【浮世絵のはなし】小鳥かと思って外を見たら先日死んだ義弟だった

新聞錦絵の回をやろう。本を読んだらやろう。ちゃんと調べたらやろう。と思っていたが、ついに本は読み終わらず今日を迎えてしまった。なので今日は「絵を見る」方に振り切って鑑賞する程度の足の突っ込み方をする。

ところで「新聞錦絵」を呼んでいたが、一般的には「錦絵新聞」と呼ぶようだ。Wikipediaがそう言っているからきっとそうなんだろう。このWikipediaページがちゃんと調べられてそうだったから、大学のレポート提出で参考文献に挙げてもいいだろと思ってしまった。


初めて錦絵新聞の存在を知ったとき、これは瓦版とか号外とかそういうのかなって思ったんだが、どうやらそうではないらしい。漢字も読める知識を持った人向けの絵がない新聞の中から、おもしろトピックをイラスト化し漢字にルビをふりゴシップ誌のようにして出したのが錦絵新聞らしい。つまり新聞に乗っかったもので以前記事を読んだことがある人にとって情報としては新規性がないものだった。

新聞は最新情報に価値を置いているものだから、ひらがなのみの新聞が出てきたり、漢字を読める人が増えたことで衰退してしまった。結果的にたった六、七年しか創られていない。あと外国人にウケなかったから美術的価値が低く見られ、美術館にも出てこない。どう考えても好みなのに、これまで知らなかったのも納得がいく。


最初の錦絵新聞は、1874年(明治7年)7-8月ごろに発行された。東京の版元「具足屋」が東京日日新聞の記事を題材に、落合芳幾の錦絵にふりがなつき解説文を添えて錦絵版の「東京日日新聞」として売り出したものである。

Wikipedia「錦絵新聞」より

錦絵新聞は東京日日新聞から始まったというので、今日は東京日日新聞を少し見ていこう。浮世絵は国立国会図書館デジタルデータベースより。


創刊号:レイプされるか殺されるか

一ケイ斎芳幾//画 山々亭有人//〔文〕『東京日々新聞 第一号』,具足屋. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1302897 (参照 2023-05-08)

旅をしている僧が家にやってきて、宿にさせてくれというので夫のために読経をしてくれるなら……と承諾。すると妻を襲おうとするので拒否。刃物で脅すも拒否。ではさようなら。と殺害されてしまう。貞操を守り命を捨てる健気さに新政府も胸を打たれ見舞金を出した。

殺人や妖怪などの刺激強めコンテンツが多い錦絵新聞だが、創刊号から飛ばしている。首を刺された妻の表情が痛々しい。手の動きもリアルで、相手の体でどこでもいいからなんとか掴める場所を掴もうとしている感じがすごい。このまま爪を立てて食い込ませて肉をかきむしってやりたいだろうな。


八百五十一号:小鳥かと思ったら幽霊だった

一ケイ斎芳幾//画 転々堂主人//〔文〕『東京日々新聞 八百五十一号』,具足屋. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1302932 (参照 2023-05-08)

秋の暑い日に打ち水をして草に水が滴るのを見て「会者定離だ」と鬱々してきたので座敷に篭る。酒を飲んでいたら外から音がする。小鳥かなと見ると、久しく会っていなかった義弟であった。それはちょっと前に病死したと知らせがあった人だった。「影は千種の中に消え虫の音ばかりぞ残りける」

幽霊の軍服と男の和服のコントラストがいい感じ。男のめっちゃビビってる顔に笑ってしまう。「うわ!」「びびらせてごめん」みたいな。義弟は病死していると書いてあるから、死ぬときこんな格好してないだろと思うんだけど、なんでこんな戦死したような服装にしたんだろう。上半身の衣装がやたらかっこいい。


八百四十九回:盛大に祝った

ケイ斎芳幾//画 転々堂主人//〔文〕『東京日々新聞 八百四十九号』,具足屋. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1302931 (参照 2023-05-08)

日本が清国と和議したという吉報を得て親戚も集めて祝ったよ。

腹から国旗出したのかと思ったら室内に飾ってるのが被っているだけらしい。わざとだろこれ。ちょっとマジック感があって楽しいじゃん。今回見た中でも圧倒的に文字数が少ない。なんか刺激が足りない気がする。これを取り上げようと決めた会議を聞きたい。


六百八十九号:彰義隊七回忌

落合芳幾//画 高畠藍泉//〔文〕『東京日々新聞 六百八十九号』,具足屋. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1302914 (参照 2023-05-08)

戊辰戦争にて解散した慶喜警護役の彰義隊が七回忌を迎えました。

新政府軍は彼らの死体を腐るまで放置するなど酷い扱いをしたため、逆に庶民にとっては英雄扱いされた。なのでちょっとかっこいい死に様。血の配置が綺麗だし、柱に寄りかかっている様も片足が上にあがっているのもかっこいい。


八百六十一号:三つ子が生まれて名前をつけた


一ケイ斎芳幾『東京日々新聞 八百六十一号』,具足屋. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1302934 (参照 2023-05-08)

三つ子姉妹を産んだ夫婦が、子供に名前をつけようと物知りに話を聞きにいくと、昔いた立派な車引きの三つ子に因んで「おまつ」「おうめ」「おたけ」と命名。車関連の職につくなどして人生いい感じになるよ。県庁が若干の養育費を出しました。

ここの車引きは菅原伝授手習鑑に出てくる三兄弟「松王丸」「梅王丸」「桜丸」のことである。松梅桜ではなく松梅竹にしたのはなんでだろう。まあ、松梅ときてなぜ桜?ってのは思ってたけど。

この絵はほんわかしていてかわいい。高い高いされててキャイキャイしてるのも、寝ているのも家族〜て感じだ。三人も生まれたらこんな平和な時間少なそうだが。犬もおとなしいし。後ろの和傘が車輪っぽい。


七百五十四号:芸妓VS炭売り

一ケイ斎芳幾//画 転々堂主人//〔文〕『東京日々新聞 七百五十四号』,具足屋. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1302923 (参照 2023-05-08)

炭団売りの婆あの訛りと風貌を見て、つい笑ってしまう芸妓。すると婆あは芸妓の胸ぐらを掴み「何がおかしいんじゃ。お前が着飾るのも自分が炭で顔を黒くするのも生きていくためのやり方だろう。お前のような水商売を自分の娘にさせまいと嫁がせ、こうやって稼いだ金を娘の仕送りにしとるんじゃ。」と言って、また炭団を売りに行った。

風俗で説教する奴みたいな括りかと思ったら違った。まともな説教だった。芸妓側の反論も聞きたかったな。親に勝手に入れられたんじゃ、若い女なら綺麗にしてお金稼いで、その中でいい人を見つけて嫁ぐ方がいいだろみたいな。芸妓のイメージ花魁と混じってるかもしれん。

着飾り方の違いで芸妓の方が優位に見えるけど、文章を読むとそんなことなくて、ぱっと見と読了後で見え方が変わるのが面白い。犬が婆あに加勢しているかのように吠えていて、先ほどの三つ子の犬もそうだが、作者の気持ちに都合よく使われている。


ささささっと見て回ったが、錦絵新聞らしいナンセンスなものをあんまり取り上げられなかったな。刺激が足りないというか。でも殺人系って絵でも見たくない人多そうだし、これでいいか。三つ子のやつは「こういうニュースだけ見ていたい」系統でやっぱりかわいい。

今回は東京日日新聞縛りでやったけど、見慣れてきたらそれ以外も触れていきたい。



こういう系の話が好きな方は↓をどうぞ。

次回更新 5/22:引き続き錦絵新聞回
※だいたいリサーチ不足ですので、変なこと言ってたら教えてください。気になったらちゃんと調べることをお勧めします。


めでたし、めでたし。と書いておけば何でもめでたく完結します。