【浮世絵のはなし】こんなのもう推しグッズじゃん。ファン心理を分かってる。

ようやく回ってきた浮世絵回。普通に趣味でデータベース見て回ってたら、載せたいのが多くてブックマークがごちゃごちゃになってしまった。それくらいデータでみれる作品が多い。実際にみた方がいいものもたくさんあるのだけど、取り寄せてみる〜みたいな気軽さで触れられるもんでもないので行ける時に行くしかない。

高橋克彦『大江戸浮世絵暮らし』では、「浮世絵は芸術ではなく日常のものである」と繰り返し書かれており、なるほど確かにそうである。今回は、その中でも特にワクワク感の強い「玩具絵(おもちゃ え)」の話を。

検索には「ARC浮世絵ポータルデータベース」を使用しています。



まずは、見て楽しむ絵。

芳虎,万治板 『「新板かつて道具尽」』(国立国会図書館所蔵) 「ARC浮世絵ポータルデータベース」収録 (https://jpsearch.go.jp/item/arc_nishikie-NDL_225_00_002)

「新板かつて道具尽」

このタイプの何かのジャンルをまとめる系は当時としても楽しいものだったのだろうか。着物の柄を並べたものなどは、模様を眺めて楽しいな〜ってなるけど。あ、でもこれ図鑑的な面白さがあるかも。イラスト集を思い浮かべてたけど、これはきっと図鑑の面白さだ。

画像の絵のタイトルに「かつて」とあるが、どれくらいかつてなのだろう。江戸時代ってずっとこの浮世絵に出てくる道具を使ってたイメージがある。しかし、これは昔のものとして扱われている。安政四年の出版でわりと幕末なので、生活道具の変化もあったんだろう。もしかすると、海外から新しい道具が輸入され始めて、こういうのはもう古いよという意味なのかもしれない。

なんにせよ、昔の日用品が知れるのはすごい。そういう民間の資料として残っているのが。


広重『「即興かげぼし尽し」「こんろにきびせう」「かんちろり」』(The British Museum所蔵) 「ARC浮世絵ポータルデータベース」収録 (https://jpsearch.go.jp/item/arc_nishikie-BM_1907_0531_0596)

「即興かげぼし尽し」「こんろにきびせう」「かんちろり」

この絵、なんと作者が歌川広重である。イメージと違う。「即興かげぼし尽し」がシリーズのタイトルで、かげぼしは影法師のことだろう。変なポージングをとったおじさんが障子の後ろに立つと、その影が他の何かに見える。影絵遊びである。

その後ろの「こんろにきびせう」「かんちろり」はおじさんたちのポーズが何になっているかを意味している。「こんろにきびせう」は、コンロに急焼。急焼、急尾焼と書いてきびしょ、きびしょうと読むそうだ。茶葉を入れてお湯を沸かす、やかんと急須の役割と両方持っている道具らしい。画像では上のおじさん。

下の「かんちろり」は、燗ちろり。お燗をするちろりである。江戸時代、お酒は暑くても燗して飲んでいたそうだから、かなり身近な道具だったんじゃなかろうか。

「即興かげぼし尽し」は、これ以外にも「梅に鶯」や「松」など風流なモチーフもあり、おじさんのめちゃくちゃなポージングとのギャップが面白い。この絵を初めて見たとき、こんな面白いものがあるんだ!と気に入って、ポストカードを買って帰った。


次は、見て考えるもの。

芳藤,丹半 『「東海道五十三次はんじ物」』(国立国会図書館所蔵) 「ARC浮世絵ポータルデータベース」収録 (https://jpsearch.go.jp/item/arc_nishikie-NDL_225_00_026)

「東海道五十三次はんじ物」

まあ、玩具絵といえば判じ絵みたいなところはある。何かの単語をイラストで書いて、これはなんでしょう〜とやる謎解きみたいなものだ。この絵で分かりやすいのは、右側の真ん中より下にある「歯に猫の組み合わせ」だが、これは猫が反対になっているので「箱根」と読む。東海道五十三次の駅名になっているようだから縛りはあるものの、現在では通らない常識があって名前も分からないから結構難しい。

判じ物は人気が高く、企画展や書籍も出ている。謎解きの面白さもあるし、当時の風俗も知れるし、右脳と左脳を両方使う感じが楽しい。


玩具絵というからには、遊ばねばならぬ。そろそろちゃんとおもちゃです。

『〔出世善悪二道双六〕(収載資料名:双六)』(国立国会図書館所蔵) 「ARC浮世絵ポータルデータベース」収録 (https://jpsearch.go.jp/item/arc_nishikie-NDL_1310645)

〔出世善悪二道双六〕

すごろくである。これはかなり出てくる。どうしてこんなに流行ったのか。どうしてですか?確かに、サイコロと駒を一揃い持っていればあとは紙があれば遊べるし、数回でその紙も見慣れて次のが欲しくなるし、一つのもので何回もというよりは別のバリエーションを持ってきた方が楽しいんだろうなあ。

タイトルに惹かれて引っ張ってきたこの双六に触れよう。「出世善悪二道双六」である。出世善悪二道。詳しく見ると右半分が悪の道、左が善の道になっているのがわかる。中央上の大きなマスは上がり、下の大きなマスはふりだしである。上がりのマスは「だんな」だ。最終的に旦那になれば、どんな道を通ってきたとて出世したことになる。

ふりだしには、一から六の数字とその下に文字が書いてある。数字はサイコロの目、文字はその次に進む場所である。ふりだし以外の場所は数字が二つか三つしかない。書いていない数字が出た時は一回休みの扱いになるのだろうか。ふりだしのマスを読んでいくと、奇数は左に、偶数は右に進む。初めに奇数が出たら正の道を、偶数が出たら悪の道を進む。生まれた場所で大体の将来が決まるというメッセージが込められているのか、いないのか。色々世襲制ですし。


今度は切ります。切っちゃうよ〜!

<1>河原崎 権十郎『「河原崎三升」』(個人(Ebi)所蔵) 「ARC浮世絵ポータルデータベース」収録 (https://jpsearch.go.jp/item/arc_nishikie-Ebi1459_01)

「河原崎三升」

かつらを付け替える遊び。着せ替え人形である。これはおそらく切り取って遊んでいたものを、切り取った方の背景は捨ててしまっていたが残っている分だけ集めてデータにしたもの。今もそうだがおもちゃは成長したら捨てられることが多いから、この紙切れが現存しているのは結構すごいと思う。

切り取られずに保管されている、状態の良いものもたまにある。状態良く残っているねえ〜と思う反面、遊ばれなかったんだなあとも思う。気に入らなかったのかな。

この男性はどう見ても歌舞伎役者で、どう見ても市川家である。歌舞伎役者のブロマイド的な浮世絵、東洲斎写楽の作品のような(と言ってしまうと微妙かもしれないが)、それらは美術館で見かけることも多いが、このように遊べるものすらあったのである。歌舞伎が民衆の文化だったと言われて、これを出されたら納得するしかない。いや、これほぼ「推しグッズ」でしょ。


切ったら貼るのもあるに決まっている。

『「切抜きてお人形遊びのお合手のお屏風やかけ額」』(立命館大学アート・リサーチセンター所蔵) 「ARC浮世絵ポータルデータベース」収録 (https://jpsearch.go.jp/item/arc_nishikie-arcUP6506)

「切抜きてお人形遊びのお合手のお屏風やかけ額」

完全に説明のタイトル。「切り抜いて人形遊びの屏風やかけ額」にしてください、と。これ面白いのが絵画じゃなくて模様だけのやや地味なパーツが、それと同じ形のパーツの裏面になっているところ。裏側気にするの仕事が細かい。その割に豪華な松の屏風には裏面パーツが無いな?と横の文字を読むと、「この裏は千代紙を」とある。細かいな。

一見つまらないけど、作りが丁寧でいいよね。なんか可愛くて好きです。


今度は切って貼ったら組み立てます。

無款,- 『「新工夫四ツ谷怪談丁ちんぬけ」』(立命館ARC(白樺文庫)所蔵) 「ARC浮世絵ポータルデータベース」収録 (https://jpsearch.go.jp/item/arc_nishikie-shiUY0162)

「新工夫四ツ谷怪談丁ちんぬけ」

「四谷怪談提灯抜け」ですね。「提灯」の部分を「丁ちん」と書いているから分かりにくかった。音が合ってればいいのかな。これ、文字を読めばどうやって組み立てるのかわかるんだけど、それを説明するのが大変なので今度印刷して作ります。

>つくりました。

提灯と暗闇のところと男性(伊左衛門)のポージングが動かせる。

全然関係ないんだが、この変体仮名ってもはや記号にしか見えなくて、読むべき文字として認識されないんだよね。だから最初ぱっと見で「いやどうやって作るのか書いとけ」って思っちゃった。よく見たら全部書いてあったわ。

そして、これはおそらく歌舞伎や文楽(人形浄瑠璃)の『四谷怪談』を元にしたおもちゃで、提灯抜けという演出を再現している。組み立てると仕掛け絵本のようになり、提灯からお岩さんが出てくる。実際に観た事はなく想像でしかないのだが、なかなかアクロバティックでびっくりする演出なんじゃないかなあ。思わずビクってしそう。子供が泣くやつ。

>提灯抜けの説明が文化デジタルライブラリーに載っていた。


続いても四谷怪談。

貞信〈1〉,いし和板 石川屋 和助 『「極新はん切組とふろう」「四ツ谷怪談六枚続」』(立命館大学アート・リサーチセンター所蔵) 「ARC浮世絵ポータルデータベース」収録 (https://jpsearch.go.jp/item/arc_nishikie-arcUP1806)

「極新はん切組とふろう」「四ツ谷怪談六枚続」

こちらも切り貼りするものだが、なんと立体になる。ついに立体造形が。ただ、先ほどのように仕掛けを作って動かすものじゃなくて、ジオラマのようなものが完成する。間に挟まってる人たちも登場人物っぽい。この決まったスペースに無理くり収めてる感じ苦労してるな。

題に「六枚続」とあるので、これの他に五枚ある。それっぽいのがデータベースで見られたので、時間があったら全部印刷して組み立ててみてほしい。私は一つ前の四谷怪談をやるから。


六花園芳雪,平野町淀屋橋筋角 石川屋和助 石川屋 和助 『「大新板船の組上」「淀川組上ノ図」「上気の船 人物 船の上に乗る」』(立命館大学アート・リサーチセンター所蔵) 「ARC浮世絵ポータルデータベース」収録 (https://jpsearch.go.jp/item/arc_nishikie-arcUP5611)

「大新板船の組上」「淀川組上ノ図」「上気の船 人物 船の上に乗る」

これこれ!こういうの!って思ったやつ。絶対人気出るじゃんこんなの。船だぜ?船を組み立てて作るのなんて、さあ、かっこいいに決まってるじゃん。あ〜、これ、濡れても大丈夫な素材で作ったら実際に浮かべて遊べそう〜。


不明『きんぎょ ひごい ふな かめのこ 板形紙玩具絵』(足立区郷土資料館所蔵) 「ARC浮世絵ポータルデータベース」収録 (https://jpsearch.go.jp/item/arc_nishikie-Adachiku_989_)

きんぎょ ひごい ふな かめのこ 板形紙玩具絵

めちゃくちゃ難しそうなこれ。切るパーツは少ないけど、魚の身の形をふんわりさせる技術が必要になりそう。カーブをちゃんと守ればふんわりになるのかな。完成図も小さく載ってるけど、これは理想の形すぎて「※画像はイメージです」が入りそうだな。


「新ばん役者香箱尽」

最後にこれを。あのねえ、もうねえ、推しグッズすぎる。こんなの組み立て済みのやつがライブグッズになってるわい。説明すると、役者の似顔絵が描かれた香箱が完成します。そんな事していいの?あんまり自信ないけど、これは蓋の役者の紋が底の柄になるのかな。ファン心理を分かってるね……



という感じで玩具絵回を終わる。載せたかったけど遊び方が似ているから断念したものもあって、ちょっと悔しい。何かしらの浮世絵データベースで「玩具」で検索すると他にもいっぱいみれるので……これは自由研究の題材にならんかな?

ほんとの最後。一番面白かった、波しかない玩具絵。




こういう系の話が好きな方は↓をどうぞ。

次回更新 4/24:引き続き浮世絵回
※だいたいリサーチ不足ですので、変なこと言ってたら教えてください。気になったらちゃんと調べることをお勧めします。



めでたし、めでたし。と書いておけば何でもめでたく完結します。