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石川裕二(編集者・ライター)
2020年6月7日 22:07
「情は春の如く温かく 思いは秋の如く清くありたい」——70代の母の、高校の卒業アルバムに載っていた名もなき詩だ。近年、母は物忘れがひどくなった。数分前に話したやりとりを1日に何度もする。それでも、特定の出来事はよく覚えている。毎日のように口にするのが、高校卒業後、大手デパートの呉服売り場に就職したことだ。「●●さん(母の旧姓)はやればできるから」と担任教諭に勧められて面接を受けたところ