸にStanfordと書かれたTシャツを着ていた。「スタンフォードの学生だったの?」と聞くと、「そうだ」というので専攻を尋ねると、この秋からスタンフォード大学の学生になるのでまだわからないという。アメリカでは大学によるかもしれないが、1年目はいわゆる一般教養的なことを学び、2年目か3年目から専攻を選択する。

私はとっくに大学生だと思っていたので、ちょっと驚いて「え〜、じゃあいくつなの?」と聞くと「19歳」。うわっ、21世紀生まれかよ。話しが合うかなぁ。

若いから新しい単語もすらすら覚えるし、スタンフォード大学に行くくらいだから頭もいいのだろう。的確な質問をしてくるし、打てば響くという感じで教えたことを理解していくので気持ちがいい。

これまでにも高校生や大学生の生徒さんたちを教えてきたが、若い世代は私が見ているものとは違うものを見ているので、彼らと話すといろいろ知らないことを教えてもらえて面白い。日本の若者との接点は全くないので、最近の日本の若者のことはさっぱりわからないのだが。

この新しい生徒さんはZ世代で、私から見たら超新人類。彼と話していて興味深いことに気づいた。私の生徒さんには、これまでいわゆるミレニアル世代(1980年代から1990年代半ば生まれ)の人たちが多かった。彼らの共通点は、アニメ、マンガがきっかけで日本や日本語に興味を持つようになったことで、みんな、ポケモンやセーラームーンをよく知っている。

ただし、日本語が上級レベルに達した後も勉強を続けている人たちは、アニメ、マンガを入り口にし、その後、他の日本の文化や日本人の価値観、日本語そのものに興味を持つようになっていく。教えている身としては、そうなってもらえるのがとてもうれしい。

15年ほど前はあまりに日本のアニメやマンガがブームになり、ニューヨークの日本語学校としていちばんよく知られているジャパン・ソサエティーに、夏休み期間だけ、マンガに出てくるような日本語を教えるプログラムができ、高校生や大学生が殺到したほど。当時は日本語を勉強したいという若者に理由を聞くと、ほぼ100%がアニメを見て日本語がかっこいいと思ったからと動機を語ったものだ。

だが、彼は違っていた。まず、「日本の食べ物がおいしいから」と答え、次に日本の文化に興味があると言った。日本の文化といっても幅が広すぎるので、「アニメとかマンガ?」と聞くと、アニメは見たことがないわけじゃないけど、あまり見ないという。これはちょっと驚きだった。アメリカの若者、特に日本語に興味がある若者なら、これまではジブリの映画なんかいくつも見ているのが普通だった。

で、彼が次に挙げたものは和製ジャズ。これにもびっくりだった。アメリカ人はアメリカ生まれのジャズを誇りに思っていて、他国のジャズなんかジャズじゃないと思っているだろうと思っていたが、それは私の狭〜い先入観だったようだ。

彼は何枚かLPレコードを持っていて、ジャケットを誇らしげに私に見せてくれた。最近、アナログレコードが復活して街にレコード店も増えているという話は聞いていたが、こういう若者がレコード文化を支えているのか。。。噂だけで知っていたことの証左をたまたま目にしたみたいな感じだった。

「これは日本のジャズでフルートで演奏してるんだよ」と見せてくれたのはMimoru MuraokaのBambooというアルバムで、フルートじゃなく尺八の演奏だった。なるほど、尺八のジャズ演奏はかっこいい。あんな音色は洋楽の楽器にはないだろう。確かにこれならアメリカの若者にも受けそうだ。

「エレクトーンで演奏してるんだけど、それが面白いんだ」と見せてくれたのはShigeo Sekitoのアルバム。エレクトーンの音は私にはなんだか安っぽく聞こえて、これまで好きだと思ったことはなかったが、エレクトーンで演奏するビートルズのイエスタデイはとても新鮮で、真夏の昼下がりに聞くとなんだかとてもよい。

それからHi-Fi Set、Masayoshi Takanakaの名前をあげた。

ああ、それなら知ってる知ってる。私の世代だー。

最近、80年代の日本の音楽がSNSなどで人気になっているという話は聞いたことがあった。YMOが人気があるのはわかるが、松原みきの「真夜中のドア」が海外の若者の間でブレイクしているそうだ。

80年代といえば私も若者でいちばん音楽を聴いていた頃。ということで、意外なところで21世紀生まれのアメリカ青年と接点が持てた。いろいろ教えてもらおっと。




らうす・こんぶ/仕事は日本語を教えたり、日本語で書いたりすること。21年間のニューヨーク生活に終止符を打ち、東京在住。やっぱり日本語で話したり、書いたり、読んだり、考えたりするのがいちばん気持ちいいので、これからはもっと日本語と深く関わっていきたい。

らうす・こんぶのnote:

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