【器のはなし】桃の割れ目は上にくるべきか下にくるべきか
今回は少し変則的な回。話題に必要な実物を持っていないので、イラストで代用しているが、ちゃんと見たい人は「伊万里焼」とか入れて画像検索してほしい。
○
色絵磁器の見込みには、桃の模様が描かれていることが多い。今日はこの桃の話をしにきた。
この桃の何を話すかというと、「正しい向き」のことである。桃の模様に込められた意味の話などは特にしない。調べれば出てくる。
Twitterでは「桃の絵を描くときに割れ目がある方を下にするのは日本人だけ」というトピックがしばしば話題に上がる。さて、ここで問題を出すか出さないか迷ったのだが、出さない。骨董の世界で正しいとされている桃の向きは、イラスト左側の「割れ目が上」の方である。現実世界の桃はこの向きに実るからだ。
ここなんですよ、私が疑問に思っているのは。本当に左が正しいのか?日本人が思い浮かべる桃は、右側の「割れ目が下」の方だ。だから、本当は右側なんじゃないか。という主張は根拠が弱すぎるのでしない。
先に述べるが、私は右側の「割れ目が下」の向きが正しいと思っている。理由は二つ。一つ目は、右側の方がデザインとして美しいこと。二つ目は、他にも本物の向きと違う描かれ方をするモチーフを見かけること。
一つ目の、デザインとして美しいに関しては、もはや感覚なのでは?感も否めない。が、葉の配置を見ると、割れ目が下の桃は葉の先が上向きになる。見た目、縁起良さそう感ともに、葉先が上を向く方が美しいのではなかろうか。
二つ目の、本物の向きと違う描かれ方をするモチーフだが、ぱっと思いつくのは山葡萄である。最近ぶどう狩りをしてきて見てきたのだけど、葡萄は上の方が実が多く、逆三角形をしている。だが、「上に向かって伸びていく」だか何だかの理由で、三角形になるように実を描くことが多い。
他に、枇杷も同じく上向きに描かれがち。柘榴は実際ちゃんと見たことがないからよくわからん。こんな手のひらで包んだような破れ方をするんだろうか。リアルさよりも美しい形を想像して描かれてそうだから挙げてみたが。
という感じで、「桃の割れ目が上」が正しいとされている今の状況が、いつか変わるんじゃないかなあと思って過ごしている。そういう正しさは変わりにくいけど、絶対に変わらないとも言えないし。「今は『桃の割れ目が上』の向きが正しいとされている」という話でした。
○
話は変わって、先日エコタウンに行ったら印判手の写しを見つけた。江戸期古伊万里の写しではなく、明治期以降の印判の写し。なぜそこを?というのが素直な感想。というのも、どう考えても古伊万里の方が手が良く絵付けの質も高いし、世間的な人気も高い。やるなら古伊万里の方がコスパが良いというか。
見つけたのは、明治前期に造られた型紙刷りをプリントによって似せたもの。よく見ると、時代物にありがちな黒点(素地に混じった鉄分が焼成で表に出てきて、黒くなってしまったもの。真っ白が理想とされる磁器において、黒点はマイナスなので現在は黒点が出来てしまうとB級品として扱われることが多い。)をわざと作っている。
さらに、素地が若干青みがかっている。これも、なるべく白い方が磁器として美しいのだが、古いものに寄せるためにわざとやっているのである。百均の白磁を見て貰えば分かる通り、今はもう真っ白な素地を作れる。
模様は、全く同じものを明治前期の印判で見かけたことはないのだが、この手には星柄が存在する。おそらくそれを意識しているのではなかろうか。もしくは、この柄が実在するのかもしれない。あってもおかしくない。
見慣れていない人であれば、もしかすると明治前期のものだ!と思ってしまうかもしれないが、これは多分平成だろう。令和も五年目だし、可能性はゼロじゃないな。
古伊万里の写しはしばしば見かけるが、印判手写しは初見だったので興味深くみた。調べたら、景春窯は京焼を中心につくっている様で、印判手写しはこの柄くらいかもしれない。古伊万里の蛸唐草っぽいのも出てきたが、同じ窯元か分からない。インターネットの情報は鵜呑みにしてはならんので。
○
余談、「ちょっと難しくて初心者向けではないよね」と言われることについて。その感想は私の狙い通りですよという話。やや長め。
私が調べればすぐにわかることを書きたくないって思ってるのって、noteを始める前からかもしれない。ライティングの案件が載っているサイトで、案件を選んで書くやつをほんの少しやった時の名残だ、これは。
あれっていろんなサイトの切り貼りをとても上手に出来ればいいものばっかりで、「あれ、これって書いたところで今トップに出てくるようなサイトには勝てなくない?」って気がついた。同じ内容が書いてあるなら、いろんな人が見ている力のあるサイト(情報が確かかは置いといて)の方が人気が出る。検索してすぐ上にいるからタップされるし、タップされるから上に居続ける。
その後いろいろ勉強したいなと思って、iPhoneで調べながら「自分の教科書にする用ノート」を作っていた時期があった。このときに、ある事柄の新規情報が欲しいのに、上から五個分のサイトを開いて内容がほとんど一緒でめちゃくちゃ苛立った。それより下に行くと、さっき見たサイトと全く同じ文章が載ってたりする。
初心者向けでわかりやすい。まあ、初心者のうちはありがたいけど、ちょっと進めばすでにそれは知ってる情報になってしまう。それが嫌になっちゃって、自分がそこに加わりたくないなって思った。
多くの人はいろんなことに初心者だから、結局「初心者向け」が一番読まれるのは分かっている。初心者が一番多くて、中級、上級とピラミッド的に人が減る。それを分かっていて、いま私が目指したいラインは興味のない人でも楽しめるけど、興味のある人の方がより楽しく読めるくらい。初心者から中級の間のレベルが、読んで新しい知識を身につけられる程度。YouTuberでいう「予備校のノリで学ぶ『大学の数学・物理』」あたり。基礎知識はある程度必要だよっていう。
だから、あんまり説明しすぎないようにしている。ちょっとコピペして調べれば、初心者向けのわかりやすいサイトが私よりも上手に説明してくれているし、そこを私が担う必要はない。また、それなりのレベルのを書きたいと思ったら、自分がまずある程度知識を持っていないといけないし、欲としてそのくらいの知識は身につけておきたいから、自分へのハードルを設けるという意味でも、この位のレベルでいきたいなあと思っている。
めでたし、めでたし。と書いておけば何でもめでたく完結します。