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電車にて その1

赤の他人同士がぎゅうぎゅう詰めになる状況って、電車かライブハウスぐらいではないでしょうか。しかし、ライブハウスやコンサートは、他人同士でも興味が一致しているという点で異なります。野球観戦で阪神ファン同士がすぐに仲良くなるように、基本的に楽しみに行っているので、電車の場合とは心持ちが変わってきます。
電車の中には色々な心の修行の場があります。スマホ、音漏れ、香水、新聞、化粧、座席の座り方などで人を不快に思わせる環境が、いとも簡単に生み出されます。私も長年電車通勤をしていた時期があるので、色々と勉強させられました。そんなわけで、電車にまつわるエピソードがたくさんあるのですが、今日は2つご紹介したいと思います。

1つ目は、たばこです。
少し前に「不適切にもほどがある」というドラマがあり、バスの中でタバコを吸うシーンというのがありました。昭和の時代は、バスでもタバコが吸えたんだ、という描写ですが、平成、令和世代には驚きかもしれません。私は昭和世代なのでもちろん知っています。そして、バスのみならず電車でもタバコが吸えたことも覚えています。
私が住んでいたのは阪急沿線で、関西では有名な、私鉄の中でも少し高級感のある阪急電鉄の駅が最寄りでしたが、そんな阪急電車でさえ、一部路線では車内に灰皿が備え付けられていました。もちろん喫煙可ということですが、今では考えられませんね。
当時は、駅でも電車内でもバンバンたばこが吸えたわけです。吸わない人からすれば大変な時代だったかもしれません。私は子供でしたが、祖父が喫煙家だったためか、あまり気にしたことはありませんでした。

平成に入って、愛煙家たちの居場所がどんどん狭められていくわけですが、各企業の分煙化もすっかり定着した今から10年ほど前のことでした。その頃、まだ私はバリバリの電車通勤者でした。仕事が終わって、電車に乗って帰る途中、私は座席の中ほどに座っていたのですが、隣にはカップルが座っていました。
私が本を読んでいると何やら近辺が少しざわついた感じになっているので、ふと横を見ると、隣のカップルのその向こう側に座っている70前後ぐらいの男性がプカプカとタバコの煙をくゆらせているのです。走っている車内での喫煙、私はその堂々たる姿に嫌悪感よりもどちらかというと少し感心に近い感覚を覚え、「やるなぁ、このおっさん」という第一印象でした。
ふと我に返り、周りを見てみると、なにやらヒソヒソ声でおっさんを非難している様子がうかがえるのですが、誰も注意しません。隣ではカップルの彼女のほうが彼氏に「なんとか言ってよ」みたいな感じで同じようにヒソヒソしています。

私の憶測ですが、この時、誰も注意しなかったのは、恐らく注意した際におっさんに逆ギレされたらどうしようか、という心配があったからなんじゃないかと思っています。私はすでに「気づき、学び」の自己修行真っ只中でしたので、頭の中から独学で得た対処法を引っ張り出してきました。そして、立ち上がり、おっさんのところへ行って伝えました。
「おっちゃん、電車の中はタバコ吸ったらあかんわ。」やんわり口調で笑顔でいうと、おっさんは、「ああ、ほうか、わるいわるい」とすぐに火を消してくれました。席に戻ると、周囲からのこれまたひそひそな称賛が少し感じられました。
私が出してきた対処法は、「ヤマアラシのジレンマ」。微妙に違うかもしれませんが、要は怒りは怒りを呼ぶ、逆ギレの心理です。つまり、裏を返せば、やさしく注意すればやさしく受け止めてもらえる、とも取れます。車内のみなさんが本当に逆ギレを心配して注意しなかったかどうかは分かりません。しかし、おっさんが車内は禁煙だということを本当に知らなかった可能性もあります。70代の方なら昔は吸えて当たり前でしたからね。

どんな状況でもイライラしながら物を言うと、そのイライラは相手にも伝わります。イライラを受け取った相手は同じようにトゲを返そうとします。立場や状況でトゲが返せず、ストレスとなって自分の中にトゲが残る場合などもありますが、そもそもトゲを出さなければ皆平和なままなのです。
ちなみに私は電車に乗らなくなってもう数年経ちますが、私がいちばん苦手なのは、香水です。あれだけは、どうしても我慢できません。我慢出来ないと言うか、ひどい時はむせたりします。生理的に受け付けないというのは、本当はこういうことを言うのでしょう。きつい匂いの乗客が近くに乗ってきた時、私ならどうするか。

他の車両に逃げます。

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