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アルファベットとヒエログリフ(歴史:一日目)

以下の本を1日1ページ読むだけで、世界の教養が身につくらしいので、本当かどうか試してみます。

一日目は「アルファベット」について。

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古代のエジプトで使われていたヒエログリフは、文字一つひとつに意味があって、その文字が何千個もあったようです。そんなものを覚えるにはたいへん時間がかかりますね。

一方アルファベットは数十個の「文字」を覚えるだけでOKです。一つの文字は音を表すだけで意味を持たず、その文字の組み合わせによって意味を形成します。

この新方式のおかげで文字の数は数千個から数十個まで減り、文字を覚えて使うのが、はるかに楽になった。

なるほどな〜と納得したくなりますが、なぜはるかに楽になったのでしょうか。『オックスフォード英語辞典』には、約18万もの言葉が収められているようですが、ヒエログリフの数千個よりもはるかに多いことは間違いありません。で、それらの言葉を(全てではないにせよ)使って、私たちは会話したり、文章を交わしたりしているのです。つまり、それらの言葉を覚えている点は変わりありません。

これって考えてみると、そんなに単純な話ではないことがわかります。小さい単位(素)の組み合わせによって単語を作り、単語と単語を組み合わせて文を作り、文と文を組み合わせて段落を作り、段落と段落を組み合わせて文章を作る。そのような再起的な処理で、私たちは書き言葉を処理しているわけですが、そのような作業と、ヒエログリフ時代の読み書きの作業とはどこがどう違うのでしょうか。

あと、日本でよく使われている漢字は、音だけでなく意味も持ちます。しかも、複数の意味も持ちます。非常にややこしいです。一つの文字について一つの意味しかヒエログリフが持ち得ないなら、漢字の方がややこしいかもしれません。海外の方が、日本語を覚えるのが難しいと言われるのも納得できます。

でも、なぜそれが難しいのでしょうか。素の組み合わせで単語を作ることと、一つの文字で一つの意味を形成することを比べたとき、前者の方が簡単であると感じられるのは(あるいは実際に簡単なのかもしれませんが)、なぜなのでしょうか。

英語の勉強をするときでも、最低限覚えおきたい単語が1500個とか3000個とか示されたりします。結局、日常を構成できる語彙を身につけるには、それだけの量の「言葉」を覚えなければならないのは、古代エジプトの時代と変わっていません。

むしろ、一つの文字と一つの意味が一対に結びついていた古代エジプトの方が「読み書き」は簡単だったのではないでしょうか。その時代であれば、readが現在形なのか過去分詞なので悩む必要はありませんし、蛇が何かのメタファーなのかを勘ぐる必要もありません。

そうすると、私たちは次の問いに直面することになります。

私たちは本当に目の前の文章を「読めて」いるのだろうか。「読む」とは一体どんな活動なのだろうか。

ある面で見れば、たしかにアルファベットよりもヒエログリフの方が複雑です。しかし、別の面で見れば、はるかにアルファベットから紡がれる言語体系の方が複雑でしょう。素から再帰的に構築される文章は、ほとんど無限の広がりを持っているのですから。

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