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【頭の中にあるイルミの針】〜エリスとベックの理論〜

こんにちは。ryoです。暗いニュースばかりですが、春の訪れも感じる今日この頃。心は常に明るくありたいですね。

今回は、論理療法、認知療法を紹介します。
いずれも、ある出来事に対して過度に悲観的になっているクライアント、この時期であれば、転勤や異動に対してネガティブな感情を持った方にも有効な理論だと思います。

論理療法(Rational Emotive Therapy)

アメリカの臨床心理学者であるアルバート・エリスが提唱した理論です。
別名、ABC療法とも呼ばれます。下記のABC3要素で思考過程を説明します。

A(Activating event or experience)出来事や経験

B(Belief system)その人の持つ信念

C(Consequence)生じる感情や反応の結果

例えば、部署異動を例に考えます。

「異動はその人が部署で必要がなくなったときに起こるもの」(B/信念)という思い込みを持つクライアントがいたとしたら、異動(A/出来事や経験)が命じられれば、ひどく落ち込む(C/反応の結果)と思います。

他方、「異動はその人に色々な経験をさせて成長させたいという思いがあって起こるもの」(B/信念)という考えを持つ人にとっては、異動(A/出来事や経験)は、とても喜ばしい(C/反応の結果)ものになると思います。

このように、論理療法では、AがCの原因でなく、BこそがCの原因であると考えます。Bには「論理的な信念」と「非論理的な信念」の2種類があり、ネガティブな感情は非論理的な信念が原因で起こります。

非論理的な信念をもつクライアントに対して、自分の持つ信念が非論理的だと気付かせ、新しい論理的な信念を見つける手助けをするのが論理療法です。

その際、非論理的な信念に対して、「D(Discriminant and dispute)反論して粉砕する」という働きかけを行い、「E(Effect)効果」として、論理的な信念が発見されます。
そのため、この理論はABCDE理論と呼ばれることもあります。

D(反論して粉砕する)にあたって、クライエントに非論理的な信念に気がついてもらえるようにアプローチを行います。
非論理的な信念は「ねばならない信念」「悲観的信念」「非難・自己卑下信念」「欲求不満低耐性信念」の4つです。
よって、カウンセラーは、非論理的な信念の見立てを行いつつ、クライアントへの「どうしてそう思うか」という問いを通じて、非論理的な信念の発見を促すといいかと思います。

認知療法(Cognitive Therapy)

アメリカの精神科医アーロン・ベックによって提唱された理論です。
人間の感情は、出来事をどのように認知するかで決まり、その認知にゆがみがあると不快な感情が生まれます。その認知のゆがみに働きかけ、不快な感情を修正するというのが認知療法です。

人間には考え方のくせがあり、自分の意志に関係なく、自然と連鎖的に思い浮かぶ考えを自動思考と呼びます。認知のゆがみから生じるこの自動思考は、不快な感情を強化します。

代表的な認知のゆがみは下記6つです。
・選択的抽出
良い側面と悪い側面の両方があるにも関わらず、悪い側面だけ取り出してしまうこと
・恣意的推論
根拠もないのに、悲観的な結論を出してしまうこと
(例)あの人は私が嫌いに違いない
・過度の一般化
小さな出来事から、一般化して考えること
(例)だから若者は・・・、だから外人は・・・
・拡大解釈や過小評価
出来事を実際よりも大きく評価したり、小さく評価して考えること
(例)今回の成功はたいしたものではない
・自己関連づけ
本来自分と関係がないことを自分に関連づけて考える
(例)部署の雰囲気が悪いのは私のせいだ、先輩が起こられているのは私のせいだ
・全か無か思考
白か黒か、良いか悪いかという極端な二者択一的な思考
(例)結果が出なければすべて無駄、出世できないと人生失敗

カウンセリングとして有効なのは、「自動思考の認識」「認知の根拠を考える」「別の考え方はないかと考える認知の修正」です。

アプローチの仕方としては、論理療法の時のように、認知のゆがみに気付かせるというところから始めるといいと思います。そのために、自動思考について一緒に考えたり、自分の考え方のくせについて考えてもらったりします。自分が悲観的に感じている目の前の出来事を、クライアントに客観視してもらうのも有効な方法です。

論理療法と認知療法の違い

エリスとベックの理論は似通ったところもありますが、ベックの理論は不快な感情が生じる直前の思考に焦点を当てるのに対し、エリスの理論はその人が今強く思い込んでいること、その信念に焦点を当てるところが大きな違いです。

論理療法も認知療法も、私は漫画『ハンター×ハンター』のキルアの頭の中に刺さっていたイルミの針みたいなものだと思っています。
(※『ハンター×ハンター』ご存知無い方すみません。下記スルーしてください。笑)

ラモットとキルアの戦いでキルアが頭の中にあるイルミの針を抜く過程がまさにこれでないかと。
針によって聞こえるイルミの声は自動思考であり、針自体が不合理な信念だと考えます。キルアは強そうな敵、ラモットを前にして「逃げろ」という自動思考がおきます。
兄のイルミに小さいころから「勝てない相手とは戦うな」と教えられてきたからです。実際は自分の方が強いのに、その自動思考によって、正しい判断ができなくなり、立ち向かうことができず、キルアは震えて動けなくなってしまいます。
近くには、自分の親友がいて、逃げたら親友は殺されてしまいます。そんな状況の中、キルアは自問自答を繰り返し、頭の中に埋まっていたイルミの針を取って正常な認知ができるようになり、目の前の敵を倒しました。

この出来事をそれぞれの理論で考えます。

【論理療法的に考えると】
強そうな敵と対峙する(A)、逃げなくてはいけないと思う(C)、なぜなら「勝てない相手と戦うな」というイルミの針(B/不合理な信念)があるから。でも、大事な友達を守るためならそれでも戦わなくてはいけない時もあるはずだ!と、イルミの針を抜いて(D)、目の前の敵を倒した(E)

【認知療法的に考えると】
強そうな敵と対峙する(出来事)、「逃げろ」というイルミの声が頭の中に響き渡り(自動思考)、恐怖する(感情)。しかし、そこでキルアは思う。「本当にこいつには勝てないのか? なんでそう思うんだ? 辛い修行をしてきたじゃないか、負けるって証拠はないよな、勝てないと思う理由は実際にはない!」(認知のゆがみ)と気がつき目の前の敵を倒した。

「自動思考」というフレーズを初めて聞いた時、私は真っ先にこの針のことを思い出しました。笑


大きな概念が非論理的な信念で、それに至る思考の過程に認知のゆがみが関わっていると考えられるので、非論理的信念が極端であれば、そこで立ち止まって論理療法でアプローチ、そうでなければ、話を聞きながら認知療法でアプローチしていくのがいいと感じました。

4月は実践形式でこれらの技法を練習していければと思っています。詳細が決まりましたら、またこちらで告知させていただきます。

日々目まぐるしく状況が変わりますが、まさに季節の変わり目、お体どうぞご自愛ください!

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