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『翼を持つ少女』(BISビブリオバトル部)レビュー

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『翼を持つ少女』BISビブリオバトル部

山本 弘 (著)

副題に入っている謎のBISというのは美心国際学園の略、学校の名前ですね。
生徒個人の自由を最大限に尊重した、かなり先進的な学校BIS。ここには帰国子女やハーフ、ダブルなども多く、髪・目・肌の色・国籍なども様々。なかなかきらびやかなイメージです。
そんな学校で、純和風の顔立ちでノーメイク、やぼったい服装。なるべく目立たないようひっそりと、教室の隅で自宅から持ってきたおにぎりをぱくつきながらSF小説を読む少女、伏木空(ふしき・そら)が登場します。
彼女は友達を作らず、人目を避けて学校生活をしていたのですが、ひょんなきっかけでこの地方の酒造会社の御曹司である埋火武人(うずみび・たけと)と出会います。
この武人の家には大きな書庫があり、祖父の遺した膨大なSFコレクションがありました。その内容がもうほんとうにすごくて、ハヤカワの銀背・金背はもちろん、創元推理文庫にサンリオSF文庫、宇宙塵のバックナンバーやSFマガジン、雑誌奇想天外などなど……。SFファンならよだれを流して感涙してなんかいろいろ汁をだしちゃうようなすごさです。

そんなすごいコレクションなのですが、とうの武人君をはじめ、埋火家の人々はまったく価値を認めていません。SFなんてくだらない。と思っているわけです。
そこに、先ほどのSF少女、空ちゃんがお邪魔したものだからさあ大変、興奮するあまりいろんな汁がほとばしってしまうわけです(それは嘘)。

そんな、SF大好き少女の空ちゃんと、SFなんて全く読まないノンフィクション派の武人君がBISのビブリオバトル部で活躍する。というのがものすごく大まかなストーリー。

最初、あまりに頑なにSFを読まない武人君と、ちょっと普通じゃないぐらいSF好きな空ちゃんに読者は作り物めいた違和感を覚えると思います(私は逆に他人とは思えないぐらいめっちゃ親近感でしたがw)。
しかし、物語が進み、彼と彼女の過去に隠された理由を知るにつれ、読者はどうしたって感情移入してくるはずです。
この両極端の二人を主人公にした著者の手腕はさすがです。ビブリオバトルと聞いて興味をもつであろう読者層を完全に押さえていますね。

あ、そうそう、ビブリオバトルというのは、限られた時間(5分)で本を紹介し、観戦者にその本をいかに「読みたい」と思わせるか。という競技です。実際に開催団体もあり、作中でも書かれているように結構もり上がっているようです。
まず良いな、と思ったのは、ビブリオバトル部の方針である「他人の読書傾向を蔑んではいけない」という点。これって、オタク界の不文律「人の趣味を笑ってはいけない」というやつですね。
この方針は、ビブリオバトルそのものの基本方針でもあります。人の発表を蔑んだり、DISったりはルールで明確に禁じられています。
そのうえで、いかに他人に「読みたい」と思ってもらえるか、楽しんでもらえるかの勝負なわけです。バトルといっても拳と拳で語りあうわけではなく、口論もしません。面白い(面白そう)かどうかがすべてというところがとても気に入りました。

そして、その方針はこの作品の大きなテーマにもなっています。他人(の好き)をあざ笑わない、けれど、(私の好きを知って)笑ってもらいたい。コミュニケーションの本質がそこにあります。本の紹介を通して、その本への思いのたけを人に伝えるべくアピールするわけです。

これって、私のように好きな本をネットで紹介する姿勢とまったく一緒です。親近感を通り越して自分のことのような、本の中なのにデジャブのような不思議な感覚を覚えてしまいました。
ビブリオバトルのお作法ってけっこうそのままブックレビューに当てはまる気がします。やっぱり人や本をDISらない、ネタバレはしない。人の性癖(違)を笑わないってのは基本ですね!
レビューがついただの読書感想になってしまうというあなた!(私もたまにそうw) この本はレビューの心構えややり方のHowTo本としても優秀ですよ!
おっと脱線。

さてさて、それはさておき、空ちゃんも最初のころは自分の中の「好き」の熱さに空回りをし、勝ち負けにこだわっておりました。
ビブリオバトル部の面々もある事件の結果、そうした勝負にこだわる姿勢に徐々に転じていってしまうのですが、そんななかで、勝負よりも楽しさを求めていく空ちゃん。その成長に、読んでいて目がしらが熱くなります。まじ泣けます。えぐえぐ。良かったですよぉー。

ビルリオバトルは、バトルというだけに勝負へのこだわりが過熱してしまうと、ダークサイドに堕ちてしまう可能性があります。作中で明らかにされていますが、人の性善説を前提にした競技なのでそもそも悪意ある不正行為には(ルール上)ストッパーがないのです。

善と悪の二象限に、主人公たちの本を通じた思い、そして、たーーーーーーーーーーーくさん出てくるSF小説の中で、やっぱりコレでしょうという本書で一番重きを置いて語られるある小説(ネタバレになるのでタイトルは伏せます)の中の宇宙観。これらが実は構造として同一の物だということに気が付くと、著者のもつ世界観と構成力のすばらしさにもグッときて、やっぱり感涙してしまうのでした。

先日紹介した『図書室の魔法』同様、本書でも登場する本たちが巻末にずらーっとでてきます。私はやっぱりSF本への思いが強いので、そこのSF本のリストをみるだけでついついコーフンしたり思い出し涙してしまったりしましたが。
なんせビブリオバトルだけに、いろんな本をめちゃくちゃ面白そうに紹介されているので、知らなかった本を知る、楽しそう、読んでみたいと思える本に出合える、そんな楽しみ方もありそう。
世の本好き、SF好きにめっちゃおすすめです。

◇ 以下、ちょっと現実世界の話も ◇

著者の山本弘さんは、テーブルトークRPGやカードゲームで有名なグループSNEの方。『ソード・ワールド』シリーズやSF小説もたくさん書かれています。
それと、『と学会』の初代会長であることも有名です。
と学会というのは、著者の意図とは違った読み方ができて面白い本=トンデモ本を紹介しあって面白がろうというはなはだ悪趣味(褒め言葉)な団体なのですが……。
告白してしまうと、実はわたくしも小さいころ何度かと学会の例会にお邪魔したことがあるんですヨ。
今は亡き(生きてます)父に連れられてどこぞの大学の教室で観劇(?)させてもらい、かわいがっていただきました。
会長の山本氏を中心に、濃いキャラクターの面々が繰り広げていた「トンデモ本」の紹介合戦は、まさに本書に出てくるビブリオバトルそっくりだったのを覚えています。
けっこう正義感のある主張が強すぎていろいろ叩かれたりもしている山本氏なのですが、疑似科学や陰謀論、差別や歴史ねつ造等について強い嫌悪感をそのころからよく表明されていて、この本にもその片鱗(?)が表れていたりします。

本書のあとがきではビブリオバトルを考案した谷口忠大(たにぐちただひろ)先生にお会いしてご教授いただいたと書かれてるのですが、いやいや山本さんってば、その前にと学会でおんなじことしてたじゃないのー。って亡き父(だからいるってば)に、この本を片手に突込みをいれてみたところ、『山本氏は最近脳梗塞で倒れて闘病しているらしい』と教わりました。うわあ、なんてこと! 
健康第一ですよ! SF作家は健康と脳みそめっちゃ大事ですよ!! 本気でお大事にしてください!! そして、はやくお元気になってまた素敵な小説(ゆっくりでいいですから)書いてください。楽しみにしていますぅ。
と、こんなところで勝手にファンレター的に脱線をしつつ。今回はここまで!

PS.あの歌で泣くとは思いませんでした。そういえばうちのパパ上さまもアレ好きだったなあ。ここでアレを持ってきて伏線まで回収して泣かせるとは。山本先生、さすがです><

PS2.山本弘先生の闘病記がカクヨムで書かれているの見つけました。

↑こちらです。さすがプロの書く闘病記。読ませますね! ほんと、はやくお元気になってくださいぃぃー><

続編もこちらにレビューしました!



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